土木学会誌2018年10月号の「覚えよう!土木偉人」に,水力学(流体力学)を提唱した研究者であるダニエル・ベルヌーイについて紹介させていただきました.参考にした書籍の一つが,「ベルヌーイ家の遺した数学」(東京図書)で,第18回「海岸工学にまつわる本の紹介コラム」でも取り上げさせていただきます.
本書は4章構成となっており,第1章では「ベルヌーイ一家」,第2章では「ヤコブ・ベルヌーイ」(1654~1705),第3章ではヤコブの弟である「ヨハン・ベルヌーイ」(1667~1748),第4章ではヨハンの子である「ダニエル・ベルヌーイ」(1700~1782)と, ベルヌーイの天才家系について,数式を交えながら分かりやすく説明されています.
土木学会誌「覚えよう!土木偉人」では,父ヨハンとの確執,ベルヌーイの定理の逸話など,ダニエル・ベルヌーイの生涯について書かせていただきましたが,ここでは,一般的にあまり知られていないダニエル・ベルヌーイについて紹介します.海岸工学にまつわる本の紹介となっていませんが,数学者,物理学者だけでない経済学者としてのダニエル・ベルヌーイの偉大さを感じると思いますので,ご容赦ください.
さて,皆さん,下記の「セント・ペテルブルグの逆説(サンクトペテルブルクのパラドックス)」をご存じでしょうか?
理想的な硬貨(表の確率1/2)を,表が出るまで投げ続ける.賭けの参加料は10,000円とする.
1回目で表が出れば2円,2回目であれば4円,・・・,\( n \)回目であれば\( 2^n \)円を受け取る.
この賭けに参加すべきかどうか?
この賭けから得られる金額の期待値を計算すると,「無限大」となります.よって,参加料が いくらであっても 賭けに参加した方が得することになります.具体的な計算については本書をお読みください.あるいは,ご自身で解いてみてください.
ダニエル・ベルヌーイは,この逆説を解決するために,「お金の精神的価値」(現在の用語では,「貨幣の効用」)の概念を導きました.具体的には,「ある財の増加から得られる限界効用(満足度)は,その財の保有量の増加に伴い,次第に低下していく」という「限界効用逓減の法則」の論理を導入しました.
もう少し分かりやすく説明すると,10円から1円増えた場合と100,000円から1円増えた場合で,同じ1円に対する効用の増加分(限界効用)は後者の方が小さいといえます.
この論理により,「セント・ペテルブルグの逆説(サンクトペテルブルクのパラドックス)」を見事に解決することができました.
ダニエル・ベルヌーイは,流体力学におけるベルヌーイの定理の提唱だけでなく,経済学の基礎までも築いた素晴らしい天才学者であるといえます.