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おすすめ書籍第十三回

おすすめ書籍第十三回

  • 2017年10月18日
  • 本の紹介者:間瀬 肇先生(京都大学防災研究所)

書籍情報

  • 第13回 2017年10月18日
  • 書名   The Applied Dynamics of Ocean Surface Waves
  • 著者   Chinang C. Mei
  • 出版年  1989
  • 出版社  World Scientific
  • 図書番号 ISBN 9971-50-773-0, 9971-50-789-7 (pbk)

http://www.worldscientific.com/worldscibooks/10.1142/0752

紹介記事

助手として研究生活が始まり,山盛りの国内外の論文,いろいろな会議での数多くの発表論文を見るたびに,どの論文も立派に見え,自分の能力の無さを感じ苦しい思いをしていました.波の理論的研究に興味がありましたが,波動理論の本は難しく,数学力や基礎力不足のため誘導等ができませんでした.海岸工学の理論的基礎を確立したLonguet-Higgins, Phillips,Hasselman らの論文を眺めては,自分には無理だとあきらめの境地でした.

論文は長くても数10ページにまとめられたものであり,途中の誘導等が省略されているので,自分で誘導できなくてもしょうがない,ということがわかっていない状況でした.また,できれば日本語の本で勉強すれば良いと思っていましたが,日本の本は幅広いテーマを紹介するのが多く,概略をつかむという点では役に立ちましたが,理論を誘導できるようにする基礎力を養うには不十分でした.

ここで紹介する本は,MITのMei先生が1989年に出版したものですが,助手になって10年目に手にした本です.題名の通り,全編を通して海の波の理論が整然と書かれていました.それまでに手にした本に比べて分厚い本で,ページをめくれば数式がいっぱい載っていて,この本も読んでもわからないだろうと始めは思いました.しかし,大雑把に眺めていて,この本をしっかり読めば波の理論がわかるのではと思い,真剣に読むことにしました.その当時,海岸工学の分野では緩勾配方程式,放物型波動方程式,ブシネスク方程式,非線形シュレディンガー方程式,ザハロフ方程式,変調不安定理論等,興味深い波の理論の論文がたくさん出ており,紹介者もこれらに関連する研究をしていましたが,基礎的なことはあいまいなまま,見ようみまねで論文を書いていました.

このMei先生の本により波動理論の基礎が身についたと思っています.第1章はナビア・ストークス式から始まり微小振幅波理論へ,それまでに読んだ日本語の教科書とは雰囲気が異なる記述がされていました.第2章では遷移波の理論が書かれていますが,ここで多次元尺度法と解存在条件(Solvability Condition)によって波群の伝播方程式が誘導できることを初めて知りました.第3章では水深や流れがゆっくりと変化する場での波の理論,第4章では水深や地形が変化する場での長波理論,第5章と第6章は,特に湾や港での開口部でのエネルギー減衰も考慮した長周期波の理論,第7章は浮体と波の干渉理論,第8章は微小振幅波の粘性減衰,第9章は波の質量輸送,第10章は砕波によって生じる流れやラジエーション応力,第11章で非線形浅海長波理論が詳しく書かれています.第12章では非線形シュレディンガー方程式や変調不安定,マッハ反射等,それまで見たことのない理論が詳細されていました.最後の第13章では,波によって生じる多孔質弾性体地盤の応力と間隙水圧の理論が書かれています.世界一流の先生は,レベルが違うことを改めて感じました.

これでもかこれでもかと最新の理論が紹介されていますが,真剣にトレースをすれば内容が理解できるように書かれていると思います.「思います」というのは,自分でトレースした(できた)のはこの本のほんの一部だけだからです.今でも私にとって難しい本です.これだけの本を書けるMei先生を尊敬するばかりです.できれば留学をして教えを請いたかったと思っていますが,一方で,教えについていけなかったとも思います.他にも自分には到底及ばないと思う先生はたくさん居られまして(上を見るときりがないです),劣等感を抱きながらも研究してきましたが,2017年3月に退職して気が楽になりました.やれやれです.私は良い本と出合うのに10年かかりましたが,良い研究テーマと良い本,良い先生を早く見つけられれば,研究も楽しくなると思います.