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論文番号 101
著者名 小野信幸,入江 功,高畑栄治
論文題目 海浜断面の安定化機構に関する実験
討論者 加藤俊夫(日本工営(株)名古屋支店
質疑
図-1において,平衡(最終)断面となったときの粒度分布
回答
断面全域の粒度分布については,測定しておりませんのではっきりした事は言えませんが,塗料により海浜断面を固定化した際に気づいた点についてお答えします.
1.前浜〜砕波点付近:塗料の浸透性が良く,塗料が断面に約2cm程度染み込んだ.
2.砕波点〜沖浜領域:水深が深くなるにつれ,塗料の浸透性が悪くなり,25cm以上の
水深の位置では,5mm程度しか染み込まなかった.
以上の点から判断すると,非常に大雑把ではあるが,砕波帯内では粒径が粗で,沖浜帯では水深が深くなるにつれ,徐々に細かくなっていたと考えられます.
討論者 高山知司(京大防災研)
質疑
(1)固定床にする方法を教えて欲しい
(2)空気が閉じ込められて,波をかけたときに固定床が壊れることはなかったか
回答
(1)の回答
[固定床化の手順]
(1)砂れん等の微地形を壊さない様に水槽の水を静かに抜く.
(今回の実験では約12時間かけて排水した.)
(2)水を抜いた状態で丸2日乾燥させる.
(3)水槽のガラス窓に塗料がつかないようテープや古新聞を側面にはる.
(4)ラッカースプレーを吹き付け,表面を固める.(2時間ほど間をあけて2度行う)
(5)速乾性の塗料を塗りこむ.(2時間ほど時間をあけて6度行う)
(6)側面にはった新聞やテープをはがす.
(7)海浜断面と水槽側面の境界付近は弱いため,シリコンを塗って強度を補強する.
(2)の回答
(7)までの作業が終わった後,水槽に再び水を入れるのですが,その際できるだけゆっくりと注水するようにしました.閉じ込められる空気に対する対策としては,断面の数ヵ所に裁縫用の針で穴を空けておきましたが,注水している間に空気が漏れていたのは側壁付近のシリコンを塗ったところでした.その後の実験期間中(約3週間)は,空気が漏れている箇所もなく,波をかけても壊れることはありませんでした.
しかし,この実験は学生の卒業論文の一環として行ったのですが,卒論が終り水槽内から水を抜いて2ヶ月程そのままにした後で再び水を入れると,2〜3日後には内部の空気が膨張して実験が不可能な状態となりました.
従って,今回の固定断面を作成する方法では,作成過程で長い時間乾燥させ砂の空隙に多量の空気が入ると実験時に壊れやすくなると考えられます.
討論者 栗山喜昭(運輸省港湾技術研究所)
質疑
<コメント> 砕波帯外の緒量の検討だけでなく,砕波帯内の検討もぜひ行っていただきたい.
回答
ご指摘の通り,本研究では現在のところ砕波帯外(沖浜帯)の検討を中心に行っています.その理由は,歪み砂れんマット(海岸工学論文集45巻の506〜510ページ)等を用いて,砕波帯から沖への土砂の流出を防ぐことで海岸侵食を防止することを大きな目標としているためです.本論文はその一環として,沖浜帯で重要となる砂れん上の漂砂現象や海浜断面が安定する条件を調べたものです.今後は本研究で得られた沖浜帯の漂砂の特性を踏まえ,砕波帯内の現象も詳細に検討していきたいと考えております.
論文番号 102
著者名 武若 聡,入江 功,内田雅洋,坂本寛和,渡辺桂三,小野信幸
論文題目 歪み固定砂れんによる岸沖漂砂の制御とその最適寸法・形状に関する検討
討論者 辻本剛三(神戸市立工業高等専門学校)
質疑
砂がブロック内に堆積すると,効果が減少するのではないか? また,砂がブロック内に堆積後は,流れの条件に見合った砂れん形状になる恐れがあるのではないか?
回答
砂れんブロック内への砂の堆積は,本研究で提案する手法を現地に適用する際に検討しなければならない問題点の一つであります.この点については,この手法の適用対象の選定と併せて検討しなければなりません.すなわち,この手法が,荒天時,中庸な波候時,等のどの場面の対処に重点を置くのか,という点についての指針を定めると同時にその制御効果を明らかにする必要があります.これらが明らかになれば,ある場面の対処に最適となる条件を課したブロックに,この条件外の波浪が砂の堆積をもたらす可能性はあります.しかしながら,通年の時間スケールで考えた場合には,このことが本手法の制御効果を損ねることはないと考えています.
一方,ブロック内への砂の堆積の原因が,流れにより運ばれた砂の沈降にある場合には,これを防ぐことは原理的に困難であります.もっとも,このようなことが生じる恐れのある領域にブロックを設置することは,計画段階で回避することになります.
討論者 重松孝昌(大阪市立大学)
質疑
(1)実験室内で得られた結果・知見を直ちに現地スケールで適応できるか?
(2)計算では砂れん形状の相異による剥離点位置の変化を考慮できるか?
回答
(1)
この質問では相似則について聞かれていることと思います.周知のように,現時点では砂粒の運動についての確固たる相似則は確立されていません.従いまして,厳密にはプロトタイプの実験を行い,本研究で提案しているアイデアの有効性を確かめる必要があります.しかしながら,砂れんの形状を特徴付ける量(砂れん波長,砂れん波高)と波動運動の規模(水粒子軌道径)の間に,実験室スケール〜現地スケールで共通の関係が見られるとの報告が多数存在します.このことより,本研究で得られた実験室内での結果・知見は,少なくとも現地スケールでの検討の指針になると考えています.
(2)
論文中で扱った砂れん以外の計算については,現時点で充分な検討を行っていないのでこの質問に正確に回答することはできません.ただし,論文中に示した計算結果では,振動流の位相毎に流れの剥離位置が変化しています.このことから判断すると,計算プログラムにて特別な措置をとらなくても,砂れん形状の相異による剥離点位置の変化の再現は可能であると考えています.
論文番号 103
著者名 田中 仁・鈴木 正
論文題目 海浜粒度組成変化の予測モデル
討論者 佐藤慎司(建設省・土木研究所)
質疑
仙台海岸での計算結果で,河口付近の粗粒化がうまく再現されているが,河口からの供給土砂量の与え方との関係を教えて欲しい.
回答
河口部ので供給土砂量およびその粒度組成に関する実測値があるので,それを河口部のメッシュで与えている.それが漂砂下手に伝搬している.
論文番号 104
著者名 喜岡 渉,Md.Akter Hossain,柏原謙爾
論文題目 界面の粘性を考慮したBoussinesq方程式によるトレンチ内の底泥の挙動解析
訂正
式(10)〜(17)のzの範囲を示す括弧内について.ζ,ξの前にεを挿入.
討論者 志村豊彦(東亜建設工業(株) 技術研究所水理研究室)
質疑
(1)実験条件や写真を見ると,底泥の含水比はかなり大きいものと思いますが,トレンチ内で攪拌した後に所定の泥厚に達したとき,造波開始前の底泥の含水比をお教え下さい.
(2)実験で観察された底泥の巻き上げ状況をお教え下さい.
回答
(1)トレンチ内に敷設した底泥の密度分布は水深方向に対して一様ではなく,また,それを乱すことなく諸元について計測することはできません.そのため,底泥の諸元はすべてトレンチ内で攪拌する前の層平均の測定値をもとにしました.含水比については比重1.19g/cm3のとき1.81となります.計算に必要な底泥の動粘性係数値は層平均密度のみからFodaら(1993),Ting・Lemasson(1996)の実験結果より求めています.
(2)トレンチより越波した底泥が表面波の作用を受けてトレンチ内へ押し戻される際にトレンチ端部に発生した渦によって巻き上げが発生します.したがって,トレンチ直背後に鉛直壁を設けた場合のトレンチ後端を除き,界面変動の大きいケースではトレンチの前後端において底泥の巻き上げを観測できます.なお,本研究の実験では確認されませんでしたが,界面の変動がより大きい場合には界面波の砕波によっても巻き上げが生じる可能性があります.
論文番号 109
著者名 宇多高明・住谷廸夫・谷澤肇・大谷靖郎・厚坂祐次
論文題目 展開座標を用いた汀線変化モデルによる親沢鼻砂嘴の地形変化予測
討論者 首藤 伸夫(岩手県立大学 教授)
質疑
(1)親沢鼻の対岸に存在する同様の砂嘴地形の弁天鼻は、どのような状況にあるのでしょうか。
(2)侵食対策として、西側の堆積域からの少量のサンドバイパスで充分であると考えられる。将来的な海浜形状として、図−9(3)のような突堤の両側で段差のある形が望ましいと考えているのでしょうか。
回答
(1)対岸の弁天鼻では、現在はコンクリート護岸で固められた状況にあります。なお、以前の状況については、調査を行なっていないため不明であります。
(2)侵食量が年間で100m3程度であることから、ご指摘のようにサンドバイパスで対応が可能であると考えられます。また、海浜形状に関しても自然な形が望ましいと考えていますが、侵食域ではウィンドサーフィン等のレクリエーションが盛んなこと,維持・管理等の問題から、ある程度広い砂浜を早急に回復する対策として選定しました。
論文番号 110
著者名 田島芳満,清水琢三,関本恒浩,渡辺晃
論文題目 等深線変化モデルの改良とその適用性について
討論者 椹木亨(大阪産業大学)
質疑
3D−LINEに港口埋没などの漂砂捕捉項が入れられるか? 同様に突堤などの海岸構造物による漂砂捕捉項は入れられるか?
回答
構造物の沖側を通過する漂砂量などの捕捉項は,既往の等深線変化モデルと同じレベルで考慮することが可能です.ただし,3D−LINEモデルは,あくまでも等深線と平行方向の漂砂移動のみを考慮して計算の高速化,安定化を実現させているため,現時点では海浜循環流などによる岸沖方向の漂砂移動を精度よく組み込むことができません.しかし,沿岸流が卓越する地点では3D−SHOREモデル(清水ら,1994)と非常に高い整合性を持つことが確認されておりますので,3D−SHOREモデルと3D−LINEモデルの接続によって海岸構造物近傍の局所的な地形変化と広域の地形変化を同時にかつ迅速に予測評価する事が可能であると考えられます.
討論者 山本吉道(株式会社 アイ・エヌ・エー)
質疑
移流項を取り,さらに定常化した海浜流モデルであれば,放物型波浪モデルと同じ計算スピ−ドで処理が可能となります.15年程前には,このような海浜流モデルを用いた3次元海浜変形モデルを建設コンサルタントで用いておりました.このようなモデルですと複雑な海浜地形や構造物周辺では合わなくなってきますので,ほどなく使われなくなったのですが,貴モデルの精度等に着目して上述モデルとの比較を解説してください. 回答
当モデルの位置づけは,あくまでも等深線変化モデルであり,その意味ではバー地形が存在する様な複雑な地形条件による局所的な地形変化計算はその適用範囲ではありません.当モデルの最大の利点は移流項を省略して海浜流計算を高速化したことではなく,等深線と平行方向の沿岸流速成分のみを取り扱うことによって,地形の変化に伴うラディエーションストレスの変化を考慮しながら流速値を随時補正できることにあります.これによって高速かつ安定に長期的・広域的な海浜変形予測計算を行うが可能となっています.また,当モデルでは沿岸流場が卓越する場では3D−SHOREモデルと高い整合性を持つことが確認されていますので,そのような場所で3D−SHOREモデルと接続することによって複雑な場での地形変化計算の精度を高めることが可能であると考えられます.
討論者 山本吉道(株式会社 アイ・エヌ・エー)
質疑
日本海岸では冬季風浪による地形変化が顕著であり,吹送流の影響が無視できません.貴モデルに吹送流と沖向き漂砂を考慮した場合,どの程度の計算時間がかかるでしょうか? たとえば,沿岸方向20km,岸沖方向3km,予測期間20年程度ではいかがでしょうか?
回答
吹送流による漂砂移動については,その評価方法によって計算時間は異なると思われます.波による岸沖方向の砂移動や戻り流れによる沖向き漂砂は,渡辺ら(1984)の局所漂砂量モデルで評価する限りは,計算時間にはあまり影響がでません.計算時間は3D−SHOREモデルの数パーセント程度になります.さらに長期予測計算では,地形変化の履歴を考慮するための平面波浪場の繰り返し計算時間間隔を,より長く設定しても安定な計算ができますので,3次元海浜変形モデルに比べて計算時間をさらに短縮することが可能です.
論文番号 111
著者名 森 俊哉・田中 仁
論文題目 岸沖漂砂・沿岸漂砂に起因する汀線変動の分離
討論者 首藤伸夫(岩手県立大学)
質疑
(1)ここ10年,大きな変化が海浜に見られないとのことだが,それを継続させるための名取川からの供給量はどのくらいか.
回答
建設省の調査によれば,年平均1.0万m3との値が報告されている.
質疑
(2)航空写真から得た第二成分と,測量から求めたそれとは符号が違っているようだが,その原因は.
回答
時間変動を表すc関数がやはり逆の符号を持つ計算結果となっており,eとcのかけ算の結果としては同じ符号となるので,問題はない.
論文番号 115
著者名 横木裕宗,三村信男,佐藤圭輔
論文題目 主成分分析を用いた大洗港周辺の海浜地形変化解析
訂正
図-2と図-3が入れ替わっています.
討論者 匿名((株)アイ・エヌ・エー,海岸部)
質疑
(8)式の時間,場所関数に,水深データに合わせた任意直交関数を用いれば,2〜3項で90%以上の寄与率を期待できるようになり,条件によっては岸沖漂砂と沿岸漂砂各々による地形変化成分を精度よく分離できる場合が出てくるのですが,この分析法の場合は,三角関数による展開を考えていますので,数少ない項で高い寄与率の確保ができないのではないでしょうか?
回答
ご指摘の式で用いている,時間の関数と場所の関数は,それぞれ複素数に変換された水深データの共分散行列を固有値展開して得られるものですので,水深データに合わせた任意直交関数の組み合わせになっております.
討論者 北野利一(徳島大学)
質疑
主成分分析(経験的固有関数法)に「位相」を持ち込む手法を示している点で非常に興味深い.
時間−空間の2軸ともに任意に,データにfitするように決めるのが経験的固有関数の手法であるが,Hilbert変換を用いて,複素水深を作成する時点で,すでに時間関数をデータ長の1,1/2,1/3倍の三角関数あるいはそれらの線形和の関数として仮定したことにならないのか.
時間のデータ長の取り方で結果の良し悪しが決まるのでは?
回答
Hilbert変換を用いて複素水深の虚数部を求める際に,フーリエ級数展開を用いていますが,このことから水深データが時間方向に三角関数で分解できると仮定しているとは考えていません.むしろ,この様にして求めた複素水深にはすでに時間に関する位相差の情報が含まれており,このことが解析結果に何らかの影響を及ぼす可能性があると思っています.
時間データの取り方については,今後検討したいと思います.
論文番号 116
著者名 山下隆男
論文題目 現地観測データからみた海浜流場と海底地形の変動特性との関係
討論者 佐藤慎司(土木研究所)
質疑
NR型(非可逆的地形変形)の堆積もありますか?
回答
あると思います。桟橋の西側で計測していますが,図3からわかりますように東側は堆積していますので,ここではNR型(非可逆的地形変形)堆積が生じているものと思います。あくまでも推定ですが。
討論者名 清水琢三(五洋建設)
質疑
光学式砂面計(SPM-III型)による観測結果で高波浪時に急激な慎食,波浪低減後直ちに堆積して元に戻る砂面変化の観測結果を,本研究では復元性侵食と呼んでいる。討議者らの過去の同一計器を用いた観測結果でも同様の現象がみられたが,このような復元性侵食は計測機器による局所洗掘あるいは浮遊状態またはシートフロー状態になって濃度が小さくなったため光を透過してしまったためであると考えられる (清水ら1993)。したがって,正しい砂面を計測できていない可能性が高いことに留意すべきである。
その上で,復元性侵食(R型)を取り除き,長期的トレンドから砂面変動を把握することが望ましいと考える。
回答
光学式砂面計の計測限界については別途検討する余地があることは認めます。ただし,今回,復元性侵食(R型)と定義したのは「正しい砂面を計測できていない可能性」とは別の部分です。すなわち,「局所洗掘あるいは浮遊状態またはシートフロー状態になって濃度が小さくなったため光を透過してしまった」と思われる変化ではありません。強い離岸流が発生している場合にのみ観測された侵食を対象としています。強い離岸流が発生するのは,ストームの終わりに風向きが変化し,沿岸流が弱くなり離岸流が発生します。もし,ここで言っておられるようなメカニズムの計測誤差であれば,高波浪時,強い沿岸流の発生しているストームの最盛期にも発生するはずですが,図4の地形変化と沿岸流,離岸流の時系列データをみていただくとわかりますように,R型の変化はストーム最盛期には発生していません。
「浮遊状態またはシートフロー状態になって濃度が小さくなったため光を透過してしまったためであると考えられる」のであれば,これはシートフロー厚の計測に使えます。計測機器の問題を,新たな計測機器の開発に繋げることが重要だと思います。
論文番号 117
著者名 西嶌照毅、宇多高明、冨士川洋一、中辻崇浩
論文題目 風波による琵琶湖旧河口デルタの変形とバリアー形成の現地実測
討論者 佐藤慎司(建設省 土木研究所)
質疑
バリアーは養浜区域の養浜砂があふれ出して出来たもののように思えるが、そのバリアーが何故周辺区域の侵食をひき起こすのか?
回答
本文の表現は、一般論を述べたものであり(p.585)、周辺地域を養浜区域と読み替えていただき、バリアーの供給源は、本事例の場合では、漂砂供給側である養浜区域(周辺区域)、と理解して頂ければ幸いです。
討論者 栗山善昭(運輸省 港湾研究所)
質疑
西側の柳は、養浜砂に対してはヘッドランドとして機能したとあるけれども、養浜前の地形変化(侵食)に対してどの様に働いたか教えていただきたい。
回答
西側(養浜区域のほぼ西端)の柳の樹齢は2〜30年を経過しており、養浜が実施される以前から存在している。隣接の河口部には、以前には、大規模な河口砂州が存在し、この砂州の上に本柳群は存在したが、廃川に伴い砂州が波浪により侵食され後退し、かろうじて本柳群により侵食がほぼ止まっているものと考えられる。廃川以前、廃川後、養浜にいたる当柳群の機能を一言でいえば、河川で言う「隠し護岸」、海岸で言えば「隠し突堤(ヘッドランド)」と言えるのでは。
討論者 河田惠昭(京都大学 防災研究所)
質疑
野洲川の河口デルタは、この川の土砂の特性に従って形成されている。したがって廃川になると、そこにやって来る波で浜が形成されるはずである。養浜砂が荒く、波による波の形成とは合わない状況になっているのではないか。その差が侵食となって表れていると思われます。
回答
ご指摘のとおりです。当該区域の養浜砂は、廃川となった旧野洲川の河床材料を用いたものですが、養浜実施後の当地域での底質特性調べるために、隣接区域、さらに湖底、湖底から深さ1mの地点において現地で底質を採取したところ、養浜砂の中央粒径が0.45mmであるのに対して、他の地点や深さでは、平均中央粒径が概ね1.0mmを記録しており、養浜区域の粒径の方がご指摘に反して細かいようですが、確かに粒径が細かいことによって漂砂移動が従前に比べて大きくなったことが侵食の差となったものと予想されます。
討論者 田中仁(東北大学 田中仁)
質疑
河口砂州形成との関連で、バリアーの形成に興味がある。バリアーの高さは、波の諸元とどう関連しているのか?run-upとの関係を検討しているか?
回答
沖波波高の諸元が代表値で0.41m、バリアーの静水面からの高さが0.40m〜0.53mであり、現地での結果から、ほぼ、波高の1.0〜1.3倍程度が砂州高です。今回、run-upとの関係は検討しておりません。
論文番号 118
著者名 加藤一正,柳嶋慎一,千原佐介
論文題目 江津港(河口港)の航路埋没プロセスについて
討論者 野田英明(鳥取大学工学部土木工学科)
質疑
1968〜1970年,左岸導流堤の澪筋(現在の埋没箇所)の水深は−7〜−8mであった.
土師ダムの建設によって広島県に分水している.分水による影響もあるのではないか?
回答
1970年ころの深浅図が入手できていないので,当時の水深は確認できていません.
建設省土師ダム管理所のパンフレットと広島県土木部河川課のパンフレットによりますと,分水量は30万m3 /日(内訳:広島県上水10m3 万/日,広島市上水10万m3 /日,広島県工水10万m3 /日)です.これは,3.47m3 /sに相当します.江の川の計画高水流量は10,700m3 /s,年平均最大流量は4,000m3 /sですので,分水の影響は洪水時にはないと考えております.もともとの基本高水ピーク流量が14,200m3 /sのところを洪水調節によって3,500m3 /sをカットする結果が,現在の計画高水流量(10,700m3 /s)です.したがって,ピーク流量カットの影響のほうが大きいと思います.ちなみに,土師ダムでのカット量は1,100m3 /sです.
一方,洪水期ではない冬期,例えば,図−8に示した日平均流量データをもとに計算すると,1997年1月の月平均流量は76.87m3 /sになります.これに対する分水量の割合は4.5%です.分水の影響が全くないわけではないでしょうが,かって航路水深が−7〜−8mであったところが−4m以浅になるほどの影響があるとは考えられません.したがいまして,分水は航路埋没の主要な要因とは考えていません.
1975年以前には,航路埋没が生じている付近に河口砂州が形成されていました(図−3,4参照).昔は実質的な河口幅が狭かったのです.これに対して最近は,上流側に形成されていますので.航路埋没の生じている付近の河口幅は広くなっています.恐らく,直接的にはこの影響が大きいと考えています.つまり,河積が余り変化せず,幅が広がった分,水深が減少したのではないかと思います.ただし,当時の砂州が形成されていたところの断面図を持っていないので,現時点では確認できていません.
