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今回,ご紹介する1冊は,S・R・ワート『温暖化の<発見>とは何か』(原題:The Discovery of Global Warming, 2003)(増井耕一・熊井ひろみ 共訳,みすず書房・刊)である.
著者は,アメリカ合衆国の科学史家で,アメリカ物理学協会の物理学史センターのセンター長を30年以上務めた.物理学・天体物理学の分野で博士号を取得し,天文台に勤めていたが,30歳を迎える手前で科学史の研究に興味を転じ,以来,現代科学史の分野で多くの著書・編書を著しているが,本書は彼の代表作の一つとなっている.
本書は,以下の章立てで,温室効果ガスが地球温暖化の原因であるという説が科学者にいかに受容され,その危機がどのように認識されてきたかを明らかにしている.「地球温暖化」についての入門書として読むこともできれば,ある自然科学の命題の解決に気象学者がコツコツとデータを集めて真実を発見するまでのプロセスを追うドラマとしても読める.また,地球環境問題には国際的な政治問題との絡みが不可避であることも認識させられる1冊である.
序文の最後に紹介される協力者の中に二人の日本人科学者の名前が見える.海岸工学分野の読者はきっと興味を惹かれるに違いない.お一人は数値モデルによる大気大循環の研究で知られる荒川昭夫カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)名誉教授,そしてもう一人は, 2021年10月にノーベル物理学賞に選ばれた真鍋叔郎米国プリンストン大学上席研究員である.日本人科学者のノーベル賞受賞の知らせはコロナ禍で閉塞感が漂う中にあって,ひときわ明るい話題で,かの賞とは無縁だと思い込んでいた土木工学者にとっても大きな夢を与えてくれる朗報であった.
眞鍋氏らの受賞は,温暖化予測でCO2の影響を数値化するモデルを構築したことが評価されたものであるが,1960年代に書かれた論文の内容はもはや現実になりつつあり,その先見の明に驚かされるばかりである.そして,本書に描かれる科学者たちのライフワークは,グローバル社会や共生社会における先駆けの取り組みであるようにも思われるのだ.
関連する参考図書や地球温暖化についてのデータベースへの入り口へのリンク先も案内されている.土木学会誌2014年4月号の企画記事「特集 異常気象と激甚化する災害を考える」の中でも,関連書籍の1冊として推挙された.
https://www.msz.co.jp/book/detail/07134/
気候変動による悪影響をできるだけ抑制・回避し,また正の影響を活用した社会構築を目指す施策(気候変動適応策)を進めるために参考となる情報をわかりやすく発信するための情報サイト
https://adaptation-platform.nies.go.jp/index.html
在籍するプリンストン大学での記者会見では,「受賞に驚くとともに光栄なことと感じています」と喜びを語られた.