東京大学大学院理学系研究科
地球惑星科学専攻 教授
海は,温室効果によって増えた熱のうちの8−9割を蓄えている。また,これまでに人間が放出した二酸化炭素のうち約4割を吸収している。もし海がなかったら,地球温暖化はこれまで以上に熾烈なものになったはずだ。一方で,熱と二酸化炭素を吸収することによって,海水温は上昇し,海は酸性化している。さらに暖められた海水の熱膨張と氷河の融解によって,海水面が上昇している。海水温の上昇,酸性化,海面上昇は,海流や物質循環,生態系,水産資源や社会にも,大きな影響を与えることが予想され,すでにその影響が現れている。
今年(2018年)夏に、我が国をおそった酷暑、豪雨、巨大台風などの気象災害の背景には、海の温暖化がある。全球的な表面海水温の上昇は、産業革命以降1度未満であるが、我が国の周囲の海水温はこの100年間で、0.8度から1.3 度上昇している。水温が高くなった海水から、水蒸気とエネルギーが供給されて、こうした気象災害が引き起こされたのだ。
本書は,2014年に刊行された「地球温暖化」(日本気象学会地球環境問題委員会編,朝倉書店)の姉妹書として,日本海洋学会によって編まれた。日本海洋学会は,海洋にかかわる物理,化学,生物,地学過程を,観測,モデル,実験などによって学際的に研究することを目的として1941年に創立された。本書でも地球温暖化と海との関係を,水温,海流などの物理過程,化学組成や生物生産など化学・生物過程,海洋酸性化,生態系や水産に対する影響,過去の気候変動における海の役割などについて,それぞれの分野の専門家がわかりやすく解説している。
海洋を研究する者は,すでに地球温暖化が実際に海の状態を変化させていることを,実感している。本書によって読者は,地球温暖化が気温の上昇だけではなく,海の問題でもあることを理解することができるだろう。