論文番号 119
著者名 宇多高明,加藤憲一,山形 宙
論文題目 斜め入射波条件下で生じる河口部上手側海浜の貯砂効果のモデル化
訂正
修正内容1
修正内容2
修正内容3
修正内容4
論文番号 120
著者名 和田尚大、田中仁、山路弘人
論文題目 河口砂州形状の算定式に関する研究
討論者 加藤俊夫(日本工営(株))
質疑
(1)図5の海側の粒径および勾配の時系列特性についてコメントを下さい。
回答
現地での砂を定期的に採取して粒径の調査を行うことはしていません。近隣の海岸では過去時系列が調べられていますが、ほとんど変動がみられなかったため、ここでも粒径一定(D50=0.26mm)と考えました。また砂州海側の勾配は波浪によって変化しますが、3〜7度程度の範囲で推移しています。
質疑
(2)図5の期間における外力特性についてコメントしてください。
回答
海岸工学論文集の前報(和田ら、1997)を参照してください。
討論者 千 受京(東洋建設(株)鳴尾研究所)
質疑
(1)水理実験で河口水深が砂州形状に及ぼす影響を検討されていますが、その結果、河口水深は砂州高さ、幅、断面積にほとんど影響がないということになっています。しかし実験では河口水深がすべてのケースで入射波高よりも小さい条件のみになっています。もし河口水深が入射波高より大きい場合どのような結果が考えられるでしょう。
回答
実験はあらゆる水深、波高条件を組み合わせて行いましたが、平衡砂州の形成が見られたケースに特に着目して議論を進めたため、ご指摘のような限られた条件下での結論になりました。本実験では、河口水深が入射波高よりも大きい場合、波浪による移動限界水深内に、形成された砂州が水面上に現れるまで発達するほど十分な砂が存在しなかったため、砂州が平衡状態に至らず、河口水深の影響を評価するにはいたりませんでした。
質疑
(2)河口導流堤(両岸)がある前提で2次元的な砂州の形成過程の中、主に砂州高さについて検討されていると思いますが、ここでは岸沖漂砂のみを考慮したことになります。自然状態の河口では沿岸漂砂移動による
河口砂州の形成が多く発生すると思われます。このような自然状態の河口においても河口水深が砂州高さに寄与する影響はほとんどないといえるでしょうか。もし無いとするとその根拠は何でしょうか。河口水深(初期状態)と入射波高の相対的な大きさによって砕波状況が異なってくると思いますし、それによって砂州の形成過程に大きな違い(特に砂州断面積、砂州高さ)が生じると思われます。従って砂州高さ算定式に河口水深と入射波高の比を考慮する方が良いのではないでしょうか。
回答
自然状態の河口では沿岸漂砂による砂州の形成、または形成過程に与える影響は十分考えられます。実際、フラッシュ直後の砂州の回復過程では、3次元的な地形変化が多く発生することが知られています。しかしながら今回、岸沖漂砂にのみに注目し、砂州を岸沖方向のみの2次元的な取り扱いにしたのは、最終的な平衡砂州高さは主に、波の遡上によって決定されるという仮定に基づいて議論しているためです。
河口水深が砂州の形成に及ぼす影響についてですが、確かに形成の初期段階から潮汐などで河口水深が変化すると、今回の実験でもみられたように、回復過程での砂州形状やピークの位置等に違いがみられました。しかしながら実験の考察でも述べたように、最終的な平衡砂州では波浪条件が同じで、且つ平衡に至るに十分な移動可能な砂が存在する場合、砂州高さに大きな違いは確認されませんでした。このことから算定式に河口水深の影響を考慮しないという結論に達しました。一方、砂州の幅、断面積は高さに比べ算定式からのばらつきが多くみられました。これは砂州高さに比べ、平衡砂州の幅や断面積が形成過程自体の影響をより強く反映するためで、一概に平衡状態を決定する波浪との関係式のみでは表し切れないものであると考えられます。今後、この点については改良の余地を残しているといえます。
論文番号 121
著者名 稲村武彦・田中 仁
論文題目 七北田川河口の完全閉塞条件に関する研究
討論者 加藤俊八(日本工営)
質疑
図−1(p.601)を見ると砂州がNW→SWへ伸びており,沿岸漂砂の卓越方向と考えられるが,図−2の波向きと逆になっているが(写真−1,2でも右→左),コメントがあれば教えていただきたい.
回答
図−1で河口砂州と見える地形はむしろラグーンのバリアーと呼ぶべきものである.図に見られるように河口部には導流堤があるので,河口開口部の動きはこの導流堤より南側に固定されている.
討論者 河田恵昭(京都大学防災研究所)
質疑 名取川の砂州形成と七北田川の河口閉塞の問題は同じ問題として取り扱えるのか.(前者は二次元,後者は三次元であるが,土砂の堆積過程としては同じ取り扱いは出来ないのか.)
回答
まず,第一に名取川では中導流堤の存在により砂州が三次元的な動きを出来ず,二次元的な取り扱いが可能である.一方,七北田川では完全に三次元的な動きが観察されている.また,これまでの観測によれば,河川のスケールに応じて地形変化の時間スケールが大きく異なっている.このような河川規模の相違を反映して,アプローチ方法が異なることは現時点ではやむを得ないことと考える.もちろん,これらを包括的に扱えるような理論的な枠組みを作り上げて行く努力は必要であるが.
論文番号 123
著者名 佐藤芳信、真野 明、沢本正樹
論文題目 阿武隈川河口沖合における土砂堆積特性
討論者 黒木幹男(北海道大学 工学部)
質疑
(1) 底質の2峰分布の原因は
(2) フロクレーションの影響は
(3) 底質の再浮上の影響は
回答
(1) 河口テラスの所の底質はほぼ均一で、0.12mm付近の粒径を持っています。沖に行くに従って、粒径分布に2峰が顕著に現れるようになりますが、粒径が大きい方の峰の粒径は約0.12mmで河口テラスのものと同じです。粒径の小さい方の峰は0.02mm程度に現れています。従って、大きい粒径のものは河口テラスの成因と同じ成因でできたもので、掃流状態で運ばれたものと考えられます。一方粒径の細かいものは、本論文の計算で確かめられたように、上に浮遊して移流により運ばれ堆積したものと考えられます。
(2) 1996年の洪水の阿武隈川河口における最大濃度は1.5g/l程度と小さなものです。いま図―6より中央粒径粒が0.025mmと求められますので、粒子1個の体積を求めると、8.2掛ける10の−15乗立方メートルとなります。土粒子の密度を1立方メートル当たり2600kgとすると、1立方メートルの溶液の中に、0.7掛ける10の11乗個の土粒子が含まれることになります。つまり、1.4掛ける10のー2乗立方ミリメートルの溶液の中に1個の土粒子が含まれる計算になります。この容積を立方体に置き換えると、一辺が0.24mmの立方体になります。つまり、粒子間距離は粒径の約10倍離れていますので、衝突する確率も小さく、フロキュレーションの影響は小さいものと考えられます。
(3) 本論文の数値計算は鉛直方向に水底から水面まで積分した一層モデルを用いていますが、実現象では、特に河口から沖に遠く離れたところでは、密度効果により上を滑るように流れているものと考えられます。ですから、一度沈降堆積した土粒子を再浮上させる力は河川流には無いものと考えられ、本モデルでも無視しております。
論文番号 124
著者名 河田恵昭,植本実
論文題目 天竜川・遠州海岸系の海浜過程について
討論者 黒木幹男(北海道大学)
質疑
(1)ダム堆砂が直接海岸侵食に結びつくか。河口の通過量はあまり変わらないのではないか。
(2)河相が変化したとのことであるが,河相の違いが流砂量に与える影響は少ないのではないか。
回答
本研究の対象としている天竜川流域では,山地が全体の93%,平地が7%を占めており,河口域に供給される土砂のほとんどが山地流域で生産されていると考えられます。また,天竜川本川に設置されているダムから河口までの距離が短く,ダムから下流で土砂を供給する河川は見あたりません。
このような地形状況のため,天竜川ではダムによる土砂の捕捉が河口域への供給量の減少となって現れたと推定されます。なお,短期的には平地流域の河道内堆積土砂が河口部に供給されるため土砂の通過量は大きく減少しませんが,河道からの供給量には限界があり,ダムの建設から2年程度遅れて海岸侵食が顕在化すると考えています。
したがって,(2)の質問にある河相の変化が流砂量に影響を与えたのではなく,ダムによる供給土砂量の減少により河道内土砂が河口部に供給され,これが河相の変化となって現れたものと考えています。
論文番号 126
著者名 佐藤愼司、古屋隆男、見附敬三、谷口丞
論文題目 日野川流域の土砂収支と海浜変形
討論者 芹沢真澄(海岸研究室)
質疑
当海岸の侵食について、突堤、ヘッドランドで静的安定化が有効なのに、そうせずにサンドリサイクルを行うのはなぜか?
回答
従来、皆生海岸では離岸堤を連続的に配置することにより海浜の安定化を行ってきた。その効果によって海浜を安定化することができたが、一方で離岸堤による景観阻害も否定できない。このため、景観保全およびライフサイクルコストで経済的であるサンドリサイクルを採用することが得策であると判断している。
討論者 榊原弘(?ニュージェック)
質疑1
現状における日野川流域からの流出土砂量が67,000m3/年であり、将来的に皆生海岸の侵食を緩和するためには日野川からの流出土砂量を100,000m3/年程度にすべきであると結論づけられています。しかし、私の聞いたところでは日野川においては、まだ砂防の整備率が低く、今後も砂防施設の整備が行われる可能性があります。このような状況において、将来流出土砂量を増加させることは可能でしょうか?
回答1
可能と判断している。
質疑2
また、どのように行えばよいのでしょうか?
回答2
新設する砂防ダムをすべてスリット構造とするとともに、現存する貯水ダムに排砂ゲートを整備することにより、流出土砂量を10,000m3/年程度まで増加させることが可能であると判断している。
質疑3
さらに、流出土砂量を増加させた場合の河川の治水安全度には影響しないのでしょうか?以上の3点についてお教え下さい。
回答3
流出土砂量増加の有無にかかわらず、現況河道では治水安全度が十分ではない。一方計画河道の場合には、流出土砂量を増加させたとしても、局所的な侵食・堆積を除いて河床の安定性には大きな変化のないことが河床変動計算によって確認されている。
論文番号 127
著者名 佐藤勝弘,野口雄二,長谷川巌
論文題目 透水層埋設海浜における長周期波による浸透流計算
討論者 河田恵昭 (京都大学 防災研究所)
質疑
斜め入射波の場合だと、沿岸方向の上流側から下流側に向かっての流れが出てくるはずである。これは数値的に得られるのか。
回答
長周期波は短周期波(搬送波)の計算から得られたradiation stressを外力として発生します。したがって、斜め入射の条件で短周期波の計算を行い外力を与えれば計算可能と考えます。
討論者 佐藤慎司 (建設省 土木研究所)
質疑
遡上域で浸入流速2mm/sを境界条件として設定しなければならないのは何故か?遡上域での水位上昇によって自動的に計算されるべきでは?
回答
指摘の通り遡上域での水位上昇によって自動的に計算されるべきと考えます。当初、水位上昇による圧力を境界条件として計算しましたが、現地での実測流速とに比べかなり小さかったため、境界条件の設定方法を変更しました。砂層内の浸透流速が小さい理由として、遡上域での波高の計算精度が悪い,格子間隔が大きい等も考えられますが、何が原因かはまだわかりません。今後も検討したいと思います。
討論者 出口一郎 (大阪大学 工学部土木工学科)
質疑
長周期波のdriving forceは搬送波の計算によって与えられている。
長周期波の遡上域ではどのように与えるか?
また、長周期波の波先(陸側)での条件はどのように与えたのでしょうか?
回答
搬送波(短周期波)の計算は静水位で計算し、遡上域に対して特別な配慮はしていませんが、長周期波の波先は岩崎・真野の方法を用いて移動境界として取り扱っています。
討論者 小林智尚 (岐阜大学)
質疑
この計算モデルでは、砕波帯の波形をうまく再現できないかと思いますが、これが遡上域で一定浸透流速を与えなければならない原因の1つになっている可能性はあいませんでしょうか。
回答
指摘通り、遡上域での波高の再現性が十分でないことが砂層内の浸透流速が小さい理由の1つである可能性があると考えます。その他に砂層面付近の格子間隔が大きい等の理由も考えられますので、今後も検討したいと思います。
論文番号 128
著者名 岩佐直人、堀 謙吾、谷山正樹
論文題目 透水層埋設海浜の地盤特性と透水層の長期排水性
討論者 京大防災研究所 河内恵昭
質疑
透水層内の流速と排水口の水位との関係について
回答
質疑事項の透水層内の流速と排水口の水位との関係については、海岸工学論文集第42巻pp726〜pp730 現地海岸に埋設した透水層の排水流量と前浜地形変化 柳嶋等、及び海岸工学論文集第45巻pp641〜pp645 透水層工法における排水能力低下要因 柳嶋等に記載されており、そちらを参考にしていただきたい。
論文番号 129
著者名 柳嶋慎一・加藤一正・中官利之・下川原銀二・野口雄二・岩佐直人
論文題目 透水層工法における排水能力低下要因
討論者 小林智尚(岐阜大学)
質疑
排水管内の逆流は,長周期波成分,短周期波成分両方で現れるが,管の詰まりに支配的なのはどちらの成分でしょうか.
回答
長周期波成分である.
排水管内の流れは,排水口位置での長周期的(1〜数分)な水位変動に応答して大きく変動する.一方,短周期的(6〜12秒)な水位変動に伴う流量の変動はそれよりも小さい.逆流(陸に向かう流れ)は,長周期的な水位変動の顕著な時に生じ,そのような時には,流速が速くかつ,1分間程度連続して逆流することがある.そのため,浮遊している砂が逆流によって管内に入り込み管の詰まりを生じる.
討論者 河田恵昭(京都大学)
質疑
透水層から配水管および排水口の部分は平均海面下ではむしろ問題が大きい.メンテナンスフリーにするには,この部分を無くする方が良いのではないか.
回答
ご指摘のとおりである.本工法は,前浜の地下水位と沖の排水位置での水位との差によって自然排水する構造である.そのため,実験当初水位の低くなる場所(set-downの生じる場所)に排水口を設けた.しかし,波崎海岸においては,前浜の地下水位は海水面より常に高く,排水口をset-downの生じる沖に設置しなくても十分排水される.また,排水口が砂に埋まった場合でも水位差の増大にともなう排水口付近の砂のボイリング,波による砂の液状化等によって排水能力が回復することがわかった.
そこで,現在は汀線から約40mの距離で配水管を切断し,その位置に通常は砂に埋もれた構造の新たな排水口を設けた.今のところ排水口が砂に埋まった状態でも砂のボイリングが生じ,湧水のような状態になり,順調に排水されている.今後さらにデータを蓄積し,排水流量,水位差,土被り厚さ等の関係について検討する予定である.
論文番号 131
著者名 伊藤政博・成川幸宏 ・伊藤仁士
論文題目 侵食・堆積域の伝播に対する構造物の阻止効果━━富士海岸を対象にして━━
訂正
図の差し替え,p.654.図―7富士川の経年的河床変化.
討論者 芹沢真澄(海岸研究室(有))
質疑
(1)離岸堤・消波工の構造物の設置により侵食の下手への伝播速度が遅くなっている.これは,はたしてこれらの構造物を設置してよかったといえるだるうか?むしろ,これらの構造物を侵食のあと追いで設置したが,最終的には侵食された状況になっている.これら離岸堤等は,沿岸漂砂の不均衡による侵食に対しては,時間延ばしをするだけで,浜を保存するには効果がなかったと見るべきと思う.この40年間の結果の反省としては,やはり,ヘッドランドを打つなり他の方法をとってくるべきだと思うが,どう考えますか?
回答
過去約30年間における汀線変化と離岸堤,消波堤,放水路,田子の浦港の防波堤が富士海岸の汀線変化に注目してみると,消波堤,離岸堤が後追いの形で設置されている.
汀線変化の侵食域の東側先端の伝播速度は,冨士工区では消波堤及び離岸堤群の建設によって,図−4からわかるように侵食域先端の伝播速度がV(4)→V(3),と遅くなっている.一方,堆積域の先端速度は,V(2)→V(1)となっている.
吉原と原工区では,昭和放水路の存在(突堤の役割)により,5年程度の遅れがみられる.このような,時間あるいは年的な遅れを”無駄であった”あるいは”それなりの効果”のいずれかに評価することは,議論の分かれるところであります.
従って,御指摘のヘッドランドを設置してもやはり侵食域は東へ伝播するものと推定されます.抜本的な解決法はなかなか難しいが,次のような複数の方法の組み合わせることが重要であると考えています.
(1)養浜(田子の浦港の浚渫土砂)
(2)適当な方法でダムに堆砂した土砂を下流に排砂あるいは運搬することを思い切って(試験的にでも)考える.
(3)最近,量は少ないが,蒲原海岸および富士川河口部のテラスから若干の土砂が出てきているので,この土砂の動態を予測し,利用する.
(4)図−7の富士川河口部の河床が最近上昇気味にあるので,この土砂の移動を中長期(数10年のオ−ダ)の対策の中に組み込んで考慮する.
(5)河川法と海岸法を一貫した考え方の基で,見直す時期に来ている.
討論者 加藤俊夫,日本工営(株)名古屋支店(052-453-2900)
質疑
(1)図−3(p.652)において富士川河口東側で堆積が進んでいるが,富士川流量・流出土砂量・波浪等外力の関係はどうなのかコメントがあれば教えていただきたい.
(2)侵食・堆積伝播速度と礫・砂の移動速度の関係がわかれば教えていただきたい.
(3)侵食・堆積伝播速度の物理的意味に関するコメントがあれば教えていただきたい.
回答
(1)富士川河口部の蒲原海岸及び冨士工区における沿岸漂砂の移動方向は,東向きが卓越している.従って,富士川河口からの流出土砂の一部,蒲原海岸の侵食砂,及び河口部テラスの砂が富士海岸に徐々に堆積しているものと考えられます.富士川河口東側の堆積と富士川流量,流出土砂量,及び波浪の関係についは,検討するに十分な資料が無いので今後の課題にいたします.
(2)今後の検討課題にいたします.
(3)本研究では取り敢えず,侵食・堆積波の存在とその伝播速度の実態に注目して論文をまとめました.この物理的な意味付けについては,沿岸流,砂礫の沿岸方向方向の移動速度,沿岸方向の漂砂移動量の観点から議論したいと考えています.
論文番号 132
著者名 三波俊郎、宇多高明、芹沢真澄、古池 鋼、神田康嗣
論文題目 海岸保全の立場から見た島式漁港の計画についての新しい提案
討論者 清水琢三(五洋建設(株))
質疑
「図-5で背後の堆積量が1993年以降平衡状態になっているから沿岸漂砂を完全に遮断していないのでは」という著者への質問に対するコメント
・堆積量算定範囲が狭い
・水深4〜6mのコンターが南側で沖に張り出しており、領域外での堆積はまだ進んでいる。すなわち、背後は平衡状態であるが堆積範囲は広がっている。
・漁港の沖側を抜ける沿岸漂砂は波浪条件からいってほとんどないと考えられる。
・岸側の背後では左右2対の海浜循環流が形成されており、漂砂が南から北へ抜けるとは考えられない。堆積するだけ。
以上の理由から、ほぼ沿岸漂砂を遮断していると考えられる。著者らの「島式漁港を海岸保全からみればヘッドランドと考えて計画する」という考え方に賛成である。
討論者 長野 章(水産庁)
質疑
鎌田(1996)の結論をどう評価するか。
・M.L.W.L+0.5m線の変化がない。
・L.W.L ±0.0m線変化は大きい。
砂は連続性があるのでは。
・左右300〜400mの範囲に侵食が収まっている。
以上から、島式は評価できるという結論について。
回答
指摘の点については、前出の清水氏のコメントにあるとおり、沿岸漂砂はほとんど通過できないと考えます。ただし現地データからの検証は必要であると思います。具体的には漁港を中心として沿岸方向に十分広い区域について、現地踏査と汀線測量または深浅測量を行い最近の海浜地形変化をみることが有効であると考えられます。
論文番号 133
著者名 西 隆一郎,宇多高明,佐藤道郎,西原幸男,井之上由人
論文題目 吹上浜海岸における汀線と海岸植生および砂丘林境界の長期変動特性
討論者 芹沢真澄(海岸研究室(有))
質疑
1.当海岸の侵食の要因のひとつとして,海砂採取による侵食について教えて下さい.
2.海砂採取による掘削穴に土砂の埋めもどしが起こることで,海浜全体の土砂がその分減り,これが汀線の後退に結びつくとは考えられないか?
3.掘削水深は地形変化の限界水深よりも深いとのことだが,1990年以降大波高がよく来ている.通常の波では動かなくても,こうしたまれにくる高波で地形が動き,埋めもどしが起こることはないか?
4.それらを深浅測量などのデータによって調べたか?その結果は?
討論者 小島治幸(九州共立大学工学部土木工学科)
質疑
浜崖が大規模に起こっているようだが,それが漂砂の供給源になっていると思うが,量的にわかりましたらおしえてください.また,非常に大量の土砂が供給されているにもかかわらず,近年では汀線は侵食傾向にあるのでしょうか?
論文番号 134
著者名 加藤史訓,佐藤愼司
論文題目 砂浜海岸の植生群落と地形変化の現地調査
討論者 小島治幸(九州共立大学工学部土木工学科)
質疑
砂浜植物の重要性を定量的に明らかにするたいへん貴重な研究だと思います。その点を含めて、この様な研究から得られた知見を海岸を管理する上でどの様に利用していかれるかお考えをお聞きしたい。というのは、アメリカ合衆国やオランダでは砂浜植物を大切にするために人間や車が入れないようになっているが、日本でもその方向に行くべきではないかと思うが、この点に関して何かお考えがあればお聞きしたい。
回答
人間や車の侵入の他、砂浜の減少や構造物の設置により砂浜植物が悪影響を受けているのが現状だと思います。このような問題を解決するためには、防災、環境、利用の調和という視点で、砂浜植物を海岸管理の中に位置づける必要があると思います。この研究で得られた飛砂捕捉効果など、砂浜植物が持つ機能を活かした海岸管理の実現のため、定量的な知見の集積を図っていきたいと考えております。
論文番号 135
著者名 平石哲也、末松忠敬、楠瀬洋、島元民男、鈴木善光、榊原弘、殿最浩司
論文題目 緩傾斜護岸の波の打ち上げ高および越波に及ぼす長周期波の影響に関する現地調査
討論者 椹木亨(大阪産業大学)
質疑
なぜ、中村の打ち上げ高さの算定法を用いたか?
中村の方法は複合断面への適用と考えるが、この場合1:3の一様勾配のように思うが
回答
本緩傾斜堤の場合、その法勾配は1:3であるが、前浜(約1/10)を考えると複合断面であり中村らの改良仮想勾配法での打ち上げ高の算定が可能と考えた。
また、山本ら(1996)は、実験および数値計算によって、長周期波による水位上昇量を考慮した緩傾斜護岸の打ち上げ高の算定は、工学的には汀線部のサーフビートの波高の半分を水位上昇としてそれを潮位に加え、中村らの改良仮想勾配法で打ち上げ高を算定することが可能であると報告されている。そのため、本研究ではこの方法を現地に適用して検討した。その結果、被災状況をある程度的確に説明することができた。
質疑
長周期波の発生原因は?
