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おすすめ書籍第二回

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おすすめ書籍第二回

書籍情報

  • 第2回 2013年12月
  • 書名  海洋の波と流れの科学
  • 著者  宇野木早苗・久保田雅久
  • 出版年 1996年
  • 出版社 丸善,380p.
  • 本の紹介者:宇野宏司(神戸市立工業高等専門学校)

http://www.press.tokai.ac.jp/bookdetail.jsp?isbn_code=ISBN978-4-486-01380-8

紹介記事

今回ご紹介するのは,宇野木早苗先生・久保田雅久先生の『海洋の波と流れの科学』である.海岸工学というより海洋物理学の「読み物」という位置づけなのかもしれないが,普段あまり目に触れることのない海の姿の不思議と魅力をシンプルな語り口(著者は大阪人ではなさそうです)で伝えてくれる良書であり,海のことを広く知るにはもってこいの1冊ではないかと思われる.私と本書との出会いは,大学の学部時代,まだ「カイコウ」の何たるかを知らない頃で,指導教官から「これ面白いよ」と与えられた時に遡る.ここに書かれている海の世界のことはそれまで知らなかったことも多く,文字通り「井の中の蛙,大海を知る」に至ったわけである.その後,教える側の立場となってからは,授業の冒頭で紹介する「今日の1冊」(という名の主観の押し付け)のラインナップから外せない1冊となっている.

さっそく,その内容に目を向けてみよう.本書は6つの部から成り立っている.

第1部では広大な太陽系の中に浮かぶ「水の惑星」地球がテーマ.海の誕生から現在の姿について語られた後,コリオリの力やロスピー波といった海水運動を理解するのに必要な基本事項が簡潔にまとめられている.本書では(以降の章でも共通して言えることだが)随所に数式が出てくる.しかし,初学者はその理解にこだわる必要はないであろう.豊富な図を見ながらイメージを膨らませ,そしてとりあえず式を飛ばしてでも,そのトピックを通読されることをおススメしたい.数式アレルギーによって,途中で試合放棄してしまうのは絶対にモッタイナイ.

つづいての第2部では,「身近な海洋波動」として,最も規則正しい潮汐(長い波)と最も不規則な風波(短い波)が取り上げられている.両者は海岸工学の分野においても主要なトピックであり,このあたりはどの教科書にも必ず取り上げられる内容であるが,本書の記述からは工学と理学の微妙なニュアンスの違いが感じられよう.ところで,ノルウェーの海洋学者スベルドラップとアメリカの海洋学者ムンクによる実用的な波浪の予報理論が,第2次世界大戦のノルマンディ上陸作戦に活用され,ここから海岸工学が発展したということは,この分野の多くの方がご存知のことと思われる(本書でも軽く触れられている).この作戦を描いた映画『史上最大の作戦』(1962年米国,原題:The longest day)も私の「おすすめ映画」(というこれは単なる趣味の押し付け)として,授業の中で紹介している.上映3時間を超えるこの大作の前半部で,わずかだが,連合国側が上陸のタイミングを決める会議のシーンがある.海岸工学が産声を上げた瞬間(大げさ?)をとらえたこの映画はまさに感動モノ.近頃ではDVDなどで安価に入手できるので,こちらも是非ご覧頂きたい.

話題を本に戻そう.第3部は,「破壊的な津波と高潮」である.本書が出版された当時(1996年),その後のスマトラ沖地震(2004年)や東北地方太平洋沖地震(2011年)でみられたような巨大津波による広域的・複合的な被害,ハリケーン・カトリーナ(2005年)やつい最近のフィリピンでの台風Haiyan(2013年)による大規模な高潮被害を誰が予想しえたであろう.将来,もし本書が改訂されるとすれば,この第3部の内容が大幅に変わることになるかもしれない.それでも,ここに書かれた内容は,津波と高潮という我が国にとって避けては通れない沿岸災害の基本事項についてわかりやすく記述されている.

第4部「沿岸の海水流動」,第5部「大きなスケールの波と渦」,そして第6部「大気・海洋相互作用」に関しては,海岸工学というよりも,むしろ海洋学の世界である.少なくとも学部レベルの「海岸工学」の授業では教わる機会がほとんどないのではないかと思われる.しかし,昨今,その切実さが増しつつある地球温暖化,資源・食料,環境汚染といった諸問題を解決するためには,全球スケールで海を理解することが不可欠であろう.そして,この壮大なスケールこそが地球最後のフロンティアたる海のもつ最大のロマンであり,魅力ではないかと思うのである.

以上が本書の大まかな内容である.各部・各章での記述は簡単なものを最小限に留めるかたちで記述されており,必要に応じて巻末の「注記」の欄で補足説明がなされている.それでも物足りず,より学術的に詳しく知りたいと思われる方は,宇野木先生の『沿岸の海洋物理学』(東海大学出版会,1993年刊)を紐解かれるとよいのではないかと思う.

本書は,300ページを超えるなかなか厚みのある本である.したがって一度に読まなくても,好きなところをかいつまんで読むだけでも良いだろう.著者には怒られるかもしれないが,リビングのソファで寝転びながらボンヤリと本書を眺めるのでも十分かもしれない.そうすることで海の不思議や魅力を(再)発見したり,ご自身の研究テーマの新たなヒラメキにつながるのならば,紹介者としてナミナミならぬ喜びである.

周辺情報

インターネットで配信されている動画を活用しながら,本書を読み進めることで,海のさまざまな物理現象をより深く理解することができる(かもしれない).たとえば,本書「4.10 潮の流れ」(pp.54-57)で,「日本でもっとも強い潮流」と紹介されている鳴門海峡(徳島県)については,渦の道・大鳴門橋架橋記念館「エディ」のwebサイト内にある「渦の道シアター」をご覧頂くことで,潮流のスゴさ(最大10ノット=5m/s)を感じとって頂けるだろう.

「渦の道」ヴァーチャルツアー

もっとも本が読むのが苦手という人にとっては,ヨットを買って実際に太平洋を横断してみるのが海を知るには手っ取り早いかもしれない.それも難しいという方には,お近くの港の博物館などに足を運ばれてはどうだろう? 以下に紹介する施設などでは,海をテーマにした企画・展示が常設されている.インターネットでチョット調べたら,「書を捨てて,博物館へ出かけよう!」(そんなこと言ったら,本企画担当者に怒られる??)

全国みなと博物館情報

日本の科学館めぐり(その他・検索に便利)

上記のみなと博物館情報にはリストアップされていないが,以下の施設も是非足を運んでみたい.

JAMSTEC 横浜研究所(神奈川)

JAMSTEC 国際海洋環境情報センター(沖縄)

北海道立オホーツク流氷科学センター(北海道)

東海大学 海洋科学博物館(静岡)

蒲郡市生命の海科学館(愛知)

海の博物館(三重)

赤穂市立海洋科学館・塩の国(兵庫)

(おまけ)きわめつけの出不精の方には,こんなのも.

JSTバーチャル科学館 「地球と気象」(ご自宅で)