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おすすめ書籍第十八回

おすすめ書籍第十八回

  • 2020年12月29日
  • 本の紹介者:川崎浩司((株)ハイドロ総合技術研究所)

書籍情報

  • 書名   ベルヌーイ家の遺した数学
  • 著者   松原望
  • 出版社  東京図書
  • 出版年  2017年
  • 図書番号 978-4-489-02264-7

http://www.tokyo-tosho.co.jp/books/978-4-489-02264-7/

紹介記事

 土木学会誌2018年10月号の「覚えよう!土木偉人」に,水力学(流体力学)を提唱した研究者であるダニエル・ベルヌーイについて紹介させていただきました.参考にした書籍の一つが,「ベルヌーイ家の遺した数学」(東京図書)で,第18回「海岸工学にまつわる本の紹介コラム」でも取り上げさせていただきます.

 本書は4章構成となっており,第1章では「ベルヌーイ一家」,第2章では「ヤコブ・ベルヌーイ」(1654~1705),第3章ではヤコブの弟である「ヨハン・ベルヌーイ」(1667~1748),第4章ではヨハンの子である「ダニエル・ベルヌーイ」(1700~1782)と, ベルヌーイの天才家系について,数式を交えながら分かりやすく説明されています.

 土木学会誌「覚えよう!土木偉人」では,父ヨハンとの確執,ベルヌーイの定理の逸話など,ダニエル・ベルヌーイの生涯について書かせていただきましたが,ここでは,一般的にあまり知られていないダニエル・ベルヌーイについて紹介します.海岸工学にまつわる本の紹介となっていませんが,数学者,物理学者だけでない経済学者としてのダニエル・ベルヌーイの偉大さを感じると思いますので,ご容赦ください.

  さて,皆さん,下記の「セント・ペテルブルグの逆説(サンクトペテルブルクのパラドックス)」をご存じでしょうか?

理想的な硬貨(表の確率1/2)を,表が出るまで投げ続ける.賭けの参加料は10,000円とする.
1回目で表が出れば2円,2回目であれば4円・・・,\( n \)回目であれば\( 2^n \)円を受け取る.
この賭けに参加すべきかどうか?

  この賭けから得られる金額の期待値を計算すると,「無限大」となります.よって,参加料が いくらであっても 賭けに参加した方が得することになります.具体的な計算については本書をお読みください.あるいは,ご自身で解いてみてください.

  ダニエル・ベルヌーイは,この逆説を解決するために,「お金の精神的価値」(現在の用語では,「貨幣の効用」)の概念を導きました.具体的には,「ある財の増加から得られる限界効用(満足度)は,その財の保有量の増加に伴い,次第に低下していく」という「限界効用逓減の法則」の論理を導入しました.
 もう少し分かりやすく説明すると,10円から1円増えた場合と100,000円から1円増えた場合で,同じ1円に対する効用の増加分(限界効用)は後者の方が小さいといえます.
 この論理により,「セント・ペテルブルグの逆説(サンクトペテルブルクのパラドックス)」を見事に解決することができました.

 ダニエル・ベルヌーイは,流体力学におけるベルヌーイの定理の提唱だけでなく,経済学の基礎までも築いた素晴らしい天才学者であるといえます.