回答
実際のところ、本研究ではこの台風9720号で発生した長周期の発生原因まで明らかにすることができなかった。沖合での観測結果では長周期波高は約60cmで、Longuet-Higgins & Steawartの理論で計算される拘束波の波高は約30cm〜40cmで約2倍の長周期波高となっており、拘束波だけで説明はできなかった。
また、本研究では、汀線部の長周期波高を合田のサーフビートの式を用いて算定したが、本来なら沖合の長周期波高を与えて長波方程式を解く数値モデルによって算定するのが妥当ではないかと考えられ、今後検討を実施したいと考えている。
質疑
この時の砕波相似パラメータζはどの程度か?
ζが2〜3の時斜面上でresonance(PerBrunnのいう)が生じているかどうか検討してみては?
長周期波による水位上昇量2mはあまりにも波高に比して大きい考えられるので、上記のような他の原因も検討する必要ありと考える。
回答
ご質問の中に長周期波による水位上昇量が2mとあるが、汀線部の長周期波(サーフビート)の波高が約2mであり、水位上昇量としてはその半分の1mとして検討しているのでその点ご注意願いたい。
被災時の波高・周期からζを算定すると、ζは約1.2(被災時最高波高発生時)である。
ご質問の内容については、詳細な検討は実施しいませんが、ζが最大でも1.2であるので質問のresonanceは生じていないと考えられる。
被災時のビデオ撮影結果等を見ると、周期数分で汀線部の水位が変化し、それに対応して越波していることが確認されている。そのようなことから、この被災は周期数分の長周期波による水位の上昇が影響しているものと考えた。それを確認するため、論文中の手法で打ち上げ高や越波量を算定すると被災状況を説明できた。
汀線部の長周期波の波高2mは大きいのではないかという質問ですが、今回このような手法で検討するかぎり、この程度の長周期波高でなければ被災状況を説明できないことからも妥当と考えられる。また、山本ら(1996)の検討結果でもこの程度の長周期波高が発生しており、それほど大きいものではないかと考えられる。
論文番号 136
著者名 木村克俊・藤池貴史・上久保勝美・安倍隆二・石本敬志
論文題目 道路護岸における波の打ち上げ特性に関する現地観測
討論者 三村信男(茨城大学 広域水圏センター)
質疑
現地における水深の中に、長周期波の影響をどのように取り込まれていますか
回答
今回の現地観測では、近隣の漁港で得られた潮位データから護岸の前面水深を推定しており、護岸前面においては波浪観測を行っておりません。したがいまして長周期波による水位変動量や、それに伴う波の打ち上げ高さの変動については検討しておりません。
ビデオ画像から読み取った波の打ち上げ高さの時系列データを見ますと、周期的な変動が確認されています。現地での越波観測は現在も継続しておりますので、ご指摘いただいた長周期変動の影響についても、今後検討したいと考えております。
論文番号 137
著者名 横木裕宗,岸田隆嗣,鈴木重勝,三村信男
論文題目 越波伝達波の方向分散特性に関する実験的研究
討論者 伊藤一教(大成建設・技研)
質疑
開口部が十分広く,水塊が位相を持って越波するならば,基本周波数成分も,入射波向きに伝播すると思います.斜め入射のとき,伝達波の基本周波数が入射波向きと無関係なのは,開口部が狭いからではないでしょうか?
回答
越波部の幅の影響を調べるために,実験では越波部に近い所と越波部から離れた所とで方向分布特性に違いがあるかどうかについても着目しましたが,残念ながら今回の実験では明らかにできませんでした.今後の検討課題とさせて下さい.
討論者 合田良実(横浜国大)
質疑
図-10では2倍周波数成分波のエネルギーがx軸に沿って大きく変動している.これは波数の異なる波,すなわち自由波と1次波に随伴する拘束波の重畳による可能性が考えられる.多地点での同時観測記録から2倍周波数成分波の伝播速度を解析するなどの方法その他を用い,上記の可能性についてさらに検討頂けると有難い.
回答
今後の検討課題とさせて下さい.
討論者 平石哲也(運輸省・港研)
質疑
伝達波が連続的に生じることになっていますが,越波は通常不連続な現象だと思います.今後の研究方針を教えて下さい.
回答
本研究では,越波伝達波の性質をスペクトル解析によって明らかにしようとしたので,対象とした現象は,周期的な,すなわち同じ時間間隔で連続的に越波が生じるものを対象としました.この研究を通じて得られる知見は,応答関数的な発想で,不連続的に生じる越波伝達波に対しても応用できるものと考えております.今後もこの発想に沿って研究していきたいと思っております.
論文番号 138
著者名 阿部光信,貝沼憲男,興野俊也,定森良夫
論文題目 現地観測に基づく越流型モデルを用いた伝達波計算法の検証
討論者 合田良実(横浜国立大学)
質疑
図-8では,伝達波のみの場合の有義波周期が3〜4sであり,来襲波の周期よりもかなり短い.これは越波伝達波の分裂現象によると考えられるが,今回提示の数値計算モデルにおいてこうした波の分裂をどのようにモデル化したのか教えていただきたい.
回答
本数値計算モデルでは,越波による伝達波の一連の物理的な過程を論文集の(4)式,(5)式でモデル化しています.
ここで,越波流量を算定する(4)式では,防波堤前面の時々刻々の水位変動ηe(t)から防波堤の天端高さhcを引いた越流高(ηe(t)−hc)を用いています.この越流高を用いることにより,防波堤からの越波が実現象と同じ間欠的な越波として再現され,結果として伝達波の周期が短くなります.
なお,この越流モデルは,比較的簡単なモデルで越波現象を再現できるとして,森屋・水口(1996)や西受・水口(1996)でも用いられており,本研究においてもこれらの成果を参考に導入しています.
論文番号 139
著者名 早川哲也、渡部靖憲、鈴木孝信、木村克俊、土井善和、工藤貴弘
論文題目 混成堤における越波水の打ち込み特性と被覆材の安定性
討論者 安田孝志(岐阜大学)
質疑
数値シミュレーションの結果が妥当とするなら、なぜ被覆材の安定計算までダイレクトに行わなかったのか?
回答
研究の目的が安定重量算定法の提案だったため、数値シミュレーションによるマウンド底面の圧力やせん断力分布についての検討は行いませんでした。今後の課題としたいと思います。ただし、厳密な安定を検討する場合は、砕石周辺の流体運動も再現しなければなりませんので、マウンド内の状態を何らかの方法でモデル化する必要があるかと思います。
数値計算は,堤体背後のマウンド被覆材の安定に越波による大規模渦が大きく関わるという現象の把握,根拠付けのために行いました.計算により原理的には圧力,せん断力分布は得られることになりますが,砕石あるいは被覆ブロックの形状や変位さらにマウンド内の流れを含めて計算を行うことは現段階ではまだ現実的なものではないと考えます.これらを何らかの方法でモデル化し計算にフィードバックさせる方向で検討したいと思います.
討議者 中山哲嚴(水産工学研究所)
質疑
流速ではなく堤体背後での波高と捨石の安定性の関係は検討されたのですか?
回答
越波水の打ち込みにより発生する渦により、背後マウンド天端上の流速が大きくなるため、マウンド被覆材が不安定となります。越波伝達波の波高を用いた場合、このような複雑な流体運動を評価するのが難しかっため、流速を用いた算定式の提案を行いました。ただし、越波水の打ち込み地点よりある程度港内側では、越波伝達波による安定重量の算定が可能であると考えられます。
論文番号 140
著者名 興野俊也,貝沼憲男,青野利夫
論文題目 外洋における防波堤越波・マウンド透過波に関する現地観測
討論者 伊藤一教(大成建設(株)技術研究所)
質疑
マウンドを透過した長周期波には,副振動の影響があるのではないですか?
回答
港内の長周期波には,当然副振動による影響が含まれます.図−1は,港内の波浪観測地点(No.2)での応答関数を高山・平石(1988)の方法を用いて計算した結果で,入射波の周期に応じて伝達波の振幅は増減します.ただし,マウンドを透過する長周期波に関しては,まだ不明な点も多く副振動の影響も含めたより詳細な検討を行う必要があると考えています.
高山和司・平石哲也(1988):数値計算と現地観測による港内副振動特性の検討,港研資料,No.633,pp.1-70.
討論者 半沢稔((株)テトラ)
質疑
図−11の理解としては,長周期波の伝達率が大まかに0.5−2.0となると,外から中にはいると周期は長くなることも多いということですね.
(会場にて確認できました.)
回答
マウンドの抵抗係数の特性を考えると,周期が長いほど透過に対する抵抗が低くなるため港内にはより長周期の成分が伝達される傾向があります.そのため,港外よりも港内で周期が長くなる傾向を示すと考えています.
論文番号 141
著者名 山田和弘、富樫宏由
論文題目 実海域における透過性潜堤による波浪制御に関する研究
討論者 青野利夫(東亜建設工業株式会社)
質疑
実務に適用する場合、抵抗係数をどのように評価するかが重要となる。本論文における現地スケ−ルの透水層の抵抗係数の評価方法について教えて欲しい。
回答
本研究における線形抵抗係数fpは、基本的には透水係数Kp 、乱流抵抗係数Cf 、及び空隙率εの3つの媒介係数より決定される。そこで本研究では、Kp 及びCf は引用したSomchaiら(1989)にならってDinoy(1971)の研究成果に基づいて、Kp = 3.77×10-7 m/s 及びCf = 0.332とした。また,空隙率は技研興業?の資料よりε= 0.56と決定した。
論文番号 145
著者名 中村孝幸、森田知志、加藤孝輔
論文題目 港内波浪の静穏化のための港口部共振装置の有効性について
討論者 東江隆夫(大成建設 技術研究所)
質疑
1.島堤と開放型共振装置の長さを等しくすれば、島堤の方が効果があるのではないか。
2.共振部の波向きが船舶の航行にとって重要と思われるが、どのような波向きとなっているのか。
回答
1.ここでの島堤の長さを約2倍に延長して開放型共振装置のそれに等しくした場合には、両者の波浪制御効果はほぼ等しいものとなります。しかしながら、この場合には港口部は島堤によって完全に隠れてしまうため、航行船舶の航路が複雑となり入射波を横から受ける危険な状態となり、好ましくないものと考えられます。
2.共振部では入射波と回折波による平面的な部分重複波が形成されております。したがって単純な進行波のように波向きを定義することは困難でありかつ意味をなさないと考えております。
論文番号 148
著者名 由比政年,石田 啓,楳田真也
論文題目 正弦振動流中に設置された円柱に作用する流体力特性の数値解析
訂正
図-1(b)の external velocity のグラフにミスがあり,τ/T=0で速度ゼロになるように external velocity の曲線を右側に平行移動させたものが正しい.(inline, transverse force はそのまま)
図−6で,数値解析結果と対比させてある実験結果は,Obasaju et al.(1988) ではなく,Maull and Milliner (1978) が正しい.
討論者 榊山 勉(電力中央研究所)
質疑
数値計算では非対称な流れ場になりにくいとのことで,人為的に乱れを与えているとのことであるが,具体的にどのようにしているのか.また,その初期の乱れの与え方による結果への依存性についてコメントをいただきたい.
回答
計算の第1周期目に限り,振動方向流速の2%程の速度で,円柱を主流と直交方向に振動させています.振動の周波数は,対応する実験結果の揚力変動の周波数に基づいて決定しています.2%程度の乱れを付加することで,第3周期目あたりから,非対称性が顕著となってきますが,この乱れを大きくすればするほど,当然ながら,非対称性が早く成長します.なお,KC数が小さく,実験での流れ場が上下対称となるような場合には,このような乱れを与えても,その擾乱は成長せず,数値解は上下対称性を保つことを確認してあります.
質疑
数値計算だけではなく,自分で水理実験を行い,数値計算モデルの検証も合わせて論文に発表することを希望する.
回答
数値モデルの有効性の検証に関しては,昨年および一昨年の論文中で,海外の実験結果との比較を行っています.また,現在,私たちの所でも,PIVを用いた流速場の測定を準備中であり,今後,順次,実験結果を発表していきたいと考えています.
討論者 東江隆夫(大成建設(株)技術研究所)
質疑
正確な数値計算であればあるほど,2次元解析は問題となる.特に振動流場では,前の周期でできた渦が長く生き延びる傾向にあり,実現象と異なると思われる.
回答
ご指摘の通り,2次元計算では,渦が長く残りすぎる傾向があるようです.こうした渦の干渉により,流体力変動の時間変化にも高周波の変動が入り,特に揚力変動の解析に影響を与えてくるようです.私たちの研究グループでは,現在,3次元解析も合わせて実施中ですので,その結果を別の機会に報告したいと思います.
論文番号 150
著者名 酒井浩二、井福周介、大釜達夫、山崎耕嗣
論文題目 大水深における重複波を考慮した設計波力算定法
討論者 石田 啓(金沢大学 土木建設工学)
質疑
フーチング部分の波力の取り扱いを考慮することにより、設計上有利に働くのか。また、論文中の図−3について、全水平波力の波形は双峯性を示しているが、これは重複波領域の波力の特徴と考えて良いか。
回答
岸向き波力時においては、フーチング上面には下向きの波力が働き、揚圧力の一部がキャンセルされ、フーチングがない場合の揚圧力より小さくなる。そのため、フーチングを考慮しない「現行設計法」では、その分過大な設計となる。一方、沖向き波力時においては逆の傾向となる。なお、本論文では、実験条件のフーチング長の範囲で、有限震幅重複波理論を用いることにより、フーチングを考慮しない「現行設計法」が妥当な結果を与えることを示したものである。
波力波形の双峯性については、合田良実(1966)「有限震幅重複波ならびにその波圧に関する研究」港研報告vol.5,No.10でも記述されているとおり重複波領域の特徴であり、横国大合田教授からは下記のようなコメントがあった。
「有限振幅の重複波圧は2倍、4倍周波数成分が顕著に発達するのが特徴的である。このため前面波圧は双峯型波形となり、波圧のピークは水位のピークとずれてくる。波圧の2倍周波数成分の中には深さに無関係に水面から水底まで作用するものがある。このため、海岸近くに微小地震計を設置すると、うねりの波高が大きいときに、うねりの周期の1/2周期の地震動が観測される。このことはLonguet-Higginsが1950年代後半に言及している。また、水深波長比が大きくなっても、2倍周波数波圧は減衰が遅いため、波圧合力は岸向きよりも沖向きの値が大きくなってくる。」
なお、図−3について、水位が0の時は波力も0のはずである。これは、本実験において波力に関する観測におけるノイズを取り除くため、ローパスフィルターを取付て振幅平坦により観測したためであり、波力波形が約0.2Tほど遅れて図化している。
論文番号 152
著者名 平石哲也,藤咲秀可,工藤巧
論文題目 防波堤の作用波力に及ぼす波の多方向性の影響
討論者 (岐阜大学)
質疑
最大波圧については,1ヶの波峯で決まるため,有義波圧と同格に方向分布に依存するとは考えられないのではないか.
回答
一つの波峯の大きさ等も方向分布の影響をある程度受けるものと考えられ,最大波圧に関しても方向分布の影響が生じてくるものと考えられる.
討論者 森屋陽一(五洋建設技術研究所)
質疑
波浪場の一様性(Smaxによる変化)を有義波高より評価している(図ー4).最大波圧を評価する際にも有義波高による評価でよいのでしょうか.
回答
波圧を無次元化するために有義波高を用いています.無次元化のための基準値としては,有義波高を用いても良いものと考えます.
論文番号 154
著者名 川俣奨,関本恒浩,植木一浩,渡辺敏幸,阪内茂記
論文題目 消波ブロック1層被覆式傾斜堤のパラペット付き上部工に作用する波力特性について
討論者 服部昌太郎(中央大学)
質疑
図−6の結果に見られるように,天端ブロックの入射波の波力にもたらす効果が大きい,いいかえるとたかが数ヶのブロックの消波効果が大きいことの意味をどの様にお考えになりますか?
回答
図−6はパラペット基部での鉛直波圧(天端側波圧,縦軸)と,水平波圧(パラペット側波圧,横軸)との関係を表したものです.この天端側波圧とパラペット側波圧の関係は,上部工上の越波水塊の挙動に影響され,さらにこの挙動は入射波の波高や周期,砕波形態に依存されるものと考えられます.
今回の実験条件での越波水塊は,2個並びの場合には前面ブロックの空隙を通過する水平方向の運動が許され,越波水塊が上部工上を比較的水平に運動するようになりますが,0個並びの場合には,斜面の延長上に上部工前面が位置しており,斜め上方へ舞い上がる効果につながります.
このように同一の波浪条件において比較すれば,ブロック並び個数の影響が見て取れますが,これを一般的な傾向であると考えるには,今回の限られた実験条件では確証に欠けるため,全体的なばらつきを考慮して一つの直線式で代表させました.
より詳細な結果を得るために,上部工上を伝播する越波水塊の挙動に着目した検討が今後の課題であると思われます.
論文番号 155
著者名 小林智尚,三浦健吾
論文題目 消波ブロック被覆堤における直立堤への荷重について
討論者 関本恒浩(五洋建設)
質疑
消波工を被覆した場合,直立壁前面で波の減衰に伴う水位上昇が発生するが,その影響はなかったか.
回答
実験では直立壁前面での水位上昇は明確には現れませんでした.これはスケール効果により室内実験では消波工での波の減衰が小さかったためと考えられます.したがって今回の実験ではこの水位上昇による影響はほとんどなかったと考えております.
討論者 関本恒浩(五洋建設)
質疑
消波ブロックを積む際の積み方による,実験でのブロック荷重の再現性についてはどうであったか.
回答
ブロックの寄掛かり荷重の静的荷重成分の増加はブロックの動揺・再配置によります.すなわちこの増加の発生は確立に生じます.したがって個々の実験における再現性は保証されません.しかし静的荷重の統計的な増加量には再現性があり,しかもそれはブロックの積み方,正確にはブロックの間隙率の関数でもあると考えられます.さらに論文中の図10で示されるような実験では,その終局的な静的荷重にも再現性があると考えております.
論文番号 156
著者名 片山裕之,関本恒浩,川俣 奨,植木一浩
論文題目 半没水型上部斜面堤に作用する波力特性について
討論者 服部昌太郎(中央大学 理工学部)
質疑
砕波,越波などをともなう波力は,非常に変動性に富む現象であります.したがって,変動量としての確率分布等の特性を明らかにして,波力算定用のデータを検討する必要があると思います.この点に関してどの様にお考えですか.
回答
ご指摘の通り,種々の波浪条件に適用可能な波力算定式を考えた場合,確率的なアプローチが必要であると思います.本研究では,波高,周期,水深と実験条件を変化させてはいるものの,海底勾配は1/100のみで,まだまだ限られた条件下でのデータしか得られていません.従ってここでは,得られたデータの中での各波力公式との比較を行うとともに,波力算定式に用いる水位の影響や,越波の効果を取り込む必要性を論じるまでにとどまっています.今後,更に異なる条件下でのデータを蓄積し,変動量としての取扱を行っていきたいと考えています.
論文番号 157
著者名 中村孝幸,中村文彦,川部正司,井上温人,森本 睦,後藤大介
論文題目 重力式カーテン防波堤による波変形と作用波力に及ぼす上・下部工の影響について
討論者 斉藤 武久(金沢大学 工学部)
質疑
理論解析で用いている減衰波領域をL/8と固定しておりますが,L/8と定めた理由についてお教え願えませんでしょうか.(入射波特性によって変化させる必要はないでしょうか.)
論文番号 159
著者名 白石 悟、永松 宏一、海原 敏明
論文題目 外洋性港湾における波浪特性が船舶係留時の防舷材の変形量に及ぼす影響分析
討論者 青木 伸一(豊橋技術科学大学 建設工学系)
質疑
(1)今後、どのような対策を取る予定か。
(2)設計上、どのような点に留意する必要があることがわかったか。
回答
(1)Surgeの長周期動揺は、係留索を堅い材質にする等の係留系の改善により、ある程度、船舶の動揺量を低減することができますが、固有周期が波の有義波周期に近いRollの動揺は、係留系の変更によって動揺量を大きく低減させることは難しいと考えられます。基本的には、バースに到達する波浪を小さくすること、船に対して横波とならない係留配置をとることが重要です。当該バースは、既に完成しているので、上記のことから船舶の動揺(Roll)と防舷材の変形を根本的に抑制することは難しく、当面は荷役作業時や時化時の船舶の離着桟管理に注意し、気象・海象を睨みながらバースを利用する方向です。本論文には示していないのですが、防舷材の変形量を抑制するための対策として、許容変位量の大きい防舷材に変えた場合や新規に防舷材を追加したシミュレーションを行いました。その結果、防舷材の変形量をある程度抑制することはできましたが、その改善効果に対して費用の面から適切な対策とは言えないため、やはり根本的な対策とはなりませんでした。
(2)バースの施設配置計画において、係留船舶の動揺を考慮した検討が重要で、外郭施設の整備状況も踏まえて、バースを利用するべきであると思います。また、防舷材の変形を抑制するためには、船舶に真横から波が作用しないようにバースを配置することが望ましいと考えられます。今後は、船舶の着岸・離桟管理のための動揺予測システムの開発や荷役システムの整備などが必要と考えています。
討論者 合田 良実(横浜国立大学 大学院工学研究科)
質疑
被災時の波浪は、典型的なうねりなので、天気図などを参照すれば波向が特定される筈である。図−5の港内波高比を求めたときの推定波向と併せて、ご提示頂きたい。特に、港内波高比は波向依存性が強いので、上記二者の波向が異なる場合は今回の結論にどのように影響するかコメント頂きたい。
回答
事故当時の波向は、港外の波浪観測点においてENEであったことが確認されております。港内外の波浪の応答関数は、21例の時化について求めたもので、対象とした港における時化時の波向は事故当時と同じENE〜Eが卓越しており、応答関数を求めた時化と事故当時の波浪の波向は同じでありました。時化の選定においては、波高ランク別に荒天時のデータを抽出して、港内外の波高の相関も確認したところ、推定した波高が観測データとほぼ一致することを確認しました。
ただし、事故当時のように周期が16.4sと非常に長く、波高の大きな条件の時化は事故後の波浪観測データの中にはありませんでしたので、特殊な波浪の作用下にあったと思います。
ご指摘のように、事故当時と推定した波浪スペクトルの波向が異なる場合には、波高比も違ってくると思いますが、本研究の場合には、その相違はあまり大きくないと考えられます。また、波高が事故当時の条件よりも、やや小さい場合についても動揺シミュレーションを行っていますが、防舷材の変形量は小さくなるものの、変形量が比較的大きくなる位置は同じであり、波高比の若干の推定誤差は結論に大きな影響を与えないと考えます。
論文番号 160
著者名 青木伸一・岡野 聡・椹木 亨
論文題目 自立式汚濁防止膜の有効高さと係留力の実用算定法
訂正
図−5中の計算値の説明にミスがあり,α=1.7の場合のd/hの値は,上から0.25,0.5,0.75である.
