English

サイトマップ

管理者ページ

おすすめ書籍第二十八回

おすすめ書籍第二十八回

  • 2025年11月19日
  • 本の紹介者:下園武範(東京大学)

書籍情報

  • 書籍        The Last Beach
  • 著者        Orrin H. Pilkey, J. Andrew G. Cooper
  • 出版社       Duke University Press
  • 出版年       2014年

https://read.dukeupress.edu/books/book/1947/The-Last-Beach

紹介記事

 私の紹介する書籍のタイトルは「The Last Beach」, 著者はOrrin H. PilkeyとJ. Andrew G. Cooperです.刺激的なタイトルには,沿岸利用や海岸保全のあり方を再考しなければ,「最後の砂浜」を目にする未来が遠からず訪れるというメッセージが込められています.著者の一人,Orrin H. Pilkey,による別の書籍が本コラムでも過去に紹介されていますので,そちらをお読みになった方は多くいらっしゃるかもしれません.本書は警鐘本としての性格が際立ち,力強い論調で読者に問題を提起する内容となっています.

 本書は,砂浜をめぐる問題を,事例と写真を交えながら,海岸の地質・地形学を専門とする著者らの視点からわかりやすく解説しています.砂浜を劣化・消滅させる要因として,土砂採取や構造物,養浜,海洋ゴミ,車両侵入,汚染といった問題が各章で詳しく取り上げられています.これらの問題を論じたうえで,砂浜の未来に関する著者らの予言と提言とともに本書は締めくくられます.特に著者らは,動的に変化する砂浜を固定する行為は、システムとしての“死”を招くという点を強調し,長期的視点から海岸保全事業の限界を指摘します.

 本書全体に通底しているのは「海岸工学」への批判です.著者らは,「海岸工学」に内在する問題点を指摘した上で,破綻した職能ではないか(Bankrupt profession?)と読者に問いかけます.理想と現実,複雑な自然現象,多様な利害や制度が交錯する狭間で問題に向き合うエンジニアにとっては,受け入れがたい批判であるかもしれません.しかし,批判が発展の源であるという点において、本書は海岸工学に携わるものにとって価値があると考えます.砂浜というシステムの本質を再確認し,現行のアプローチが持続的かどうかを考えるうえで,多くの気づきを与えてくれるはずです.