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おすすめ書籍第五回

おすすめ書籍第五回

書籍情報

  • 第5回 2014年8月
  • 書名  海洋の科学 ― 海面と海岸の力学
  • 著者  ウィラード・バスカム(吉田耕造,内尾高保 訳)
  • 出版年 1977年
  • 出版社 河出書房新社; 288p.,ISBN-10: 430971417X,ISBN-13: 978-4309714172
  • 本の紹介者:栗山善昭((独)港湾空港技術研究所)

紹介記事

この本が企画にふさわしい書籍なのか,答えを出しかねているうちに,原稿の期日はあっという間に過ぎてしまった.今も,疑問には思っているが,しかし,読んでいただきたい書の一つに,是非,挙げておきたいという想いを押さえることができずに,本書を紹介することとした.

今回紹介させていただく「海洋の科学」は,私が運輸省港湾技術研究所(現,(独)港湾空港技術研究所)に1983年に配属になってまもなく,上司に勧められて読んだものである.当時のしおりがまだ本に挟まっており,それには,ハナ・マンドリコワ選手の写真が載っている.

話を本に戻すと,タイトルは「海洋の科学」となっているものの,内容は海岸工学そのものである.記述されている内容は,風波,浅海波,高潮,潮汐,副振動,津波,波浪観測,海浜流,海浜,沿岸漂砂と波力であり,海岸工学の教科書とほぼ同じ内容である.

ただし,本書と教科書とはある点で大きく異なっている.それは,本書には式がほとんど無いことである.本当に少ない.わずか八つである.

本書の他の特長としては,ちょっとした小話,エピソードが数多く挿入されていることである.30mにも及ぶ巨大な暴風波を目撃した船長達の話や1960年のパキスタンにおける7mの高潮の話,さらには,カリフォルニアのHalf Moon Bayにおける1946年のアリューシャン地震による高さ5mの津波の様子などが興味深く記述されている.また,著者のBascomさんが1945年に加わった世界初(?)の本格的な砕波帯内現地観測の様子も生き生きと描かれている(かなり無謀な調査であったようだが).

以上のように,式が少なく,エピソードも多いことから,本書は,海岸工学を知らず知らずのうちに楽しく学ぶための格好の書と言える.

ただし,原書が発行されたのが1964年であることから,エピソードがやや古いこと,および,縦書きであるため数字が読みにくいことが強いてあげれば難点である(式は少ないものの,数字はかなり多い).しかしながら,本書のおもしろさはそれらの難点を凌駕していると言える.

二十年前にアメリカに留学したときに,留学先の職員の一人が本書の原書を持っていた.この本を原書で読んだら,内容が自分にとってなじみが深く理解しやすいであろうから,英語の勉強になるのではないかと思い,留学中ならびに帰国後もしばらく本屋で探してみたけれども,残念ながら見つけることができなかった.そうこうしているうちに,原書のことは忘れてしまったが,今回,本原稿を執筆するにあたってネットで調べたところ,アマゾンでrevised edition(参考情報 1)を販売していた.私自身はまだ購入していないが,興味ある方は,どうぞ試してみて下さい.

英語の勉強と言えば,今から二十数年前に,英語の勉強と海岸工学,とりわけ私の専門である漂砂の勉強のために,研究室にあった英語の書籍を何冊か読んだ.その中でもよく読んだのが,Paul D. Komarの”Beach Processes and Sedimentation”(参考情報 2)である.この本は,タイトルからもおわかりいただけるように砂浜の変形を中心にした本である.

よく読んだ理由の一つは,私の乏しい英語力でも内容が比較的良く知解できたことと,図面が見やすかったことである.他の文献に記載されている図面については,そのまま使用している図面がある一方で,修正して使用している図面も多くあり,Komarさんの読者に対するサービスがうかがえる.

この本は,私だけではなく,研究室の他のメンバーもよく読んでいたことから,first editionはぼろぼろになってしまい,現在は,second editionを使用している.

図面がきれいと言えば,Richard A. Davis, Jr. の”The Evolving Coast”(参考情報 3)もお勧めである.内容は,沿岸域の様々な地形(湿地,干潟,砂浜,砂丘,岩石海岸など)とその変形が主体であり,波や潮汐の説明があるにもかかわらず,式の数はなんと二つ.カラー版であり,図面だけでなく,写真もとてもきれいなので,眺めているだけでも楽しくなる本である.

実は,私が留学しているときに,著者のDavisさんの講演を聞く機会があった.その講演では,Davisさんが自分で撮影した非常にきれいな写真を何枚も紹介してくれていたので,講演後にきれいな写真を取るコツを聞いたところ,写真をたくさん撮ることだ,との答えが返ってきた.今でこそ,コストを気にせずにデジカメで数多くの写真を撮ることができるけれども,当時は,それなりの出費の覚悟が必要だったのではないだろうか.そのような思い入れを持った人なので,図面や写真の選定にはこだわったのではないかと思う.

なお,この本とBascomさんの原書は,Komarさんの前述の著書で海岸工学における一般向けの参考書として紹介されている.

話が少々発散してしまったけれども,ここで紹介した本の一冊でも興味を持っていただければ幸いである.

参考情報 1: Bascom, W. (1979): Waves and Beaches – The Dynamics of the Ocean Surface, Revised edition. Anchor. 366p., ISBN-10: 0385148445, ISBN-13: 978-0385148443 ( http://www.amazon.com/Waves-Beaches-Dynamics-Ocean-Surface/dp/0385148445 )

参考情報 2:Komar, P.D. (1998): Beach Processes and Sedimentation, 2nd Ed. Prentice Hall. 544pp. ISBN 0-13-754938-5

参考情報 3:Davis, R.A., Jr. (1997): The Evolving Coast. Scientific American Library. 233pp. ISBN 0-7167-6021-5.