討論者 重松孝昌(大阪市立大学)
質疑
膜を設置するための台が実験結果に影響を及ぼしていないか?
上流側:流速,下流側:圧力勾配,後流渦の形成など
回答
膜の設置台は,下部に張力計を取り付けるために使用しました.膜下部からの水平長さは,上下流方向とも1.8mで,この間に10cmだけ鉛直方向に緩やかに変化しています.膜を設置しない場合の流速分布については測定しましたが,台があることによる縮流のようなものは観測されませんでした.膜背後の渦の形成については,確かめていないのではっきりしませんが,膜の高さが高々30cm程度であることから,あまり影響はないのではないかと考えています.
討論者 安井章雄(太陽工業)
質疑
実際の設計時に,図−5のαとしてα=0.955を用いればよいのか,それともα=1.7を採用すればよいのか?
回答
αの値が大きく異なってしまったことは,著者としても最も頭の痛い問題です.恐らく縮尺影響が現われたのではないかと考えていますが,はっきりした理由はわかりません.ただ,有効高さや係留力の大きさはαに線形的ではなく,図−5の有効高さについてみると,有効高さの大きい範囲では,あまり大きな差となって現われていません.縮尺影響だとすると,実験スケールの大きな場合の結果α=0.955を用いるべきかもしれません.ただ,αの値については,ある程度の幅を考えて設計する必要があると思います.
討論者 斎藤武久(金沢大学)
質疑
汚濁防止膜に関する模型実験を行う際,模型のカーテン部の膜厚の決め方は?
回答
カーテンについては,基本的に実物と同じような材質で,重量もなるべく相似になるように薄い布を用いていますが,実際には若干模型実験の方が厚いものを用いていることになっています.ただ,カーテンの水中重量そのものは膜の変形にほとんど影響ない程度に軽いものです.ただし,垂下式汚濁防止膜では,設置後貝などが付着してカーテンがかなり重くなりますので,その場合を想定して重い(厚手の)カーテンを使って実験する必要があります.貝が付着すると,カーテンの重量は膜の変形や係留力に影響を及ぼすようになりますので,注意が必要です.また,衝撃的な張力がカーテンに発生するような場合には,カーテンの伸び特性なども合わせておく必要があるでしょうが,これについては影響があるのかどうか不明です.
論文番号 161
著者名 下迫健一郎,高橋重雄,高山知司,谷本勝利
論文題目 変形を許容した混成防波堤の新設計法の提案?期待滑動量を用いた信頼性設計法?
討論者 榊山 勉(電力中央研究所)
質疑
「期待滑動量の平均値が許容滑動量以下」というのが安定の判定基準ということですが,1回1回の計算結果の中に5mとか10mとか(実際に得られているようですが)いった滑動量が計算されてもマウンド上にケーソンが存在すればこのような大きな値も問わないで(設計断面の見直しをしないで)計算をすすめるのですか?
討論者 関本 恒浩(五洋建設)
質疑
1.滑動としては年1回を考えているが,年間の最大の波高でなくても滑動を生ずる波高の波が来襲する可能性があるのではないか?
2.波の来襲において,極大波(年最大波)を考えているが,滑動の対象となった時化中にも滑動に寄与する波高の波が何回か来襲する可能性があるのではないか.
3.不確定要因の平均値や変動係数が表−1で与えたものからずれる場合,許容滑動量の0.3mが変わることになるのではないか・
討論者 半沢((株)テトラ)
質疑
1.今回対象としているケーソンの滑動量については,基本的には合田式(衝撃砕波考慮)および波力から滑動量の推定etc,結局第一義的には波高(Hmax)が直に効くものと理解しました.
そのため,堤体位置での波高の変動が結果に効いていると理解しました.消波ブロックの期待被災度の場合も同様傾向であり,ケーソンの場合もそうであることが確認されたと考えてよいですね?
2.消波工被覆があるケーソンの場合はどうなるでしょうか?傾向は直立堤と同じであろうと思いますが,例えばp804の図−6に相当するような解析(試算)結果があれば教えて下さい.St=30mとしたときの堤体幅の減少率はどの程度でしょうか?
論文番号 162
著者名 増田 光一、宮崎 剛、高村 浩彰
論文題目 津波による沿岸域に係留された浮体式構造物の運動と係留策張力応答の簡易推定法に関する研究 (第2報)
討論者 池野 正明(電力中央研究所)
質疑
1)津波をどの波形で模擬するかによって、浮体の応答特性は大きく異なるはず、津波=「孤立波」と見なせる根拠はどこにもありません。(周期は短いし、ソリトン分裂波の場合は段波津波の先端に短周期波(T=10s程度)がのり共存したものが作用する。)むしろ、押し波(引き波)初動の長いsin波の方が津波に近いのではないか。
2)流体力係数(一定値)を固有周期での(周期波線形解)値を用いているが、むしろ津波(ここでは孤立波)の波長(周期)に近い周期での値を用いた方が精度が向上する可能性はないですか。
回答
1)津波を模擬する波形については、議論の分かれる所であると考える。著者らは非線形水波の一つとして実験水槽を用いて再現可能である孤立波を用いたものであり、入射波形に関しては本計算手法に導入する波形を変化させることによって検討し得る課題であると考える。
2)津波(孤立波)の周期を如何に定義するかという問題に帰結すると考える。今回は孤立波には周期という概念がないため、代表周期として基本的な周期である浮体の固有周期における値を用いたものである。入射波周期が特定されるならば、その周期における値を用いることで、精度が向上することは容易に想像される。
討論者 白石 悟(運輸省港湾技術研究所)
質疑
1)p.808の図-5.2.a,bにおいて係留索張力の応答波形において、実験値の波形が計算値の波形に比べて若干周期が短く、しかも高振動数成分が入っているのはどういう理由によるのでしょうか。
2)p.809の図-6.1〜6.3において応答変位が波高に対して非線形であるのはどういう理由によるのでしょうか。係留系の非線形性に起因するものでしょうか。それとも粘性減衰力の項の影響でしょうか。
回答
1)今回、実験で用いた条件下では係留チェーンがやや張った状態に近かったのと、浮体の動揺量が大きかったことで、浮体動揺時にチェーンが緊張した状態になり、係留チェーン自体が振動した事によるものと思われる。
2)今回の実験における係留系の設定では、浮体の動揺量の微少な相違によっても係留系復元力が大きく変化する場合が想定される。波高変化によって浮体に作用する荷重も大きく変化し、結果的に浮体の応答も大きく変化すると考えられ、結果として係留系復元力が鋭敏に変化したため波高に対して線形的にならなかったものと考えられる。すなわち、係留系の復元力の非線形性に起因するものと考えられる。
論文番号 163
著者名 齋藤 正文、小林 一光、錦織 和紀郎
論文題目 緩傾斜堤に用いる被覆ブロックの安定性に関する研究
討論者 荒木 進歩(大阪大学大学院)
質疑
被覆ブロックどうしの摩擦の影響はどの程度あるのでしょうか。
回答
被覆ブロック相互間の摩擦力を定量的には評価していない。しかし、ブロック相互間の摩擦力は安定性にかなり影響を与えており、それがcotα-Ns(図-3,4)の関係に現れている。すなわち、勾配が1:3〜1:5と緩くなると、勾配が急な場合と比較してブロック相互間の摩擦力が低下し、その結果ブロックが法面から抜けやすくなり、安定性(Ns)が低下しているものと考えられる。
論文番号 164
著者名 小竹康夫・興野俊也・貝沼憲男・藤原隆一
論文題目 消波ケーソン堤前面マウンド上におけるブロック安定性に関する一考察
討論者 木村克俊様(北海道開発局 開発土木研究所 港湾研究室)
質疑
消波ケーソン堤では堤脚部における方塊ブロックの被災が顕著となることが示されておりますが,具体的な被災パターンについて教えてください.
回答
ブロックの被災はおもに堤前の水位が静水面より下(波の谷)の時に生じました.
また堤脚部でより多くの被災が生じております.
会場でご指摘頂きました通り,ケーソン堤の堤脚部にはマウンド天端面の被覆ブロックに比べて重量の大きな根固めブロックを設置し,被災を防ぎます.
今回の実験では,直立ケーソン堤と比較して,堤脚部により複雑な流れ場を生じる消波ケーソン堤を対象とし,根固めブロックを含むマウンド被覆ブロックの安定重量を,より合理的に算定する手法を検討することを目的としました.
取得したデータ数の不足なども有り,満足のいく整理が出来たとは言えませんが,水平方向に対しては流速による抗力を,鉛直方向に対してはブロックに働く差圧をパラメタに出来ることが確認できたと思います.
但し実際に設計に用いる場合に,ブロックに働く差圧をどのように求めるかは今後の課題と言えますし,東亜建設工業の矢内氏からもご指摘がございましたように,最終的には鉛直方向の流速と関連付けることになるのではないかと考えております.
なお現在,鉛直方向流速,水平方向流速およびそれらの位相差をパラメタとした実験データの再整理を行っております.
その結果につきましては,別途発表させて頂きたいと考えております.
討論者 矢内栄二様(東亜建設工業株式会社 土木本部 設計部)
質疑
式(1)〜(3)は水平方向の安定を問題とした式である.現象からいえば,鉛直方向の力のつり合いを検討すべきで,「ブロックの厚さ」が問題になるのではないか.
回答
ご指摘頂きました通り,堤脚部での被災は鉛直方向の現象です.
今回の実験では,直立ケーソン堤と比較して,堤脚部により複雑な流れ場を生じる消波ケーソン堤を対象とし,根固めブロックを含むマウンド被覆ブロックの安定重量を,より合理的に算定する手法を検討することを目的としました.
そのため,鉛直方向の代表的なパラメタとして差圧を,水平方向の代表的なパラメタとして水平方向水粒子流速をもちいてマウンド上における被災の分布を評価しようと試みました.
実験データが少なかったため,整理が十分とはいかなかった面も有りますが,堤脚部では鉛直方向の,のり肩部では水平方向の現象が勝っていることを示すことは出来たと考えております.
今後はご指摘の通り,堤脚部での被災は鉛直方向の現象と捕らえて,差圧と鉛直方向の流速の関係を明らかにするとともに,実際に設計する場合に使い易いパラメタを探して行こうと考えております.
論文番号 165
著者名 鈴木高二朗、高橋重雄
論文題目 消波ブロック被覆堤のブロック沈下に関する一実験
討論者 伊藤一教(大成建設 技術研究所 海洋水理研究室)
質疑
(1)ケーソン下の地盤は地盤改良されることがあるが、砂地盤のN値と吸出しとの間には何かの関係があるのか、無いのか?
(2) 被災例から見て、(1)の傾向はあるか?
回答
(1)消波ブロックの沈下を引き起こす原因としては、地盤に関連していうと、
1) 砂地盤の表層の砂が、波によって吸い出され、ブロックが沈下する。(今回の論文の内容)
2) ブロック下部の砂地盤が波によって液状化、あるいは液状化に至らないまでも軟化し、ブロック法先部が円弧すべりなどを起こしてブロックが沈下する。というように、2つ原因が考えられます。吸出については地盤のごく表層の話なので、N値よりもむしろ砂地盤の粒径の方が問題になっているものと思います。ただし、2)の原因についてみると、地盤の強度が重要であり、砂地盤のN値が小さい場合には波による地盤の液状化によって被災が発生する可能性があるのではないかと思います。我々は今回の吸出実験の他に、液状化によるブロックの沈下についても検討しましたが、1/10程度の実験スケールでは液状化が再現できず、砂地盤の強度とブロックの沈下に関する関係を捉えるまでには至っていません。今後、より大型の実験と数値計算により、その可能性を調べていく予定でおります。
(2)今までに、いくつかの現地の被災例を調べてきましたが、傾向をつかむには至っていません。ただし、吸出に関していうと、地盤改良に用いた砂が細かく、その上の捨石、あるいはブロックの粒径が大きければやはり吸出を受けるのではないかと思います。
討論者 半沢 稔((株)テトラ)
質疑
マウンド下部が沈下する可能性を示唆されていると解釈しました。
一つの説明として、流速の岸向き、沖向きの継続時間が法先はほぼ同じ、マウンド下部は沖向きが長いことが上がられています。マウンド下部の砂(粒)の移動経路はどのようになっていますか?法先まで行って止まっているような気がしますが?
マウンド下部は流速でゆるい状態になって沈下するということではないのですか?
回答
今回の発表ではお話しできませんでしたが、法先付近の水の動きについていうと、水平方向流速だけでは、説明が付きません。
(1) 吸出量が多いマウンド下部の部分は、マウンド内全体で、流れがほぼ水平方向に流れており、かつ、沖向きの流れの継続時間の方が岸向きの継続時間より長いという特徴があります。
(2) 一方、法先部分では、地盤のごく表層部分は水平方向に流れており、かつ、流れの継続時間が沖向き、岸向きほぼ同じくなっています。しかし、地盤表層より少し上の部分では流れが鉛直上向きになっていて、マウンド下部から舞い上がって流れてきた砂粒子はそのまま持ち上げられ、一部はさらに沖の方へ拡散し、一部は越波水とともにケーソンの背後まで運ばれます。従って、マウンド下部から奪われた砂は法先に堆積するわけではありません。
(3) 次に、マウンド下部の地盤の状態ですが、極表層に関していうと分かりませんが、基本的に消波工の大きな上載加重が載っていますので、地盤の強度はかなり大きくなっています。従って、緩い地盤の中に捨石やブロックが沈下するということはないと考えられます。
論文番号 169
著者名 佐藤敏文,西山桂司,田中秀基,渡邉和俊,大久保寛
論文題目 新型離岸堤(CALMOS)の波圧・応力現地観測と波浪応答解析
討論者 近藤俶郎(室蘭工業大学)
質疑
今回の現地観測の結果によって,CALMOSのコスト縮減がどれくらい可能か.
回答
今回の観測結果による設計波力算定法の見直しを行った場合,10〜15%のコスト縮減が可能となる見通しです.また,新型離岸堤のコスト縮減のために設計仕様の見直しも行われており,これらの効果とあわせると,維持管理費を含めた従来のブロック式離岸堤の工事費より1割程度工事費を安くすることができると予想しています.
質疑
以前の室内実験は規則波か不規則波か.もし規則波だとすると現地波のスペクトル構造によって波圧が減少しているのではないか.
回答
室内実験は2次元水槽で規則波を作用させた室内実験波圧と,現地観測の波圧を同じ箇所で比較しています.室内実験は設計波圧評価式の根拠とするため、構造物に衝撃的な波圧が作用するように実験条件を設定しました.一方,下新川海岸では海底勾配が1/40と実験(1/30)より緩いことや,周期と波高の関係から,実験室と同じような衝撃的な波圧が作用しないと考えられます.従って,実海域と実験室の砕波形状の違いが,波圧が減少した最も大きな要因であると考えています.
論文番号 170
著者名 増田光一,有田 守,佐野堅一,前田久明,居駒知樹,鈴木圭太
論文題目 超大型浮体式海洋構造物の2次長周期波力による弾性応答に関する研究
討論者 大山 巧(清水建設 技研)
質疑
差の周波数成分(2次オーダー)に対して実験と計算の比較をしていますが,実験で自由波制御をしない限り入力振幅が全く異なっているはずです.すなわち,拘束長波を入力とする計算に対して,実験では拘束長波と寄生自由長波が混在します.拘束長波と寄生自由波の振幅は同程度であり,模型近傍では逆位相に近いので,結果として,実験における差の周波数成分の入力振幅は計算のものよりもかなり小さくなっていると思います.
論文番号 174
著者名 高谷富也,前野賀彦
論文題目 先端拡底杭基礎上のケーソン防波堤の地震時応答について
討論者 高山知司(京都大学防災研究所)
質疑
ケーソンの重量をマウンドと杭で分担して持つのか.
回答
地震時解析を行うに場合、まずケーソン,杭および地盤等の力学的諸定数対する重力場の解析(静的解析)を行い,地盤内部の初期応力・ひずみ状態を調べます.次いで,この初期応力状態に対して,加速度を基盤に入力して動的解析を行います.したがって,マウンド及び杭基礎が存在する状態で静的解析を行うため,ケーソンの重量はマウンドと杭基礎で分担されることになります.分担割合については今回求めていませんが,節点力を求めることにより分担率を計算することは可能です.
質疑
マウンド内に杭を入れた場合,地震時に杭が動くとマウンドが乱される可能性があり,杭でケーソンを支持すると考えた方がよいのではないか.
回答
今回の解析は,捨て石マウンド上に設置されたケーソン防波堤を対象として,従来型のケーソン防波堤の地震時解析と同時に,ケーソン防波堤に杭基礎を用いた場合及び捨て石マウンド下に杭基礎を設置した場合について,地震時挙動解析を行い,杭基礎の存在がケーソン防波堤の地震被害に及ぼす影響について比較検討したものです.したがって,マウンド内に杭基礎が存在するため,杭基礎が動けばマウンドが乱されます.しかしながら,杭基礎がある場合は,杭基礎が無い従来型ケーソン防波堤に比べて海側への滑り出しや傾斜がかなり小さく抑えられるため,杭基礎を用いた場合の方がマウンドへの影響が小さくなっています.今後,施工性や経済性を考慮して,杭基礎のケーソン構造物への適用を考え,捨て石マウンドを設けず杭基礎のみをケーソンの下に設置した場合等についても研究を進めていく必要があるものと思われます.
論文番号 176
著者名 三浦 清一、横浜 勝司、川村 志麻、宮浦 征宏
論文題目 波浪力を受ける砂地盤の変形特性を考慮した海洋構造物の変位量推定法
討論者 前野 詩朗 (岡山大学)
質項
実験において、間隙水圧の縮尺は考慮されましたか。
回答
本試験では,任意の1要素での地盤内応力(鉛直応力,水平応力,せん断応力)を一致させた試験を考えました(本文中図−2参照).すなわち土槽内の任意点において繰返し三軸試験のような要素試験の考え方を取り入れたものです.地盤の強度は拘束圧の増加に伴って増加するという実験的事実からこのような方法を採用しました.
模型構造物に載荷させる荷重を決定するために縮尺κを用いておりますが,実地盤と模型地盤の要素にかかる各応力(鉛直応力で正規化された各応力値)は一致させております.また本試験は要素試験の考え方で行われているため,間隙水圧に関しては縮尺を考慮する必要がなく,測定された値を発生した間隙水圧値として評価できるものと考えております.
論文番号 177
著者名 水谷法美・Ayman M. MOSTAFA
論文題目 混成堤および潜堤の基礎地盤の波浪応答と局所洗掘に関する研究
討論者 前野詞朗(岡山大学)
質疑
Poro-Elastic FEMモデルにおいて非線形透水係数は重要ですか.
回答
粒径が大きい透水層では流速が大きくなるため,非線形性を考慮した透水係数を使用した方が実験結果との一致度はよいことを確認しており,その結果から判断する限り非線形性を考慮した透水係数を使う方がよいと考えます.
質疑
最大洗掘深が海底地盤内に引張力の発生する最大深と一致するのはなぜか.洗掘が進行すると引張力の発生する最大深はさらに深くなりませんか.
回答
実験結果との比較が示すように,最大洗掘深と引張力の発生する最大深さはほぼ一致していますが,必ずしも完全には一致しません.著者らは,洗掘は砂粒子が波の作用により不安定になる場所で生じやすいと考え,砂粒子間の拘束力がなくなる引張力の発生領域と洗掘深の関係を調べ,良好な対応を見いだしました.ただし,これは洗掘のメカニズムとして地盤の不安定性が寄与している可能性が非常に大きいことを示しているのであって,ご指摘のように洗掘が進行すると地盤表面の形状が変化し,引張力の発生深も変化することまでは本解析には考慮されていません.したがって,洗掘深を厳密に予測することはできませんが,洗掘の規模や場所についてはある程度この手法で予測できるのではないかと考えています.
論文番号 179
著者名 松見吉晴,荒井 清,太田正規,矢内栄二,増田 稔
論文題目 軟弱地盤上に投入した土砂の堆積形状とその予測
討論者 勝井秀博(大成建設 技研)
質疑
二山型のμxは物理過程を考慮しないと一般的には使いにくく,粒径や投入量が変わるたびに実験が必要となるのではないか?
回答
堆積形状が二山型になるのは,投入土砂の沈降に伴って生じる循環流に強く関係することが推測できる.この土砂群の沈降に伴う水平方向への移動に関する物理過程を確率論に基づいて開発した本予測モデルに組み込むために,本研究では,特に底開式バージの場合,右舷及び左舷側から投入された土砂群の水平方向への移動を持った落下挙動を平均値のズレで表現しようとしている.したがって,ご指摘のように平均値のズレの値については,投入土砂の粒径や土砂量の影響を受けるものである.なお,現場において堆積形状に関する計測結果が得られると,本予測モデルに含まれる未知統計量がパソコンで簡単に決定でき,また1工事行程中に使用される大部分の土砂が同一産地のものであることから,本予測モデルは現場において十分に適用できるものと考えています.
討論者 安井章雄(太陽工業?)
質疑
(1)実験でホッパの開閉速度20sは実際の工事のそれと合致しているのでしょうか
(2) 投入時間間隔の影響はでてこないでしょうか.また現場計測は計算と合致していますが,波浪の影響はなかったのでしょうか
回答
(1)実験に使用した模型船の縮尺は1/36でありますから,ホッパの開口時間は現地で120sとなり,この値は通常の全開式バージの開口速度(100s〜160s)と大きな違いはありません.
(2) 投入時間間隔の意味としてホッパ全開までの時間と理解して回答します.この時間は投入土砂量の時間変化に関係するもので,堆積形状に強く影響することが明らかにされています.この件については,本文の参考文献にあげています奥出らの論文を参照して下さい.また投入時の海象条件は,潮流及び風速がそれぞれ最大で0.15m/s及び1m/s程度であり,潮流及び波浪の影響を受けなかったことから計算結果と計測結果がよく一致したと思います.
