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おすすめ書籍第十九回

おすすめ書籍第十九回

  • 2021年1月11日
  • 本の紹介者:北野利一(名古屋工業大学)

書籍情報

  • 書名   灯台の光はなぜ遠くまで届くのか
  • 著者   テレサ・レヴィット
  • 訳者   岡田 好惠
  • 出版社  講談社(ブルーバックス)
  • 出版年  2015年
  • 図書番号 978-4-06-257939-1

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000194900

紹介記事

 

 1月1日,1月11日,11月1日,11月11日,いずれも1ばかりが並ぶ特別な日である.そのなかでも,11月1日は,灯台記念日であるそうです.1の形が,岬に悠然と立つ灯台を表しているのかな?と早とちりしそうになったのだが,わが国初の洋式灯台である観音埼灯台の起工日(明治元年,1869年11月1日)にちなんでいるそうです.今回紹介する本は,「灯台の光はなぜ遠くまで届くのか/テレサ・レヴィット著」です.海岸にたたずむ灯台は,海を航行する人だけでなく,多くの人々に親しまれる海のシンボルであり,子どもに海の絵を書かせたら,まちがいなく登場するアイテムであるにちがいない.その灯台に,強力なレンズが用いられるようになったのは,わずか200年前のことである.

 1823年,フレネル氏が発明した新型のレンズが,コルドゥアン灯台に用いられた.フレネル氏の発明が認められるまでの失意の繰返しと,病弱なフレネル氏が亡くなった後,フランス,イギリス,そして,アメリカにフレネルレンズが取り入れられていく苦難のドラマが記されている.「なんだ,海の話だけれど,海岸工学からズレてやしないかい?」というなかれ,この本を開いて,うれしくなるのは,フレネル氏が,エコール・ポリテクニークを卒業し,国立土木学校へ進学して,土木技術者として,そのキャリアを開始していることを知るのである.なお,ほぼ同時代に,ポテンシャル流での流速に関する複素関数論の関係式で有名なコーシーも,少し後 に同じコースを歩んでいる(日野先生は,コーシーを土木技術者になろうとしてなれなかった病弱青年と評している).

 1818年,フレネルが回折の論文を提出するまでは,光の粒子説が優勢で,光の波動説は,むしろ,劣勢というよりも異端のような扱いであったことも,この本を読めば,よくわかる.なお,防波堤の背後の幾何学的な影に,波が侵入する現象を回折として理解する海岸工学の立場からは,ちょっと驚きである.diffractionの言葉は,波の干渉で波のパターンが粉々になる様子を表しているのに対して,日本語の回折は,障害物の背後に入射波が回り込む様子そのものであることも興味深い.

 半無限防波堤に直角に入射する場合の回折係数 \(K_d\) について,ゾンマーフェ ルトの厳密解(1896)は,

$$ K_d^2 (x, y) \approx \frac{1}{2} \left[ \left\{ \frac{1}{2} – C\left(x\sqrt{\frac{2}{yL}}\right) \right\}^2 + \left\{\frac{1}{2} – S\left(x\sqrt{\frac{2}{yL}}\right) \right\}^2\right] $$

と近似できる.その右辺は,エッジが直線のフレネル回折の式(と同じ形式)に 一致する.防波堤の先端を頂点に,およそ放物線の形をした回折係数の等高線が 並ぶ様子は,海岸工学の技術者にとって見覚えがあるだろう.厳密解よりも上式の近似解を見れば,合点がいく.\(C\) ならびに\(S\)は,フレネル積分(Abramowitz and Stegun, p.300)であり,上式は,2がたくさん現れる美しい数式の1つである(1がいっぱいの後には,2がたくさんだ!).

 フレネル氏による光の回折の論文により,光の波動性は明確に位置づけられ, ようやくフレネル氏の努力が報われる.同じ時期に,フレネル氏は,友人の物理学者のアラゴ氏とともに,灯台の光源装置にとりかかることになる.当時の灯台には,非力な反射鏡が用いられていたのだが,集光性のあるレンズを用いようとすると,その重量が非常に負担となる.そのためにフレネル氏が考案したのは,いわゆる「階段式レンズ」である.国内の「参観できる灯台」にあがれば,そのレンズをじっくり愛でることもできる.また,11月1日の記念日に限って,のぼることのできる灯台もある.名古屋に住む私の近くにある野間灯台は,もうすぐ100歳を迎える.フレネルレンズが発明され,夜の航行安全が確保されて,200年.現在は,GPSなどの新しい航海機器の普及で,灯台は,その本来の役割を終えつつもあるそうです.この機会に,みなさんそれぞれのお近くの灯台を訪れて,応援してみてはいかがでしょうか?

灯台訪問の前に参考にしたいウェブリスト:
▶︎ 参観できる灯台 https://www.kaiho.mlit.go.jp/soshiki/koutsuu/toudai/kengaku.html
▶︎ 日本の灯台/小さい灯り https://lighthouse007.jimdofree.com/
▶︎ 灯台どうだい https://toudaifreepaper.jimdofree.com/
▶︎ 恋する灯台プロジェクト https://romance-toudai.uminohi.jp/
▶︎ 海と灯台プロジェクト https://toudai.uminohi.jp/
▶︎ オマケ)エッフェル塔に名前を刻まれた72人のフランスの科学者の一覧
 (夜 に輝くランドマークは,灯台さながらかな?)
 https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_the_72_names_on_the_Eiffel_Tower