討論者 姜 閏求(運輸省 港湾技術研究所)
質疑
予測モデルは,底面の透水性がどのように表現できるのでしょうか?すなわち,現地の地盤特性が分かれば,事前に予測可能なモデルになっているのでしょうか?
回答
本予測モデルでは土砂堆積に伴う原地盤の沈下量まで考慮しようとしたもので,現段階では原地盤の載荷荷重と沈下量に関する関係式が事前の実験で決定されている必要がある.この地盤の沈下量に関しては,土質力学の分野で行われている解析手法を導入することにより事前に決定できるような手法の開発を検討していく予定です.なお,底面の透水性の影響は投入土砂の水平方向への移動に影響を及ぼすもので,本研究では土砂の水平方向への移動に関する統計量に取り込まれている.
論文番号 181
著者名 山下俊彦,南村尚昭,新山雅紀,北原繁志,佐々木秀郎
論文題目 変動水圧下での液状化地盤中の軽量球の浮上機構
討論者 前野詩朗(岡山大学)
質疑
浮上に対する抵抗力(K畄畍/S)の物理的意味を教えて欲しい.
討論者 五明(東亜建設工業)
質疑
液状化深さ(液状化強度)と浮上限界との関係はどうなっているのでしょうか?
論文番号 182
著者名 前野詩朗ら
論文題目 波浪作用下における海底埋設パイプラインの浮上機構に関する研究
討論者 吉岡 洋(京都大学防災研究所)
質疑
1.ここで得られている知見は,パイプラインでなく,海底ケーブル(直径2cmから10cm)に対しても応用で
きるのでしょうか
2.パイプラインに波が直交している状況を想定しているが,平行している場合は,浮上作用は減少するのではないか.波の卓越方向にそわせてパイプラインを設置できれば浮上被害は軽減できるのではないか.
回答
ご質疑頂きどうもありがとうございます。まず、直径の小さい海底ケーブルに対しても適用出来るかどうかという質問ですが、直径が2cm程度とかなり小さい場合には浮上力としては小さいと思いますが、10cm程度あれば今回の実験と同程度の浮上力は存在するものと考えられます。とくに現地における埋設深さが浅い場合には浮上力に対する安全性を検討する必要があるものと考えます。また、直径が2cmと小さい場合には、地盤の一部として挙動することが考えられるため、浮上力よりも地盤の動的挙動との関連で安全性を検討する必要性があるものと考えます。つぎに、パイプラインが波の方向に対して直角でなく、平行している場合はどうなるかという質問ですが、パイプが波に対して直角に設置されている場合にはパイプの縦断方向に対して一様に浮上力が作用しますが、パイプに対して平行に波が作用する場合には、パイプの縦断方向に浮上力が作用する部分としない部分とが現れます。後者の場合には、局所的にパイプに浮上力が作用するため、全体としての破壊は避けられるかもしれませんが、局所的な破壊は起きる可能性があるものと考えられます。また、ご指摘の通り、波の卓越方向が分かっておれば浮上力を抑えることが可能かもしれませんが、波の方向は必ずしも一定ではないため、局所的な破壊を起こさないためにも、設計の際には最大浮上力に対する安全性を考慮する必要があるものと考えています。
討論者 山下俊章(北大・大学院・工学研究科)
質疑
パイプがある場合とない場合で同じ深さの間隙水圧はどの程度変化するか教えて下さい.
回答
ご質疑頂きどうもありがとうございます。パイプのある場合と無い場合の間隙水圧の違いについての質問ですが、どの程度変化するかは、地盤条件、地盤上に作用する水圧条件、パイプの埋設深さ、パイプの直径等によって異なります。一般的に、パイプが存在するとパイプがない場合に比べて、パイプ上では水圧は伝播しやすくなり、パイプ下では水圧は伝播しにくくなります。極端な例ですが、昨年の海岸工学論文集で発表したように、透水係数がかなり大きな条件では、間隙水圧分布はパイプの有無にほとんど依存しなくなります。
討論者 勝井秀博(北大・大学院・工学研究科)
質疑
図10のようなシンプルモデルにおいて,抵抗力をハッチングのような領域だけで良いか否か,個別要素法の結果で判断できますか?
回答
ご質疑頂きどうもありがとうございます。図10で示したシンプルモデルで、抵抗力を算出したことに対する質問ですが、現在、静的な浮上試験によって浮上抵抗力の算出を行い、それによって、浮上限界を求めるための研究を進めています。つぎに、個別要素法の結果で抵抗力を示す領域を判断できるかどうかの質問ですが、今回用いた個別要素法は、数値計算の都合上実際の砂粒子をかなり大きな径の粒子に置き換えて計算しております。従って、個別要素法による解析は、パイプが浮上する過程を可視化したものであり、実際の抵抗力を表す領域を判定することは難しいものと考えています。もちろん、粒径を実際の砂粒子程度に小さくして計算すれば抵抗力の領域を判定可能とは考えますが、計算容量や計算時間等を考慮すると現状では困難と考えます。
論文番号 183
著者名 有田昌義、藤井貴、高月邦夫
論文題目 大規模冷排水の拡散予測手法の実用化
討論者 関岡裕明(東和科学 調査設計部)
質疑
近傍に温排水を排出する施設があるかどうか。あれば温排水と冷排水との関連性についてどのように配慮するのか。
回答
排水口の東側約1kmに北陸電力(株)敦賀発電所があります。温排水の存在が冷排水の拡散に及ぼす影響については、水理模型実験により確認しております。放水口の初期流速や仰角 をある程度大きくすることにより、冷排水は温排水の躍層面に衝突し、冷排水の希釈は良くなることを確認しています。
論文番号 185
著者名 泉山 耕、堺 茂樹
論文題目 氷海域に於ける流出油の拡散に関する実験及び理論解析
討論者 三村信男(茨城大学広域水圏センター)
質疑
通常の海域では流出油の広がり、漂流が短期間で生じるが、海氷下ではどのような違いがありますか。海氷の存在は、影響を押さえる上で有利・不利どちらに働きますか。
回答
一般的に言って、海氷の下での油の広がりは、通常海域に流出した場合に比較して狭い範囲に留まると考えられます。これは、油の種類にもよりますが、油膜に働く界面張力が、水面上に於ける場合は油膜を拡大する方向に働くのに対し、海氷下では逆の効果を示すためです。従って、この意味からすると海氷の存在は拡散を押さえるという点で「有利」に働くものと言えるかと思いますが、実際の汚染防除作業全般と言う点からは、油の回収等のオペレーションにとって海氷が大きな障害となる場合も充分に考えられます。特に、氷の下に油が流出した場合はその存在領域の特定が問題となりましょう。本研究は、この点に鑑み、氷の下での油の拡散予測のための基礎的研究として実施したものです。
論文番号 186
著者名 渡辺正孝、天野邦彦、石川裕二、村上正吾、田村正行、木幡邦男
論文題名 東京湾におけるタンカー事故による原油流出解析
討論者 日野幹雄(中央大 総合政策)
質疑1
粒子の拡散の計算方法をもう少し詳しく説明して欲しい。個々の粒子を移動させる操作で、乱数による乱流効果は入れているのか。大気拡散のシミュレーションでは使われている手法であるが。
回答
追跡用のマーカーを計算格子中に配置し、格子状4点での流速を線形に内挿して計算した流速を与えて、各計算ステップ毎の移動を計算して表しています。ご指摘の様に乱数を発生させて乱流効果を入れる手法により計算結果の改善が期待できると思います。今回の計算では、油膜の広がりについて詳細な検討はせず、水面上の油の重心位置の移動速度を計算して追跡するという考え方をとっており、簡便な手法にとどめています。
質疑2
図―8の衛星写真を見ると、細い筋が幾本もみえる。同様の現象はナホトカ号の場合の 衛星データにも現れている。このようなシミュレーションでは出てこないのはどんな現象なのか?ラングミュアー・サーキュレーションとは異なるのか?
回答
図―8の衛星写真に現れた細かい筋は、往来する船の航跡に由来するものと考えています。当日、南西の風が吹いていたことから、ラングミューアー・サーキュレーションによるものという可能性は残りますが、今回の計算では、この様な現象についての考察は行っておりません。ただ、1kmメッシュの空間レベルで、沈み込みが起こる地点については計算で再現できるので、より細かいメッシュを使えば、検討は可能と思います。
討論者 吉野忠和(東工大院 情・環)
質疑1
陸上の風を用いて風応力を算出することに問題があるのでは?
回答
今回の計算は、事故が起こった直後に行っており、その時点で連続観測データとして入手可能なものは、千葉、木更津、東京、横浜、習志野の5観測地点において取得されたもののみでした。このうち、東京、横浜については、事故発生時に東京湾上で卓越していた風が南西風であることから、湾上の風としての代表性に欠けると判断し採用しませんでした。習志野についても、観測地点が内陸にあるとの判断で採用しませんでした。このため、千葉及び木更津における観測値を用いることを考えましたが、木更津については、欠測が多く、このため、千葉(ポートタワー上)での観測値を入力条件に使用しています。
質疑2
風は時間的のみならず空間的にも変動していると考えられるので、その影響を考慮する必要があるのではないでしょうか。
回答
ご指摘の通り風の空間的分布がより正確に与えられれば、計算の精度向上に大きく寄与すると考えられますが、今回の検討では、利用可能なデータとしては、千葉における気象観測値のみでしたので、これを使用しています。
質疑3
粒子の挙動は、表面流速による移流+拡散(乱数を用いることが多いと思います)で、表現されると思いますが、(1)式において、拡散の効果を考慮していないのはなぜですか?
回答
日野先生のご指摘にもありましたように、乱数を発生させることにより拡散の効果について考慮に入れることは可能ですが、日野先生への回答に述べましたように、今回の計算では、油膜の広がりについて詳細な検討はせず、水面上の油の重心位置の移動速度を計算して追跡するという考え方をとっており、簡便な手法にとどめています。
論文番号 188
著者名 加藤史訓,佐藤愼司,片田雅文
論文題目 海岸に漂着した重油の回収に関する実験的研究
討論者 日比野忠史(運輸省港湾技術研究所)
質疑
油が砂層内に層状に溜まるメカニズムはどのようなものか。
回答
油塊が前浜に堆積した後、汀線付近の海面に油がない時に岸沖漂砂により油を含まない砂が前浜に堆積した結果、表層には油塊がなく、地中に油塊の層が見られる構造ができたと考えられます。高温時の油の挙動実験の結果から判断すると、前浜上の油塊が浸透したためとは考えられません。
討論者 石田啓(金沢大学工学部)
質疑
礫の洗浄に際し、60℃〜70℃の温水中でミキサー洗浄すれば、油の分離が合理的に行えると思われます。
回答
御指摘のとおり、温水を用いて洗浄した方が効果的と考えられます。今回の実験では、そのような温水を確保できない現場で効果的に礫を洗浄をする方法について検討いたしました。
討論者 板垣英治(金沢大学理学部)
質疑
高温時の油の挙動実験(図−6)では海砂を電灯で暖め、油塊の挙動を調べ、油の焼融による拡散がおきると解説されていますが、油塊、海砂中には多数の個体の油分解菌が存在します。従って、加熱し、海水を入れることにより、細菌の活動が盛んになり、油の分解が促進されているのではないでしょうか。この点どの様にお考えでしょうか。
回答
御指摘のとおり、細菌による油の分解は生じているものと思われます。しかし、どれくらい分解されたのか、定量的には把握しておりません。
論文番号 189
著者名 鶴谷広一、細川恭史、日比野忠史
論文題目 東京湾ダイヤモンド・グレース号流出油状態変化
討論者 板垣英治(金沢大・理学部)
質疑
“油処理剤の主成分である精製パラフィンの炭素数は・・”とありますが、この表現は誤りではないでしょうか。正しくは、「アルキル鎖の炭素数」と示すべきと考えます。例えば、エチレングリコールオレイレイトはオレイン酸(脂肪酸)のエチレングリコールエステルであり、CnH2n+1COOHのオレイン酸がエステル結合したものです。従って、処理剤の構造として、極性基がどのようなものであるかが、生物処理のための重要な要因となると思います。
回答
参考にします.
討論者 石田啓(金沢大・工学部)
質疑
使用された油処理油の名前を教えてください。
回答
スノーラップ(日産化学工業),ネオスAB3000((株)ネオス)の2種類が主に使われています.
質疑
その使用の海底生物への悪影響の有無について教えてください。
回答
我々の調査した範囲では生物に対する影響はでておりません.正しい使用をすれば悪影響は無いと考えています.
論文番号 190
著者名 石田 啓 等
論文題目 ナホトカ号の日本海重油流出事故と今後の防御対策
討論者 金沢大学・理学部 板垣 英治質疑
「質疑に対する、補足回答」
金沢市の調査によりますと、(魚、貝、海草 等)生物に対する影響はほとんど認められなかったと報告されています。実際に「イワノリ」の採取が昨年の冬には行なわれています。
論文番号 191
著者名 板垣 英治、石田 啓
論文題目 ナホトカ号重油漂着と重油分解細菌による生物浄化
討論者 加藤 史訓 (建設省 土木研究所)
質疑
1)重油分解細菌を深さ20cmまでの範囲で確認されていますが、それよりも深いところにはいますか。例えば、深さ50cm、100cmのところにある油塊にはそのような細菌により分解されますか。
2)微生物により分解された重油は生物への毒性は無いのでしょうか。言い換えると、重油の分解をもって汚濁物質の消滅と考えてよいのでしょうか。
回答
1)今回の調査では金沢市の4つの海岸での油塊の深度分布は深さ20cmまででした。そのために採取し、重油分解細菌を調べた油塊は20cmまでのものです。これ以上深いところからの油塊試料を用いては調べてはいません。しかし、これらの細菌は空気中の酸素を必要とする好気性細菌ですから、深いところは生活条件はは適していませんので、その分布は少ないでしょう。また、油塊が始めからご指摘の様な深い所に分布するわけはなく、風、波による砂の移動により、あるいは人為的に深いところに埋めてしまうことになり、油塊が表層に存在している時に細菌が付着増殖しますから、必ず細菌はいると考えられます。しかし、生育条件の低下のために、おそらく重油炭化水素の分解の速度は下がることでしょう。従って、海岸に漂着した重油を砂の中に深く埋めることは、換えって重油の分解を遅らせることになります。金沢市が平成10年5月に行った残留油塊コア調査の結果によりますと、深いところで約50cmに少しであるが油塊は見つかっていますが、その形状から重油の分解はされていることが分かりました。
2)重油の化学組成は非常に複雑ですが、主成分は長鎖炭化水素です。ナホトカ号の重油では炭素数9から29までのものであり、中心は20のnーエイコサンです。一般に長鎖炭化水素は微生物により、(1)酸素添加酵素により水酸化され長鎖アルコールになり、(2)これが脱水素反応により長鎖アルデヒドになり、(3)さらに酸化され長鎖カルボン酸になります。これらの化合物はさらに代謝され、一部はエネルギー源となり、また炭素源となり利用されて行くわけです。細菌によってはカルボン酸の形で排出するものもあります。しかし、このものは他の細菌により容易に利用されます。従って炭化水素代謝物に関しては毒性の心配は有りません。問題は炭化水素以外の物質です。重油には芳香族化合物もわずかですが含まれています。これらが自然界でどの様に分解されるかは分かっていません。生化学的には芳香族化合物の分解は詳しく研究されてはいます。また、硫黄分も含まれています。今回重油塊より単離した細菌では、炭化水素の分解能の優れた菌株では重油を完全に茶褐色の水溶性状態に変えてしまいました。これは主成分の水に不溶性な炭化水素が代謝されたためと考えられます。
論文番号 193
著者名 山根伸之、寺口貴康、中辻啓二
論文題目 閉鎖性内湾の貧酸素水塊の形成機構に関する研究
討論者 佐々木 淳(東京大学大学院・工・社会基盤工学専攻)
質疑
1.底質DOは表底層密度差よりも水温差と高い相関があるということですが、これはどのように考えればよいのでしょうか。直観的には実際の密度躍層とは関係のないごく薄い表層の塩分変動が大きいことが相関を低くしているように思われますが。
2.風を考慮していないとのことですが、DOの供給には風による間欠的な現象が大きく寄与しているということは考えられないのでしょうか。
回答
1.20カ年の大阪湾のデータを用いて、底層DOと表底層密度差との関係を月別に整理しますと、両者に相関があることが分かりました。(山根ら:海岸工学論文集、第43巻、p.335, 1996) この結果は底層DOと水温差との間の相関性が強いことを意味しています。一般に河川水の影響を受けない海域においては、成層度は水温差によって決まっていますので、密度躍層の発達は水温差によってもたらされていると判断しても間違いではないと思います。
2.大阪湾においてエスチュアリー循環が生起していることは、著者らが指摘しているとおりです。通説は、「夏季に密度成層が強くなると、鉛直方向の移流や鉛直混合が抑制される。その結果海底部に停滞していた水塊が低酸素化、貧酸素化状態になる」と考えられてきました。本研究は、「エスチュアリー循環によって海底に沿って流入してきた水塊が、底泥の酸素の消費により貧酸素化する」というメカニズムを説明できたというのが主要な結論です。したがって、風の影響は考慮しておりませんし、この研究においては考慮する必要はないと考えています。
論文番号 194
著者名 橋本英資,高杉由夫
論文題目 浮上式MSPによる内湾の鉛直混合強度の測定
討論者 田中昌宏(鹿島建設 技術研究所)
質疑
(1)検証はされていますか?検証の方法としては,通常の流速計がトラバースできる場所で行うことが,考えられますが.
(2)中層で乱れが大きいのは事実でしょうか?同じ点で何度か測定することはできないでしょうか?
回答
(1)浮上式MSPを用いて測定した,エネルギー逸散率と鉛直渦動拡散係数を検証するためには,du/dzを正確に測定する必要があります.このMSPの浮上速度は50cm/sで,鉛直方向のデータ間隔は0.5cmであり,瞬時に鉛直方向に細かく測定をしているので,御指摘のように流速計をトラバースすることにより求めた値と直接比較することは適切ではないと思いますが,今後は参考値として比較検討して行きたい.
(2)測定結果を示したものであり事実であると解釈しています.さらに中層の乱れの発生原因について究明して行きたいと考えています.浮上式MSPを用いたエネルギー逸散率と鉛直渦動拡散係数の測定は始まったばかりであり,今後は定点において繰り返し測定を行い,乱れの鉛直構造の時間変化を捉えて行きたいと思います.
論文番号 195
著者名 阿保勝之,杜多 哲,藤原建紀,武内智行
論文題目 五ヶ所湾における中層貧酸素水塊の発生と予測
討論者 日々野忠史(運輸省 港湾技研)
質疑
貧酸素水塊が外海水によって持ち上げられるような現象は一般的な現象と考えてよいか.
回答
進入する外洋水が湾内の底層水(貧酸素水)よりも高密度であれば,外洋水は海底に沿って流入し,貧酸素水塊を押し上げることになります.五ヶ所湾では,このような現象が毎年夏季に発生しています.伊勢湾でも同様の現象が報告されています.湾内・外の密度分布にもよりますが,外洋水の影響を受けるような半閉鎖性の海域では,このような現象が起っていると思います.
討論者 上野成三(大成建設(株)技術研究所)
質疑
枝湾の物理プロセス・貧酸素化のプロセスが明確になったので,今後は外洋側の躍層の予測がポイントになると思う.五ヶ所湾は黒潮の接岸といった複雑な現象があるが,今後どのように検討されていくのですか.
回答
中層貧酸素水塊の発生は,沿岸湧昇に伴う湾外の躍層面上昇と密接な関係があります.本論文では,躍層面の上昇を風から経験的に予測する方法を示しました.もっと厳密な予測をするためには,黒潮の流路変動や黒潮系暖水塊の影響などを考える必要がありますが,複雑で難しいと思います.むしろ,湾外の水温等をモニタリングしながら,湾内の変化を短期的に予測する方法が現実的であると思います.
討論者 日野幹雄(中央大)
質疑
貧酸素水塊が上昇した際の魚ケージに関する対策は?魚ケージの直下に多数のエアレーション・パイプを配置する方法(局所的対策)は考えられないか.
回答
貧酸素化した場合の対策としては,養殖生簀の移動が考えられます.移動が困難な場合は,餌止などの対策が有効だと思います.質問されたような局所的対策は現在とられていません.コスト的にも大変だと思います.
論文番号 196
著者名 福岡捷二,鈴木篤,黒川岳司,中村剛,上原浩
論文題目 中海における流れと貧酸素水塊の消長
討論者 内山雄介(運輸省 港湾技術研究所)
質疑
底層のトランスポンダが湾口方向へ流れた原因を内部セイシュで説明しているが,水深が浅いので風などともっと直接的に関係してはいないのか.
回答
トランスポンダを放流した期間(10/3 16:00〜10/4 4:00)の風速は2〜3m/s程度と非常に弱い風で,風向も米子湾の短軸方向(横断方向)である南西風となっています(論文中の図−2(b)参照).これに対し,底層のトランスポンダは米子湾の長軸方向(縦断方向)である北西方向に移動しています.したがって風による影響は小さかったと判断できます.また,トランスポンダの挙動(加・減速)は湾奥部での界面振動の様子によく対応しています.したがって,底層のトランスポンダが湾口方向へ流れた原因は内部セイシュによるものと考えられます.
論文番号 197
著者名 五明美智男・佐々木淳・磯部雅彦
論文題目 東京湾湾奥の浚渫窪地における湧昇現象の現地観測
討論者 田中昌宏(鹿島建設技術研究所)
質疑
Wedderburn数は元々湖を対象として考えられた無次元量であり,コリオリ力などを考慮しないで導かれている.したがって1つの指標にはなるが,本来は新たな無次元量を考えるべきである.
回答
ご指摘の通りです.その他水平スケールの取り方なども再考が必要かもしれません.しかしながら,各湧昇の原因も考慮しつつより定量的に比較するためにあえて使用した試みとしては,観測結果との整合性も良かったのではと考えています.
討論者 日比野忠史(港湾技術研究所)
質疑
水深15〜18mに高塩分水が進入し同層の水温を上昇させたという説明をされたが,もともとその水深にはどの程度の塩分の水が存在していたのか?
回答
本文中にも示したように,深度8m,14mの塩分データの変動から,少なくとも深度14m程度までは沖合いの高塩分水に入れ替わったものと判断しています.説明が不十分だったかもしれませんが,水温の変動は見られるものの15m以深のどの辺まで高塩分水に入れ替わったかは不明です.
なお,湧昇前の窪地内水塊は非常に安定しています.計器回収・設置の際に行った採水の結果では,湧昇前の9月7日,15m以深の塩分は33.0〜33.1パーミルとなっていました.
論文番号 198
著者名 八木宏 鯉渕幸生 日向博文 灘岡和夫
論文題目 東京湾湾奥部の水環境に与える河川水の影響について
討論者 上野成三(大成建設(株)技術研究所)
質疑
この観測では表層での赤潮をとらえて、河川と青潮の関係を論じているが、中層での赤潮が発生する場合もある。表層のみのデータで河川・青潮の寄与を議論するのはやや危険ではないか。
回答
赤潮の発生がパッチ状で計測が難しいことはご指摘の通りです。そこで本観測と同時期に行われた東京都と千葉県の観測結果を検討しました。その結果、論文に掲載されている時期のクロロフィルaの増加が湾奥部の比較的広い範囲で起こっていることや、クロロフィルaの極大が水面下数十cmで起こっていることが分かりました。これは湾奥部の透明度がきわめて小さく、強光阻害がおこる深度がきわめて浅いためであると考えています。以上のことから透明度の低い湾奥部の夏場において、中層のみで赤潮が起こることは考えにくいと考えております。
討論者 川西 澄(広島大学工学部)
質疑
1.プランクトンの種類とその密度は検討したか。
2.プランクトンパッチはどのように移動しているか。
回答
1.96年度に二月に一回程度の頻度で植物プランクトン種(細胞数)を計測しました。この計測で優先した植物プランクトン種は珪藻類であった。
2.本研究では湾奥部の1点でのみ計測を行っており、プランクトンパッチの移動を検討することは困難です。今後湾内の多点で水質計測をすることが重要だと考えています。
討論者 田中昌宏(鹿島建設 技術研究所)
質疑
河川流量が大きい場合、河川プルームは西岸に沿って南下するが、今回の解釈とのつながりは。
回答
河川流量のちがいによって河川水の湾奥部への影響が異なります。また大規模な出水は強い北風を伴うため表層の流れが、風による影響を強く受けます。今回の研究においても、時期によって河川流量が異っていたため、異なる季節に同規模の出水があった場合に河川水がどのように拡がるかを数値計算で検討しました。計算の河川流量は年に5回程度の頻度で起こるものとして計算を行いました。
論文番号 199
著者名 滝川清,山田文彦,原田浩幸,北園芳人,中島和弘
論文題目 有明海沿岸域における干潟の浄化作用と環境特性に関する研究
討論者 平山彰彦(清水建設(株))
質疑1
図ー6に示された、粘土含有量とCODの測定法を教えて下さい。
質疑2
上記の2者の相関が高い理由を教えて下さい。
回答1
粘土含有量は,地盤工学会JSF T 131-1990の土の粒度試験法により、粒径0.005mm以下の土粒子を粘土としております。また,CODは,環境庁水質保全局水質管理課編「改訂版 底質調査方法とその解説」中の過マンガン酸カリウムによる酸素消費量(CODsed)[よう素滴定法]方法により測定しております。
回答2
主に以下の2点の事が考えられます。
まず、第1点は,白川・緑川河口域の底質土は両河川により運搬され堆積したもので、河川水の環境の影響を受けているという点です。粒子が小さく浮遊しやすい沈降速度の遅い粘土分と、これに吸着されやすい有機物とは同じ領域に沈降堆積する傾向にあると考えられます。このため、粘土分とCODは相関性が高くなりますが、河川水の影響を受けやすいため、河川の汚濁の程度により(COD/粘土分含有量)は異なると考えられます。
第2点は,白川・緑川河口域の有明海底泥は阿蘇の火山灰土に起因する微細な土砂粒子から形成されておりまして,そのうち砂は岩の風化や崩壊によって作られ,微細な土粒子は火山灰土によるものと思われます。この火山灰土(=おそらく粘土分に相当すると考えます=)が陸地では黒ぼくの名称で知られているように腐植質に富む性状を有しております。そのため粘土分が多いとCOD(腐植質も値に寄与する)が高くなると思われます。
論文番号 200
著者名 村上仁士,上月康則,鎌倉浩仁,北岡茂樹,孫慶植,豊田裕作
論文題目 堆積物摂食生物を活用した礫間接触酸化構造物内の底泥浄化法について
討論者 矢内栄二(東亜建設工業(株))
質疑
AVSを測定項目とした理由.
回答
AVSは,いわゆる「ヘドロ臭」の原因である底泥中の硫化物量を表す有効な指標であるので,測定項目としました.
質疑
通常の礫間接触構造物でも適用可能か.
回答
ゴカイの侵入できる空間があれば適用可能であると考えられます.しかしゴカイの種類により体の幅,体長などが異なるため,接触材の形状とゴカイ種の双方を考慮する必要があると考えられます.現在本研究では,礫として多孔質コンクリートを用いて実験を行っており,そのコンクリートの粒径,空隙率を変化させたものを数種用意し,ゴカイの生息に最適な形状のコンクリートについて研究を進めております.
論文番号 201
著者名 松梨史郎、今村正裕
論文題目 閉鎖性海域の窒素・リンに関する許容負荷量の推定の試み
討論者 田中昌宏(鹿島建設 技研)
質疑
太平洋側の境界条件の評価において、リンを太平洋の平均値としているが、実際は湾内から流出するリンの影響もあり、実際はもっと高い価ではないか?
もしリンが高かった場合、評価結果はどのように変わりますか?
回答
本論文では窒素・リンの評価を全国の湾を対象として検討しているため、その代表値として太平洋の平均値を用いた。個々の湾にとっては湾口の条件としてこの値が高い場合もあれば低い場合もあると考えられるが、上記の目的から考えてやむを得ないと思っている。またこの値が高い場合の影響は、基礎式から考えて、プラス側の影響とマイナス側の影響の両方があるため、評価結果がどのように変わるかは一概には言えない。
論文番号 202
著者名 片岡真二,田中昌宏,小林英一,小島 洋,Marinus Bokhorst
論文題目 大船渡湾における流況・水質の現状再現と養殖カキの役割について
討論者 佐々木 淳(東京大学)
質疑
(1)クリープ補正はStelling&Kester(1994)によれば,圧力勾配と水平拡散項に適用されているようですが,図−3のようにクリープ補正がある無しでこれだけ大きく変わってしまうのは,水平拡散項の影響なのでしょうか?水平拡散項の影響は移流項の影響に比べて小さいと思われるのですが,水平拡散項を十分小さくすれば,図−3の(a)と(b)はほぼ一致するのでしょうか?それとも圧力勾配が効いているのでしょうか?
(2) Delft3D-FLOWの計算時間(CPUタイム)の目安となるような情報をご提供頂けないでしょうか?例えば,使用計算機のそのスペック,そのような計算にどれだけCPUタイムがかかるかといったことです。
回答
(1)圧力勾配が大きく影響しているものと考えられます。したがって,水平拡散項を小さくしても同じ結果は得られないと予想されます。一方,Slordal(1997)はStelling&Kesterのクリープ補正は圧力勾配を多少過小評価することを指摘していますので,今後も改良が必要と考えられます。
(2) 塩分,水温を含む3次元計算で乱流モデルにk−εモデルを用い,クリープ補正無しの場合で以下の通りです。
ワークステーション(HP9000/735):0.00011秒/ステップ/グリッド
WindowsNT(200Pentium):0.00011秒/ステップ/グリッド
Windows95(200Pentium):0.00021秒/ステップ/グリッド
クリープ補正を行うと計算時間が15%増加し,k−εモデルを使うと計算時間が約2倍になっています。
討論者 平山彰彦(清水建設)
質疑
カキの排泄物が分解されて放出される栄養塩が,再び表層のプランクトンの生産に利用されているとのご発表でしたが,強い密度成層条件の下でどのように底から表層に輸送されるのでしょうか?
回答
御指摘のように,通常の鉛直一次元的な混合では,底層から表層への輸送は非常に小さいと考えられます。しかし大船渡湾の場合,水平方向の密度差に起因するいわゆるエスチャリー循環(or重力循環)が強く,表層水は外へ底層水は湾奥に向かって流れています。当然湾奥に向かう流れは湾奥で上昇しますが,大船渡湾の場合この上昇地点は最も大きい河川である盛川河口に位置しています。残差流の結果にも見られるように,盛川からの流れは密度噴流となってかなり強くなっており,この部分で底層水の表層へ連行が活発に行われ,底層の栄養塩が表層へ回帰するものと考えられます。
討論者 川西 澄(広島大学)
質疑
垂下されているカキが流動に大きく影響していると思われるが,その影響は考慮しなくても良いのか?
回答
御指摘のように現地のカキ筏はかなりの密度で配置されており,流れに少なからず影響しているものと思われます。しかし現状ではそうした事実を示すデータも無いため,今後の課題としたいと思います。
論文番号 203
著者名 中辻啓二,寺口貴康,山崎宗広
論文題目 近年70年の大阪湾水質の時間変化と環境事後評価の試み
討論者 日向博文(東工大 工)
質疑
最近70年間で河川流入量は変化しているのではないか?
回答
変化している。正確に把握していない。
討論者 日比野忠史(運輸省・港研)
質疑
1920年代頃の水質分析結果を用いるうえで精度をどのように考えたらよいのか.
回答
分析方法の違いもあり、誤差が実測値に含まれている可能性は大きい。単純ゆえに、精度の良い透明度の比較を示したのもそのためである。
論文番号 205
著者名 小松利光,岡田知也,松永陽一郎,中島信一,藤田和夫
論文題目 波浪エネルギーを利用した閉鎖性水域における水質改善法
討論者 武内智行(水産工学研究所)
質疑
1.上下動によって取水効果が低下すると思われるが,浮体装置の上下動を抑制する工夫をされているか.また,今後される予定はあるか.
2.計算では,水温は送水の途中の冷却により底層水温と同じになると仮定しているが,対象とするような浅い水域でこの仮定は成立するか.
(ラジエータを用いたにしても,周囲の冷水を温めることになるので,密度差を考慮した検討が必要と思います.)
回答
1.
浮体構造物が上下運動するかしないかは,対象とする波浪の波長と構造物の波の進行方向長さの関係に密接に関連するものと思われます.今回試験に用いたモデル機の波の進行方向長さは波長に対して同程度であった為,ご指摘のとおりの現象が起きました.実際に構造物を設計する際には波長と構造物スケールの関係まで考慮にいれた設計が必要と思われます.ただ,すべての波浪に対して上下運動を抑制するものではなく,あくまでも対象とする波浪に対してであり,対象とする波浪以上の波長をもつ波浪が入射した場合には上下運動はいたしかないと考えています.また,その方が,構造物の耐波設計上において有利と考えています.
2.
表層水を底層水温に近づけるまで冷却できるかどうかは水深よりもむしろ送水パイプ内の滞留時間に大きく関わってきます.したがって,たとえ水深が浅い場合でも,底層部にラジエータを設置して滞留時間を長くすれば水深の問題は解決できるものと考えています.
後半の御質問の趣旨は,(1)周囲水が温められるので,ラジエータの冷却効果は弱まり送水水温はそれほど冷却されないので密度差の影響を考慮すべき,(2)温められたラジエータ周囲水の上昇も考慮すべき,のどちらかと思います.
実際に起こる現象としては,ラジエータ周りの水は温められ上昇すると考えられます.したがって,ラジエータ周りは常に底層冷水となることが期待され,(1)の様な状況は多少はあっても著しくはないと考えられます.しかしながら,ラジエータを底泥に直接設置した場合には,底泥の保温効果によって(1)の様な状況になることは十分考えられます.したがって,設置の際にはラジエータを底泥に直接しない注意が必要です.
また,今回のケースでは,(2)に対する検討の必要性はないと考えました.なぜなら,水質改善を行う対象領域に比べラジエータの占める面積はほんのわずかな領域ですし,しかもその影響は平面方向へはそれほど影響を及ぼさないと考えられるからです.それ故,水平方向に現象は一様であるとみなせるとして,計算手法としても鉛直1次元計算を採用しています.
ラジエータおよびディフューザーの効果の参考として,現在行っています隔離水界実験(水深5m,100m2)の結果を簡単に紹介します.表層水温27.9゜,底層水温19.3゜の条件の下で,ラジエータ通過後(滞留時間15分)の水温は20.1゜でした.依然として水温差は0.8゜ありますが,ディフューザーによって送水は周囲水との混合が促進させられ,その混合水塊は底層から50cmまでの層に一様に拡がっていることが確認されています.
論文番号 206
著者名 山崎宗広,宝田盛康,上嶋英機,朝位孝二
論文題目 湾口部地形改変による停滞性海域の流況改善に関する実験的研究
討論者 日比野忠史(運輸省 港湾技術研究所)
質疑
このような手法によって海水交換を促進させるために適した地形は,どのようなものか.
回答
湾内水深に比べ湾口部の水深が深く,湾内が停滞している場では,深み埋め込み手法は有効であると考えています.しかし,その深みの程度や地形改変の規模,適用可能な湾の形状・スケール等については,今後さらなる詳細な研究が必要であり,検討していきたいと思います.
論文番号 207
著者名 田中昌宏,Robert Vos,稲垣 聡
論文題目 オイラーラグランジュ法を用いた赤潮発生のシミュレーション
討論者 上野成三(大成建設)
質疑
(1)ヘテロカプサなどの有害種では,数個/ccのオーダーでの予測が必要となる。ラグランジュモデルの強みは赤潮の初期の発生にあるのですが,数値モデルでそこまで精度が出るのでしょうか?
(2) 鉛直移動を考慮するには,オイラーモデルでもできる。その方が,計算負荷が小さくて良いのでは?
回答
(1)結局分解能の問題になると思いますが,オイラー量のグリッドのスケールに対し,ラグランジュ量を表現する粒子はさらにサブグリッドスケールまで表現する事になるので,オイラー的なアプローチより相対的に低濃度の現象に適していると考えられます。
(2) まずオイラーモデルでは必ず数値拡散の問題があり,上野さんも良くご存知のように,特に鉛直方向の現象には顕著に現れます。これは差分の次数を上げれば小さくなりますが,オイラー法に本質的に付きまとう問題です。これに対しラグランジュモデルはこの点を全く心配する必要がありません。また,本モデルのアルゴリズムでは,決してオイラーモデルに比べ計算負荷は大きくなりません。さらに生物学的にも,プランクトンの栄養塩の摂取にDroopの式を用いて栄養塩摂取の履歴を考慮する場合,ラグランジュ法では高精度に評価できます。
討論者 平山彰彦(清水建設)
質疑
(1)赤潮プランクトン濃度を実測値に合わせるために,光と栄養塩の制限因子の大きい方のみを考えて計算されたとの事ですが,根拠となる生化学的知見はあるのでしょうか?
(2) 1つの粒子が一定数のプランクトン群を代表しているという取扱いですが,増殖時における粒子内の密度増加や流れによる拡散の影響はどのように扱っているのですか?
回答
(1)御指摘のように現在のところ生化学的な根拠はありません。むしろ最大増殖速度などの他のパラメータに原因があったかもしれませんが,私たちはそうしたデータを持っていないので,今回は生化学パラメータは柳らに従いました。ただし,赤潮現象についてはまだまだ不明な点が多く,数値モデルの研究から生化学的な研究へのひとつの問題提起となればと考えます。
(2) 本モデルのラグランジュの計算粒子は,オイラーモデルのグリッドに対応するもので,粒子の数が分解能を表わします。後は定式化にしたがって,基本的に粒子の持つ窒素量が2倍になれば,分裂して粒子数は増えていきます。また,拡散はランダムウォークを用いて計算しています。
討論 佐々木 淳(東京大学)
質疑
モデル粒子の初期数を5千個とされていますが,この個数を変えても計算結果は同様なものが得られるでしょうか?また同様の結果が得られるならば,個数は小さい方が良い訳ですが,最小の個数はどのように決めれば良いとお考えでしょうか?
回答
1ケースのみ初期数を10倍の5万個と1/10の5百個でも計算しました。5百個では問題があり,5万個と5千個では結果がほとんど変わらなかったので,今回は5千個としました。このように初期個数の決め方に特に一般的な法則は無いのではないでしょうか?オイラーモデルでもグリッドのスケールは対象とする現象によって異なるように,ラグランジュモデルもケースバイケースで決めていかざるをえないと思います。
論文番号 208
著者名 佐々木淳、佐貫 宏(回答者)、磯部雅彦
論文題目 東京湾における富栄養現象の再現計算
訂正
誤:図−5 ST0におけるDO、リン酸態リヅ・・・
正:図−5 ST0におけるDO、リン酸態リン・・・
討論者 大成建設(株) 技術研究所
質疑
水質・生態系モデルの精度検証として貴重な成果と思います。現地データと計算データを比較する時、流れで起こる変化(青潮時のDO減少)と、生物変化(青潮後の急潮なDO増加)をきっちりと区別する必要があります。この研究では生物変化はどの程度再現できているのでしょうか。
回答
現地データと比較する際、DOの現地データは物理的な変化(移流・拡散、水面でのばっ気など)と生物的な変化(光合成、底泥での消費など)を含んでいるので、それぞれの変化がどの程度再現できているのか定量的に判断するのは難しいと思います。しかし、本研究で用いた東京湾流れ場モデル(佐々木ら、1996)は、夏季の水温、塩分データとの検証によって再現性を確認しており、物理的な変化に関しては概ね現象を再現していると考えます。生態モデルにおいては既往の研究を参考に、図−1のメカニズムを考えましたが、この生態モデルを組み込んだ東京湾数値モデルによって図−5および図−6のような時間変化と分布型が得られたので、生物変化もある程度再現されていると思われます。
ただ、今回生態モデル構築の際に用いた個々のモデルはすべてが東京湾に適用できるかどうか疑問もあり、ある程度パラメタの感度分析を行ったうえで、再現計算をしているので、生態モデルの詳細な検討も今後行っていきたいと考えております。
討論者 日比野忠夫(港研)
質疑
こういう種類のシミュレーション結果を検討する上でどのような観測を行うことが必要か。
回答
内湾における水質場は短期的にも大きく変動するので、数値モデルの検証を現地データで行う際、その現地データは連続的に観測したものが望ましいと思います。また、河口・湾口での開境界条件も内湾の水質現象に大きく影響することが数値モデルによって再現されていることから、湾奥だけでなく開境界での連続的な観測も重要だと思われます。
論文番号 209
著者名 平山彰彦、和氣亜紀夫
論文題目 リンのSSからの脱着とプランクトン細胞内蓄積を考慮した水質モデル
討論者 上野成三(大成建設(株)、技術研究所)
質疑
このモデルで春先のブルーミングが再現できないのはなぜですか?
回答
本研究は夏場に発生する藍藻による最大ブルームの再現をねらったものであり、春先の珪藻の小ブルームは考慮していません。もちろん、後者もモデルに加えて年間の変動を再現することは可能です。
論文番号 210
著者名 中村由行,Fatos Kerciku,二家本晃造,井上徹教,山室真澄,石飛裕,嘉藤健二
論文題目 二枚貝が優占する汽水湖沼の水質のモデル化
訂正
1.p.1048右段式(1)の上2行 「保存式は定常状態において以下のように・・」の文中、「定常状態において」を削除。
2.参考文献の最後の論文名において、"Diel change"を"Diel changes"に,
"shallow eutrophic lake"を"an estuarine lake"に訂正。
討論者 田中昌宏(鹿島建設 技術研究所)
質疑
(1)風による混合あるいは水平方向の流動などは、モデルに組み込まれているか?
(2)シジミが4m以深にすめない理由は何か。
回答
本研究は、水質の水平分布の季節変動という長い時間スケールでの現象に着目している。そのため、風による混合や水平方向の流動の影響は、すべて水平方向分散係数で代表させ、直接取り扱ってはいない。
シジミが4m以深にすめない大きな理由は二つあるといわれている。第一には、4m以深ではしばしば貧酸素化の影響が及ぶためである。宍道湖は、同程度の湖体積を持つ中海を介して日本海とつながり、より高塩分の中海水が時折逆流し、湖心部に薄い塩水層が形成される。典型的には、水深約5m程度のところに塩分躍層が生じる事が多く、躍層形成後数日程度で深層水は貧酸素化する。貧酸素水塊は、しばしば風により励起された内部静振と共に振動し、4m以深にその影響が及ぶと考えられる。
第二の理由は、底質の粒径に関係があると言われている。シジミが生息する沿岸部の底質は粒径が比較的粗く、砂質である。一方、湖心を中心として水深が4m程度よりも深い底質は有機質に富み、微細泥化している。微細な底泥粒子はシジミのえらに詰まり、シジミが窒息死すると言われている。
論文番号 212
著者名 松永信博,児玉真史,福田和代,杉原裕司
論文題目 干潟における熱収支の観測
討論者 日野幹雄(中央大学)
質疑
水の拡散係数Kwに関する問題は,水文学の研究者達は次のように行っている.
水の層が無い場合,大気層(U,Ka etc)についてはMonin-Obukhov則が成立するので,u*,Qなどをunknownとして熱収支関係をiterationにより解いている.
今の場合,大気と土壌層の間に更に水の層があるが,同様の計算をすれば良いであろう.ただし水の層の流速分布則をどうするかが問題で, Monin-Obukhov則でいいのか,log-law的なものを改めて求めなければならないかも知れない.
回答
今後の参考にさせていただきます.ありがとうございました.
論文番号 214
著者名 宗景志浩、大原聡,長谷川浩、岩崎望,福家秀乗
論文題目 浦ノ内湾の成層期における栄養塩の生産・消費と循環について
討論者 日向博文(東工大,工)
質疑
(1)大潮で差し込みが発生する原因は何か?
回答
(1)浦ノ内湾では,まとまった降雨の後には湾内外で塩分差(密度差)が生じるため,密度流(差し込み)が生じます.しかし,通常は大潮によく発達します.これは密度差にもよりますが,湾外も表層塩分は低いため底層の高塩分水が湾口部のシル部を乗り越えるには大潮時の潮汐駆動力程度が必要であるからと思われます.
論文番号 215
著者名 桑原久実・川井唯史
論文題目 北海道忍路湾における波浪,ウニの摂食および海藻の関係
討論者 柴山知也(横浜国立大学)
質疑
波浪→ウニの摂食→海藻密度の関連は,磯焼け現象を説明するいくつかの要因の1つにすぎず,海藻密度を説明するには,陸域起源の栄養塩類の流入なども考慮する必要があるのではないか?
回答
磯焼けについては,従来から,海況の変化,栄養塩の不足,植食動物の食圧など,さなざまな説が出されました.松永先生の言われる陸域起源の栄養塩(フルボサン鉄)もこの一つです.様々な磯焼け説によって,地元の漁業者は,非常に混乱しているのが現状です.
この様なことから,我々は,何が主要因か決めるため現地試験を行いました.
忍路湾の湾奥(水深3m付近)は,磯焼け状態にあることが,我々の長年の調査でわかっております.ここに,1997年12月に10m×10mのウニの侵入できない領域を作りました(ウニ侵入防止フェンス).すると,このフェンスの内部だけにホソメコンブの群落が形成されました.また,今年も同様な結果が得られております.
これは,フェンスの内部だけ栄養塩が豊かであると全く考えられません.キタムラサキウニの食圧の凄さがわかります.この研究の結果は,次回報告したいと考えております.
討論者 日野幹雄(中央大学)
質疑
(1)図2において,冬期,海藻の繁茂水深とウニの生息水深が異なるのはなぜか?
(2)コンブの無い時期やコンブの無いサンゴモの地域では,ウニは何を食べているのか? このような状態でのウニの生息密度はどの程度か?ウニの増殖をおさえるためにも,ウニの生態を調べる必要があるのでは?
回答
(1)冬期,日本海は波高が大きくなり,水温も5℃近くまで低下します.これにともなって,キタムラサキウニは深みに移動することがわかっています.ウニの移動により食圧が減少した浅海域にホソメコンブの遊走子が着底して成長します.春期,波浪が穏やかになり,水温も上昇しますとウニはコンブを活発に食べます.この際,海藻群落の端部から食べていきます.これは,海藻が波によって良く動き回る構造を持ち,周辺の岩盤の表面を掃き回るため群落内に侵入できないものと考えられております.
(2)サンゴモ(エゾイシゴロモ)が約70%であると言われています.これは,キタムラサキウニの摂餌誘引物質がリン脂質等であるため,これを多く含むものが多く食べられているようです.この他に付着珪藻も摂餌します.夏と冬に付着珪藻が多く分布するため,摂餌する割合も増加しています.
論文番号 216
著者名 内山雄介、Peter R嗟ke、灘岡和夫、足立久美子、仲宗根琢磨、八木宏
論文題目 海岸地下浸透流およびそれに伴う沿岸域への栄養塩供給過程の解析
討論者 日向博文(東工大 土木)
質疑
地下水が重要になる海域はどのような海域か?
回答
海域の環境に対する地下水の重要性は、供給量そのものの大小と、海岸付近の水塊と河川水や沖合水との混合プロセスがどのようになっているか、という2つの側面から考える必要がある。
地下水による栄養塩供給量が多くなるのは、背後地に農地や畜産業などに利用された土地を抱えており、背後地の地下水位が高いという特徴を有する海域であると考えられる。背後地の地下水位が高い例としては、大河川や湖沼などの水面が内陸部に存在しているような場合であり、今回の場合、それは利根川と霞ヶ浦に相当する。
本論文で対象とした鹿島灘沿岸部では、地下水起源の栄養塩フラックスと比較して、利根川からの供給量が卓越していることが明らかとなった。また、その後の解析によって、砕波帯周辺の水域に注入された地下水による栄養塩は、沖側に栄養塩濃度が極端に低い水塊があった場合には、2日程度で希釈されて消失することが分かっている(土木学会論文集に投稿中:99年2月現在)。これらの事実と既往の研究例から推察すると、海岸線が長い、大河川がないなどの理由で河川の影響が小さいと考えられる海域や、閉鎖的であって、栄養塩濃度の低い外洋水の影響が少ない海域では、地下水による栄養塩供給が海域の栄養塩環境に対して卓越するものと考えられる。
論文番号 217
著者名 日比野忠史、鶴谷広一、西守男雄
論文題目 小規模湾における生態系の季節変化特性と流れ場の生態系への影響
討論者 芹沢真澄(海岸研究室(有))
質疑
久里浜湾について、防波堤の存在によって、藻場への栄養循環がうまくなされているとのことだが、単純に見て、湾口が防波堤でせばめられれば、海水交換は悪くなって、水質面等の環境は低下する方向に向かうと思う。防波堤によってよい効果が得られていると考えて良いのか。
回答
湾内に藻場等の海水浄化能力を持つ場がある場合には,防波堤等の構造物が生物環境に対してよい影響を与えることができる.構造物単体で水環境を考えず,生物や流れ場も含めて総合的に考えることが必要である.
質疑
防波堤設置前にも、この藻場はあったのか。
回答
ありました.
討論者 田中昌宏(鹿島建設・技研)
質疑
今回示された、大潮・小潮に伴う外洋水の浸入と、急潮など外海の海流との関係による外洋水の侵入との関係については検討されているか。
回答
ここで示したのは大潮・小潮に伴う外洋水の浸入について述べた.急潮等の時間スケールの短い流れは区別して考える必要がある.ただし,大潮・小潮に伴う外洋水の浸入と急潮等が同時に起こった場合には,それぞれが流れを促進,抑制する働きも有している.
討論者 日向(東工大)
質疑
大潮・小潮で水温・塩分が変動するメカニズムは何か。
回答
簡単にいえば密度流である.
論文番号 218
著者名 小野正順 他
論文題目 外洋性二枚貝の浮遊稚貝の着底率と波と流れによる着底稚貝の移動に関する研究
討論者 瀬戸雅文 北海道立中央水産試験場
質疑
北海道にもウバガイ(外洋性二枚貝)が存在するが,ウバガイの場合は今回の発表の調査水深よりもう少し深い水深帯に着底後,砕波帯に波などで移動してくるものと考えられているが,もう少し深い部分について調査されていないか?
回答
調査は行っていない.実測データは,愛知県水産試験場の御協力を頂いたので,調査範囲の選定理由については不明である.調査結果(図-2,5)からもわかるように,ご指摘の通り水深の深い領域にも多くの着底稚貝,浮遊稚貝の分布が見られる.現象解明のためには,水深の深い領域まで調査する必要があると考えられます.
論文番号 219
著者名 清野聡子・前田耕作・日野明日香・宇多高明・真間修一・山田伸雄
論文題目 カブトガニは何故その岸辺に産卵するのか?―産卵地の地形・堆積物・波・流れの特性
討論者名 中央大学 日野幹雄
質疑<1>
(1)説明された箇所である防波堤は人工物であるが、防波堤が造られる前はどこに産卵していたのか?
(2) また、同地域の同じような海岸条件のところも産卵場となっているのか?
回答
(1)人工構造物のない海岸でも、内湾湾奥部の海岸で同様な条件がそろっている場所であれば産卵が確認されている。本論文で取り上げた場所は、数十年前から存在していたため地域の自然環境の一部をなしている。このため、建設以前の情報はない。本論文で述べた場所も、人工物そのものが重要なのではなく、海浜を形成し維持する機構を発揮する上で条件のいい場所に防波堤が設置されたためと考えられる。ある意味では、本論文で述べた海岸は、完全に自然な一次的自然海岸ではなく、二次的自然海岸といえる。
(2) 同地域の同様の海岸条件でも、産卵場が発見されている。本論文集のNo.220の論文も参照されたい。さらに、福岡県など他地域の同様の物理条件のところでも、産卵場が確認されている。よって、本論文で述べた条件の普遍性は高いと考えられる。
討論者 水産庁 長野章
質疑<2>
産卵場所を見ると防波堤の表裏にあり、物理条件は大きく違うと思う。産卵場所の解釈として「物体に寄る」という解釈は出来ないのか?(図-2)
回答
カブトガニの産卵場所が、内湾湾奥部や河口域、河川の下流域蛇行部内岸側の「物体」付近に発見されることが多い。その物体とは、必ずしも防波堤や護岸などではなく、岩や小島といった自然物でもある。海岸や河岸の「物体」により、本論文で示したような物理条件が満足されれば、産卵場としての利用可能性が高くなると言えると考える。(<1>の回答も参照されたい。)
討論者 大成建設(株)技術研究所
質疑<3>
カブトガニは大潮時に産卵するとのことだが、潮汐、潮流は産卵にどのような影響があるのか?
回答
潮汐については、上げ潮時に産卵に来るカブトガニの成体が海浜の汀線付近にアプローチする条件を作ると考えられる。成体カブトガニの体サイズでは完全に水上では這い回ることが困難であり、水中に体が没していることが条件である。さらに、産卵個体は、卵を砂浜の地下約10〜15cmに埋めるように産み付けるが、その際、浜の材料を掘削せねばならない。この場合、材料が水没していると掻き出し易いと考えられる。また、潮汐は、地中に産卵された間隙水の循環をもたらし、健全な卵発生に不可欠な卵への新鮮な水の供給を可能にする。
潮流については、特に海浜流の影響が強いと考えられる。本論文集No.220を参照されたい。
参考文献
☆清野聡子・宇多高明・大分県河川課:カブトガニの棲む干潟―八坂川の河川改修と環境保全―.大分県河川課(1999)(印刷中)
☆清野聡子・前田耕作・宇多高明・山田伸雄・真間 修一:カブトガニ産卵場の局所環境の観測-大分県八坂川河口の例-. 土木学会第53回年次学術講演会講演概要集,共通セッション, 208-209(1998)
討論者 清水建設技術研究所 萩原運弘
質疑<4>
復元する場合、カブトガニだけを対象にするのではなく、生物の多様性を配慮した干潟の復元をすべきである。
回答
当然ながらそのような認識と思想のもとに研究を行っている。しかしながら、保全の現場においては、キーとなる種を選んで計画作成を行うことが大切である。網羅的にその生態系の全構成種を対象とすることは、現実的に不可能であるためである。本研究で取り上げた絶滅危惧種カブトガニは、生活史を通じて、内湾、河口の環境要素をセットで必要とする。産卵時に砂浜、幼生の生育時に干潟、亜成体から成体が藻場を生活空間とする。よって、本種の保全イコール内湾、河口域の保全と考えられる。さらに、キー種は「シンボル性」が高いことも、現実社会で受け入れられる保全の方法論として重要と考える。事業にかかわる土木事業者や市民の「認知度」が低い場合には、その生物種やその生息環境へのシンパシーが低いことは自明である。よって、「生物の多様性」といった観念的な議論が通用しない切迫した保全のフロントにおいては、現地の自然と社会、双方のシステムの解析をもとに保全策の立案、遂行が行われるべきと考えている。
もっとも、学会や根幹の政策においては、観念的な議論が重要である。よって、干潟の復元技術の開発においては、説明レベルを多様に用意しておく必要があるであろう。上記の条件を満たすような、「生物の多様性に配慮した干潟の復元」の研究と技術開発は急務であると考え、研究グループとして取り組んでいるところである。
参考文献
☆清野聡子:水産学における「価値」問題 ―カブトガニを例として―. 月刊海洋,30 (4), 238-242. 1998.
☆清野聡子・宇多高明・前田耕作:地域固有の価値観、歴史性、稀少生物と河川改修―大分県八坂川の例―. 第4回河道の水理と河川環境に関するシンポジウム論文集.土木学会. 171-176. 1998
☆清野聡子:保全活動におけるカブトガニの価値観の変遷. ヒトと動物の関係学会第4回学術大会予稿集. 36. 1998
論文番号 220
著者名 清野聡子・宇多高明・真間修一・三波俊郎・芹沢真澄・古池鋼・前田耕作・日野明日香
論文題目 絶滅危惧生物カブトガニの生息地として見た守江湾干潟の地形・波浪特性
訂正
図−4を以下のものと差し替えて下さい.
討論者 松原雄半?(鳥取大学工学部土木)
質疑<1>
カブトガニの生息場所の分布の要因として、餌料生物の分布が関係するのではないか?また、害敵生物の存在も影響しないか?
回答
関係すると考えている。カブトガニは幼生時には移動能力が低いので、自ら遊泳して索餌することが出来ない。よって、カブトガニ幼生の生息イコール生息に不可欠な餌が存在することである。これは長い生物の歴史の中で成立している関係性である。例えば、幼生の生息域の泥干潟には、餌となるゴカイ類や稚貝が生息している。よって、餌料生物の分布から逆算してカブトガニの生息条件を求めることも出来る。
また、害敵生物については、カブトガニの捕食者は肉食性の節足動物、魚類、鳥類であるが、その存在との関係性は上記の餌料生物との場合と同様に考えられる。捕食圧など定量データは有していないので、分布を規定する条件が捕食者であるとの科学的証明は困難である。しかし参考として、生活史上の戦略の注目すべき点を挙げる。すなわち、減耗率が高い幼生時に、以下の捕食回避策がとられている。体サイズは水生無脊椎動物の幼生としては孵化時に既に大型であること、体色が干潟の泥に近く保護色となっていること、捕食者に発見されないように堆積物中に潜るなどの行動をとるなどしている。
討論者 建設省土木研究所 佐藤慎司
質疑<2>
幼生の確認場所と産卵場所はそれぞれ対応しているのか?
回答
対応していると考えている。産卵地から生まれ出た幼生は干潟で生育するが、そこに本当に到達できるのかという実証は現在行っているので、今後報告したい。本研究で取り上げた守江湾以外のカブトガニ生息地で、生息状況の善し悪しを左右しているのは、産卵場所の砂浜に隣接して干潟が残っているかどうかである。現在日本に残っているカブトガニ生息地の現地踏査によれば、良好な生息地では、上記の条件が整っていることは確実である。
討論者 水産庁 水産工学研究所 中山哲厳
質疑
(1)成体の生息場所はどのあたりですか?
(2)成体は湾の深い場所にまんべんなく分布しているのか?
回答
(1)湾口部から湾外にかけての沿岸域。既存の知見からもアマモ場が重要であるのは確かである。
(2)現在調査中である。バイオテレメトリー調査と漁業者へのヒアリング調査によれば、限定的な場所である。この結果については、続報を考えている。
論文番号 221
著者名 桑原伸司,佐々木秀郎,北原繁志,松山惠二,清野克徳,谷野賢二
論文題目 藻場生産力予測シミュレーションモデルの開発
討論者 瀬戸雅文(北海道立中央水産試験場)
質疑
流速,栄養塩濃度と生産率の実験について定常流で実験されているが,実海域は振動流場であり,これを定常流場の実験結果よりどのように適用すればよいのか.
回答
今後この実験結果を用いて振動流場の生産率を得るには、流速別に生産率を算出し、それを積算することで対応可能と考えている。
討論者 日野幹雄(中央大学)
質疑
流速と生産力の関係は,むしろ海中の溶存CO2濃度と生産力の関係と考えるべきである.つまり流速の増大は溶存CO2濃度を増やし,光合成を促進する.一方,光合成によるO2は拡散される.
日比野他の発表で藻場上のDOが日中は増え,夜間は減少していた.これは上の事実を例証している.
回答
松山(1998)が、光強度を変えながら光合成−CO2濃度の関係を実験した結果では、0〜0.1%の範囲で光合成速度は直線的に増加し、0.1%以上では光飽和状態となる。その点では御指摘のとおりである。しかし、対象海域のCO2濃度は、年間でも0.03〜0.04%の範囲で非常に安定しており、ホソメコンブの生産に与える影響は少ないものと判断した。
一方、阿部ら(1983)の報告にもあるように生産率と海水中のNO3濃度には明確な相関があり、また対象海域での変動も大きいことから、本モデルではNO3を扱うこととした。
討論者 平山彰彦(清水建設)
質疑
コンブの生産率が流速が大きい時に上がるのは,栄養塩フラックスが大きくなるためであるとの御発表でしたが,流速が大きくなるとコンブが傾き受光面積が大きくなるという要因も効いているのではないでしょうか.
回答
我々も過去に流速を変数とした「たなびき係数」という概念を導入したが、現状をあまり再現できなかった。これは、本モデルでは群落を扱っており、「たなびきに」による効果は群落縁面及び上面に限定され、大部分を占める群落内部は自身の成長が引き起こす光阻害(葉面積指数で規定される)の影響を大きく受けているためと推定している。
論文番号 222
著者名 桑原久実・川畑勝嗣・山下俊彦
論文題目 航空写真による北海道南西部磯焼け海域の海藻分布特性
討論者 灘岡和夫(東京工業大学)
質疑
(1)図6を見ると「磯焼けのランク」と「河川のランク」の間に有意な相関が有るようだが,このことは,磯焼け現象の発生に何らかの陸域の影響が明確に関与しているものと理解して良いか?(最近の説では,磯焼けには陸域よりも外洋の方が支配的であると聞いているが)
(2)航空写真から海藻の海底被覆状況を分類する手法について,具体的に示して頂きたい.
回答
(1)「河川のランク」が高くなると「磯焼けのランク」が低くなっています.これと同様に,「砂のランク」が高くなると「磯焼けのランク」が低くなっています.すなわち,河川のランクの高い河口域などでは,砂の供給により岩盤が砂に覆われている場合が多く,白い磯焼けを示す領域が隠れてしまい,「磯焼けのランク」が低くなっているものと考えられます.ここでの解析は不十分で,多重要因の解析をする必要が有ると思います.
磯焼けの原因については,
論文番号 215
討論者 柴山知也(横浜国立大学)
をご覧下さい.
(2)航空写真は,高度900m程度から撮影を60%オーバーラップで行います.
これを実体視して,被覆表面の色調,きめ,パターンから藻場の領域を判読していきます.
この際,特徴的な場所で潜水し枠取り調査を行い,画像と海藻の関係を明確にしておく必要があります.
討論者 田中昌宏(鹿島建設,技研)
質疑
(1)この海域の磯焼けの歴史的変遷を教えて下さい.
(2)ウニは,海藻が無くなると何を食べていますか?
回答
(1)磯焼けは,1930年ごろから発生し,1960年ごろから顕著になったといわれています.しかし,聞き取り調査によるもので,あまり確かなものは無いようです.
(2)
論文番号 215
討論者 日野幹雄(中央大学)
の回答をご覧下さい.
論文番号 226
著者名 西嶌照毅、宇多高明、中辻崇浩
論文題名 琵琶湖における植生の繁茂限界について
討論者 林建二郎(防衛大学 林建二郎)
質疑
(1)植生の繁茂限界の指標としてC=4以下を指摘されていますが、この値の中に、植生の持つ耐波特性や土砂の捕捉効果等も含まれていると考えてよろしいでしょうか。
(2) C>4となるような現地にヨシ等を生やしたい場合、C=4以下になるように海浜材料の粒径を調整(大きくする)すれば、植生の繁茂が可能と考えてよろしいでしょうか。
回答
基本的に植生が繁茂する条件としては、海浜(湖浜)の底質が動かないことが必要条件であると考えています。つまり、ヨシ等の抽水植物が生育したからといって、その場所に植生が繁茂するとは考えにくいわけです。ただ、ヨシ等の成長により、ある程度は波浪が制御され、底質が捕捉されるような相乗効果はあると予測されますので、C値には、ご指摘の耐波特性や捕捉効果が多少含まれているといえるのかもしれません。
また、C値は、ご存じのとおり、波浪特性と海浜(湖浜)勾配、砂粒径によって表されておりますので、海浜(湖浜)粒径だけを大きくすれば植生が繁茂するとは考えられません。また、ヨシ等が生育する土壌条件として細砂やシルト分がある程度必要であることを考えあわせると、波浪の大きな場所では細粒分がとどまらず、植生の活着は難しいのではないかと考えます。
討論者 萩原道弘(清水建設)
質疑
河川からの土砂供給等は植生の繁茂には影響していないのですか。
回答
ご指摘のように河川からの流砂量の増減等によって、河口砂州に繁茂する植生の面積が増減するのは事実であります。ただ、琵琶湖の湖岸植生は、現在の湖岸地形によってある程度汀線変化が安定(静的平衡)した段階に達しているため、論文に示すような見解が見いだせたと考えています。なお、もっと大きな時間スケールで見た場合には、土砂供給量の差が繁茂の面積に多少影響を与えていると考えられますが、今回その検討はしておりません。
論文番号 227
著者名 佐藤愼司、加藤史訓、杉本利英、本間勝一、吉越一夫、唐澤忠雄
論文題目 新潟海岸および下新川海岸における植栽の現地試験
討論者 日比野忠史(運輸省 港湾技術研究所)
質疑
植栽を行う場合に、飛砂のみを考えればよいのか。
地下水位等他の要因についてはどうか。
回答
沿岸部で植栽の障害となる条件には、飛砂のほか強風、潮風、強い日射と地盤の乾燥、砂地では植栽する土壌がないことが挙げられます。また北陸地方では寒風による障害を受けることも考慮しなければなりません。これらに対しては、いずれについても適切な対策を実施する必要があり、今回の現地試験でも、論文集に記載のとおり実施しております。また、このような条件に耐性のある植物を選定することも非常に重要な問題です。
その中でも、新潟海岸試験地のように砂の移動が激しい砂丘地では、飛砂をくい止めることが最も優先すべき問題であり、飛砂にさらされる状態では樹木は幹や枝葉を損傷し、また植栽地自体が砂に埋まってしまうため、植栽自体が実行不可能と考えられます。
根系が分布する範囲に地下水が存在すると思われる場合は、水位、停滞水、塩水などに注意し、適切な対策を実施する必要があります。
討論者 内山雄介(運輸省 港湾技術研究所)
質疑
特に長い根を有するマツでは、地下水中への塩分の侵入や後背地からの栄養塩供給が成育に対して重要なポイントとなると考えられるが、観測ポイントでの後背地側の地下水位と平均海水面の位置関係はどうなっていたのか。
また、地下水の影響はほとんどないと解釈できるのか。(その理由?)
回答
新潟海岸試験地においては、樹木植栽地に隣接して観測井を掘削し、地下水の水位と塩分濃度を調査しております。地下水位は、TP=0.75mで、平均海水面(TP=0.5m)と、ほぼ同じでした。地下水に含まれる塩化物イオンの量は100mg/Lでした。樹木植栽地の地盤高は、TP=5.7m以上なので、地下水位は地盤高から4.95m以上の深さにあり、根系の大部分が分布する地表浅層に地下水は存在しないことが確認されました。したがって、地下水の影響は、ほとんどないと考えられます。試験地の後背地側の地下水位は、特に調査しておりません。
下新川海岸試験地においては、試験地が平均海水面より5m以上高い所に位置しているのと、堤防背後の埋立地であるため、地下水調査は実施しておりません。
論文番号 228
著者名 宗景志浩、岩崎望,秋沢歌織,長谷川浩、大原聡
論文題目 浦ノ内湾における植物プランクトンの分布構造と短期変動について
討論者 佐々木淳(東京大学)
質疑
(1)種の変遷,特に珪藻と鞭毛藻の移り変わりはどのような要因に支配されているか?
回答
(1)浦ノ内湾では,過去にも7月,8月に入り現場水温が26度を越えるようになると,急に鞭毛藻類の増殖が止まる例が見られました.一方珪藻類はブルームの時期を除けば変化は小さく,ある程度はいつでも見られるようです.
今年度,湾内6点の底泥を水温18度及び28度で培養して鞭毛藻プランクトンの発芽数を調べたところ,前者に比べ後者は,いずれの場所でも発芽数が有意に減少することが分かりました.従って,鞭毛藻から珪藻への種の変遷には水温上昇が理由の一つと考えております.
また,1997年度は7月25日頃から急激にプランクトンが減少しましたが,同時に溶存態のMn濃度,燐酸態リン濃度も減少しました.その後の分析実験の結果,これは差し込みによる溶存酸素補給により還元的な鉄やマンガンが酸化され,これにリンが吸着されるため(リン消費量の50%程度),リンの不足が生じたことによると結論されました.
討論者 (大成建設技術研究所)
質疑
(1)渦鞭毛藻類(Gyrodinium dominans)から珪藻類(Chaetoceros distance)へ急に変化する理由はなにか?
回答
(1)上記,佐々木先生のご質問とほぼ同様と考えます.
討論者 田中昌宏(鹿島建設)
質疑
(1)ChattonellaからGyrodinium dominans への遷移は捕食で説明できるのでしょうか?
回答
(1)ChattonellaからGyrodinium dominans への遷移に注目した解析結果を,共著者の秋沢,岩崎,上田,宗景が1999年度海洋学会で新たに発表します.一つの考えですが,充分可能性のあるメカニズムと思います.
論文番号 229
著者名 佐々木 淳
論文題目 数値植物プランクトン個体群モデルに関する基礎的検討
討論者 神子直之(茨城大学工学部)
質疑
個体群増殖にDroop式とMonod式のどちらを水質モデルに採用すべきと考えますか?
図6の結果(本論文のロジック)だと,用いる式によっては増殖が多い(Monod式),死滅が多い(Monod式)という印象を受けますが,両式の適用条件として底泥からの栄養塩の供給が統一されていないためであるとすると,「図6の〜の比較」との表現は誤解を招く恐れが大きいのではないでしょうか.
回答
まず,本モデルからは死滅がMonod式の方が多いという結果は出てきません.本モデルでは植物プランクトン個体群粒子が新たに生成されてからある一定の時間が経過したときに死滅するようになっているので,増殖が大きい方が結果として死滅するものも多くなります.
Monod式の場合は光等が十分にあって制限要因とならない場合に,環境水中の栄養塩を取り込んで増殖する訳ですが,その増殖速度はまさにその環境水の栄養塩濃度によって決まります.そのため,光等の制限が相対的に小さい水面付近で栄養塩が十分に存在する間は増殖速度が大きくなります.このように水面付近で増殖しますと水面付近の栄養塩濃度は低下し,本モデルでは下層からの栄養塩供給がほとんどない(弱い拡散のみ)ため,いずれ増殖できなくなります.その間にも寿命が来た個体群は死滅しますので,現存量は急速に減っていきます.これに対して,Droop式の場合は光合成を行っていないときにも栄養塩を取り込み,これを細胞内に貯蔵することができるという考え方に基づいています.そのため,光合成を行わない夜間にも栄養塩を取り込むことができますし,鉛直移動をする種では,全層にわたって栄養塩を取り込めるので,基本的に表層の栄養塩でしか増殖できないMonod式に比べて増殖量が大きくなり得ます.ただし,実際には底層水の湧昇や河川からの出水によって表層に栄養塩が供給される過程が存在しますから,現地の現象では本シミュレーションのような極端なことにはならないものと考えられます.
Droop式が威力を発揮するのは,鉛直移動をするような種の場合で,珪藻類の場合は両式の差は小さくなるものと考えられます.
討論者 田中昌宏(鹿島建設(株)・技術研究所)
質疑
Droop型とMonod型を比較する際の栄養塩の分布はどのようになっていますか?
回答
ある程度時間が経過すると,表層ではいずれも濃度が非常に低くなります.これは表層への栄養塩供給が基本的に存在しないことに起因します.一方,下層においてはMonod型に比べてDroop型の方が濃度が低くなります.これはMonod型の場合,下層においては光合成が活発でないために,栄養塩の取り込みが小さいためであり,Droop型の場合は光合成とは関係なく,細胞内栄養塩含量が小さくなればそれを補うことができるためであると考えられます.
質疑
図7 b)のデトリタス分布について,パッチ状になっている理由はどうしてでしょうか?
回答
初期条件として個体群粒子を20個均等に配置し,それぞれは計算開始後全体としては鉛直移動しますが,同時に乱流成分のようなランダムな動きがあります.そのため,ある日にある粒子はより水面近くに到達して光合成が活発になり,またある粒子は水面からやや離れたところまでしか到達せず,光合成が活発化しないといった不均一性が生じてきます.その結果,計算開始後あまり日数の経っていないある日時に着目すると,光合成による有機物生産量が不均一になり得ます.デトリタス粒子は植物プランクトン粒子のうちその寿命が来たものという位置づけなので,ある時刻をとればデトリタス粒子の生成にも不均一が生じると考えられます.シミュレーション時間を十分に大きくとり,なおかつ適当な時間平均を施せば,滑らかな分布になるものと考えられます.
討論者 二瓶泰雄(東京工業大学情報理工学研究科)
質疑
粒子群間の相互作用を考える必要はないか?
回答
申し訳ありませんが,相互作用というのがどのようなことを意味されているのかがわかりません.互いに引き合う集積性のようなことでしたら,空間スケールを非常に小さく取らないと(従って,粒子数が非常に多い)考慮できないでしょうから,内湾スケールの話をする場合には非現実的であろうと思われます.また,プランクトンが過密になった場合に活性が低下するようなことを考慮する場合にも,非常に小さな空間スケールで議論する必要があると考えられます.現状の計算機の能力からすれば,粒子モデルを採用する利点はプランクトンの運動等の性質をモデルに比較的容易に取り込めるということではないかと考えます.
もっとも,マイクロコスム内の現象を再現するといった場合には,上で述べたような相互作用をモデルに取り入れて,数値マイクロコスムを構築するといったことは考え得るかと思います.
論文番号 230
著者名 瀬戸雅文,櫻井泉,吉澤裕,巻口範人,梨本勝昭
論文題目 波浪に伴うホタテガイの移動分布に関する研究
討論者 明田定満(水産庁水産工学研究所)
質疑
潜砂状態から海底面上に表出する機構をホタテガイの移動計算の中でどのように考慮しているのか。
回答
ホタテガイは表在性二枚貝であるため,ウバガイなどの埋在性二枚貝と異なり,潜砂深度も砂面と左殻がほぼ同じ高さとなる程度までと極めて小さく,潜砂状態で既に殻表面は海底面上に表出した状態で定位している。また,低流速下(5〜20cm/s程度)において,貝の跳躍による自発的な移動も若干認められるが,殆どの貝は今回提案した移動限界流速以上になると物理的に移動するもとの考えられるため,貝の自発的な移動については今回の移動計算では考慮していない。
論文番号 231
著者名 末永慶寛,藤原正幸,中田英昭
論文題目 マガレイ卵・仔魚の沿岸海域への滞留に対する鉛直移動の影響
討論者 田中昌宏(鹿島建設・技術研究所)
質疑
1.風と資源量の関係を示す統計データはありますか?
2.卵・仔魚の鉛直移動特性(上昇・下降のタイミング)の生物学的意味は?
回答
1.風の頻度(日数)とその年に定着した稚魚が資源に加入すると考えられる年の漁獲量との間に有意な負の相関が得られています(中田ほか,未発表).
2.着底前の仔魚は当然の事ながら主に下層に分布するようになることが知られています.卵の浮上については現場のデータを参照したもので,特に生物学的な意味があるかどうかは判りません.
討論者 三村信男(茨城大学・広域水圏センター)
質疑
1.この海域での着底場はほぼ一定の領域に決まっているのですか?
2.沿岸沿いに流失した場合,そこでは着底,生育は出来ないのですか?そうだとすれば,着底場を決める条件は何ですか?
回答
1.栗島北方にも着底する仔魚もいますが,稚魚期には分布が認められなくなることから,生き残りの状況はあまり良くないのではないかと考えられています.
2.着底場を決める条件については,まだ不明の点が多いのですが,稚魚が砂泥に潜る性質があることから,底質の粒径などがその要因となっている可能性があります.栗島北方はレキ質になるため着底場として適当ではないのかもしれません.
論文番号 232
著者名 谷野賢二・鳴海日出人・佐々木秀郎・北原繁志・本間明宏・黄金崎清人
論文題目 港湾域におけるヤリイカの産卵に関する研究
討論者 茨城大学広域水圏センター 三村 信男
質疑
ヤリイカの産卵域はどの範囲ですか。北海道の沿岸が主要な産卵域になっているのですか。
回答
ヤリイカは北海道・本州・九州・対馬・朝鮮半島南岸およびインドネシアのアンボイナなど広範囲に分布している(※1)。北海道では、対馬暖流や津軽暖流の直接影響を受ける海域に分布が限られる(※2)。
質疑
ヤリイカの減耗の中で、卵の減耗はどの程度の比重を占めているのですか。例えば、幼生期の減耗にとって、防波堤の前面のように波当たりの激しい場所は不利になりませんか。
回答
ヤリイカの生活史の各段階における減耗に関する知見がない。
例えば、アイナメ等はヤリイカのように防波堤の前面などを産卵場として利用している。また、構造物によって創り出される藻場が幼稚魚の成育空間となっている。さらに、消波工が創り出す空隙を多様な魚介類の生息空間として利用されている(※3)。これからも、構造物周辺が産卵場、卵の発生、生育場として不利になるとは考えにくい。
谷野ら(※4)は、ヤリイカ卵嚢の切断の流速を2.00m/secと推定している。消波工底部における観測期間の最大流速が32cm/secであり、切断流速を十分に下回っている。また、現地の目視観察で卵嚢の破損や切断の痕跡がみられなかった。さらに、防波堤前面での卵の生残率が天然岩礁よりも高いことから、そこでは物理環境的にも健全な卵の発育する環境であったと考えられる。
参考文献
※1 岡田要,内田清之助,内田亨(1965):新日本動物図鑑中巻,北隆館,pp.317
※ 2 中田淳ほか(1991):漁業生物図鑑北のさかなたち,北日本海洋センター,pp.260-263
※ 3 谷野賢二ほか(1997):沿岸構造物の魚礁機能に関する研究−構造物周辺の魚介類,葉上・葉間生物相−,海洋開発論文集VOL.13,pp.925-930
※4 谷野賢二ほか(1998):防波堤におけるヤリイカの産卵と卵の生残に関する研究,北海道東海大学紀要理工学系第11号,pp.35-47
論文番号 233
著者名 離岸堤設置による底生動物個体数の変化過程に関する考察
論文題目 上月康則,村上仁士,小西哲也,戸高英二,花房秀明,米田耕造
討論者 田中昌宏(鹿島建設・技研)
質疑
地点3と4で動物種構成が違いますが,その原因は撹乱の強さだけの違いで説明できるのでしょうか?
回答
本研究では,離岸堤設置により影響を受ける各要因の相互関係を図のように想定し検討を行ってきました.
矢印(1),(3),(4)の検討結果から,流況については地点3の方が地点4より速く,地点4では有機物の堆積が起こり,地点3にあまり生息しない多毛類が出現し,動物種構成が異なったものと考えています.また,同じ甲殻類のマルソコエビ,ヒサシソコエビにおいて撹乱実験(矢印?)を行った結果,明らかにマルソコエビの方がヒサシソコエビに比べて撹乱による影響を受けやすいことからも,底生動物はそれぞれに適応した撹乱のある地点でしか生息できないものと考えています.
論文番号 234
著者名 佐々木秀郎 ほか
論文題目 沿岸構造物における海藻群落形成に必要な光と流れに関する研究
討論者 大成建設(株)技術研究所
質疑
(1) 流速とウニ摂餌量の関係(川俣ら1994)が藻場予測に重要なポイントとなっている様ですが、川俣らの定義する流速をどのように現地の流速にあてはめるのかが問題と思います。本研究では現地の有義流速を用いていますが、その根拠は何でしょうか?
回答
川俣らはウニの摂餌を正弦振動流(規則波)の最大流速との関係で示した。現地流速(不規則波)においては、不規則性のため最大流速は数十波に一度だけ出現している。自然界の生物にとっては数十波に一度突発的に短時間に現れる流れよりも連続的に作用する流れの方が生息環境を規定していると考えられる。このことから規則波を現地波に換算する場合と同様の手段によって算定した有義流速を適用するのが適当と判断している。
論文番号 238
著者名 五明美智男・飯田勲・矢内栄二
論文題目 二重式鉛直管による土砂投入時の汚濁拡散・低減機構に関する現地観測
討論者 安井章雄(太陽工業(株))
質疑1
土砂投入によって発生する海底+1mの流速は20cm/sと速く,海底+2mでは逆向きに1cm/sとなっている.このときのバックグランドの流速分布はどのような状況となっているか教えていただきたい.
回答1
バックグランドの流速については,係留上の制約から投入合間の流速計データを用いて推定しています.下図は,論文中の図-4の時刻を含む約4時間30分の間の流動ベクトル散布図を示したもので(Vx,Vyの定義は論文中の図-6と同様),土砂を投入していない(No Dumping)時の平均流速はほぼゼロとなっています.
質疑2
図-5の分布で,x=6mよりも大きい(遠い?)ところでも高濃度SSが発生するように考えられるが,拡散域はこの範囲で収まっているのでしょうか.
回答2
時間の関係上,図-6の説明を省かせていただきました.図にも示したように汚濁は周囲へ移流拡散します.しかしながら,SSの濃度は徐々に低下しますし,その範囲も海底直上に限定されています.なお,海底の流れが逆流となる場合には,順流の場合に比べて鉛直上方への拡散が大きくなる傾向があります.
論文番号 239
著者名 宇都宮好博,坂井紀之,岡田弘三
論文題目 海洋気候の長期変動に関する研究
討論者 佐藤慎司(建設省 土木研究所)
質疑
「気候ジャンプ」前後で東京・ハワイ・サンフランシスコでは水温が上昇し,風が強くなっているが,逆の傾向を示す地域もあるのか.ある場合,どの様な地域か.
回答
北大西洋西部の高緯度地域で逆の傾向を示していますが,ほとんど変化していない地点もあります.本研究で対象とした百年程度の短期間では,地球全体のエネルギーはほとんど変化しないものと思われ,水温等が高くなる地域があれば,全体のバランスとして低くなる地域も出てきます.ただ本研究で扱っている地球表面だけではなく,上空の大気等のエネルギーをも考慮する必要があります.
討論者 日比野忠史(運輸省 港湾技術研究所)
質疑
データの信頼性はどの様なものか.また,エルニーニョ期間の特定をおこなっているが他の観測等の結果を比較するとどうか.さらに,水温偏差と気温偏差(他のデータ)を比較しても同様のことが言えるか.
回答
本研究で使用したデータはKoMMeDS-NF(いわゆる「神戸コレクション」)およびCOADSのデータですが,共にWMOの規定に基づいた品質管理がなされています.ただし,観測手法や観測測器の変遷により,データの質が変わっていることには注意する必要があります.本研究の長期変動幅はこれらのデータを用いた誤差解析(3番目の参考文献)で算出された気候ノイズ以上の変動幅があり,絶対値はともかく変化傾向は有意なものと考えています.
次に,エルニーニョ期間の特定は,気象庁が1949年以降について解析をおこなった結果とほとんど一致しています.さらに,本研究とは異なった観測データから解析されたRasmussonらの結果とは多少異なる結果ではありますが,これはエルニーニョ期間の定義の差だと考えています. 最後に,地上気象官署の気温データを用いた変動解析(例えば山元ら)や北太平洋の気圧分布から海上風の長期変動解析をおこなった花輪らの解析結果からも「気候ジャンプ」が検出されています.
討論者 山下隆男(京都大学 防災研究所)
質疑
長期データに太陽黒点周期との関係は認められるか.
回答
太陽放射は気候を左右する大きな外因であり,太陽放射は太陽活動と密接に関連があります.また,この太陽活動は太陽黒点数に関連があり約11年,22年,80年等の周期があると一般に言われていますが,気象関係の学会では未だ解決されていません.1970年代後半から人工衛星を用いた観測が行われており,データの蓄積を待っているのが現状です.
同様に,気候変動と太陽黒点周期(11年周期)との関連も,たまたま11年周期が現れても,別の期間,別の地点を見ると全く関連が無く,理論的に説明することは一部を除き成功していません.
本研究及びその後の研究でも10年周期あるいは12年周期等が見られる地点もありますが,現段階では太陽黒点周期との関連は認められません.
論文番号 240
著者名 楠山哲弘,明田定満,遠藤仁彦,水野雄三,久保彦一,梅田 滋
論文題目 港空間の定量的評価手法に関する研究
討論者 重松孝昌(大阪市立大学 工学部)
質疑
港は立地条件や機能の面からその地域性を有しているが,ここで提案されている手法では地域性をどのように考慮することができるのか?
討論者 松原雄平(鳥取大 土木)
質疑
1.本評価手法を設計にどのように具体化させていくのか
2.景観構成因子への絞り込みが不十分ではないのか.評価項目がややあいまいなように思われる.
論文番号 241
著者名 小島原昭範,志摩邦雄,小柳武和
論文題目 磯場における生物を考慮した利用者の意識と行動に関する研究
討論者 高木伸雄(水産庁水産工学研究所)
質疑
(1)沿岸漁業の資源管理については,多くの人々が利用するということで適正な管理ができるか疑問である.
(2)今回の調査(磯場の良さの再確認)は,磯場が持つ資質を活かした整備にどの様に生か されるのか.
回答
(1)ご指摘のように沿岸漁業とレクリエーション活動は,同一のフィールドで行われることが多く,レクリエーション利用者が増加するに従い,漁業者の立場のみを考慮する訳にはいかなくなってきています.故に,多くの人々が利用するということを前提に,資源管理を行わなければならないと考えています.現在,公有(共有)財産の海として,両者が共存できるルール(状況にあった地方ルールが重要)づくりが強く求められており,本研究で行ったレクリエーション活動と生物の生息に関する基礎的な調査結果が,状況を把握する上で一つの指針を与えていると思います.
(2)生物やその生息環境を観る・触れる行動(観察)は,環境教育上非常に重要な体験であり,その意味だけでも磯場空間は貴重な資質を持っています.利用者の立場での「要求される施設」や「保全すべき生物(もちろん,本研究の結果で得られた重要と思われる生物以外も)」等の抽出が,将来的に磯場を整備するに当たっての注意点あるいは指標になり得ると考えています.また生物保全に関しては,1つの生物を保全するためには捕食という観点から多種多様な生物まで考慮しなくてはなりません.磯場の持つ資質とは,1つとして他の海岸域では体験できない生物との関わりを持つことであり,その生物の重要性を明確にする研究として本研究を位置づけています.
討論者 松原准平(鳥取大 工)
質疑
アンケート結果のなかで悪い評価となった結果についても示してほしい.
回答
調査対象海岸におけるアンケート調査の中で,よい印象,悪い印象の要因をともに3つ以内で挙げてもらいました.以下に各海岸の悪い印象の要因を示します.
尚,被験者数は,平磯海岸66名(61.1%),大洗海岸42名(38.9%)で合計108名でした.
平磯海岸 大洗海岸
論文番号 242
著者名 永瀬恭一,松原雄平,野田英明
論文題目 ニューラルネットワークを利用した海岸景観の評価に関する研究
討論者 吉野忠和(東工大,情報環境)
質疑
護岸などの景観にマイナスとなる要因は,「ある」・「なし」で印象が大きくことなり,評価点も不連続になると思うのですが,このようなことが評価モデルにくみこまれているのでしょうか?
回答
表-3のデザイン要素11で,護岸の種類として,無し・直立・傾斜・混合型に分類しており,無しの場合と各形式の得点を比較することによって評価できる.
討論者 小島治幸(九州共立大学工学部土木工学科)
質疑
感度分析のところで,景観アイテムのうち一つだけを変化させるとのことですが,景観は各アイテムのバランス的な関係が影響すると思うのですが,このように一つのアイテムを変化すると分析結果としてどの様になるのか教えてください.
回答
図-4が,一つの景観要素(アイテム)を変化させた結果である.
論文番号 243
著者名 高橋重雄,常数浩二,鈴木高二朗,成瀬進,土棚毅,池田義紀
論文題目 海水浴中の重大事故事例に関する一調査
討論者 小島治幸(九州共立大学工学部土木工学科)
質疑
突堤やヘッドランドなどに沿う沖向きの流れが起こりやすくなることは海岸工学では常識なのだから,そうゆう構造物を造る場合,最低限その様な現象が起こる可能性があることを利用者に知らせる必要があるのではないか?この点についてどの様にお考えですか.
回答
海岸工学では構造物周りの流れについて多くの研究がなされ,それら流れの特性などが確認されています.しかしながら,それらはあくまで漂砂対策の研究にとどまっており,ヒューマンスケールでの研究ではありません.すなわち,人の安全性について判断できるような精度で予測できるまでには残念ながら至っていないと思われます.今後さらにマリンレジャーが盛んになり,人工海浜などの開発が進められてきたとき,これら構造物周辺を全て利用禁止とするのではなく,どういった気象海象条件下で事故につながるような本当に危険な流れが発生するのか,また構造物の特性をどの様に生かせば,遊泳客の安全性にプラスになるのかを今後さらに検討する必要があると考えています.
論文番号 244
著者名 大澤弘敬,鷲尾幸久,今井正明,岡山修三,中川寛之
論文題目 沖合浮体式波力装置の発電出力の検討
討論者 長内戦治(北日本港湾コンサルタント(KK))
質疑
マイティーホエールに設置している発電機の出力を見ると(50kw+10kx)×1台と30kw×2台となっている.これらは実際の波の特性から定めたと思いますが,決定方法について教えて下さい.
討論者 谷野(北海道東海大学)
質疑
波力発電では運動の自由度が多いほど効率が低下するため,浮体式は不利である.何か対策は考えたか.
論文番号 245
著者名 長内 戦治、近藤 俶郎、水野 雄三、渡部 富治
論文名 ロ−タリベ−ンポンプによる波浪エネルギ−変換装置の実用機開発
討論者 北海道東海大学 谷野 賢三
質疑
実海域実験における負荷はどのように認定したか
回答
油圧モ−タ−に働く負荷トルクをA〜Hの8段階(Hに行くほど低い値)とし、システムのリレ−回路による電磁バルブの開閉により変化させたもので、観測中は、1回観測(20分)毎に切り替わり、A〜Hの8段階の連続測定を行ったものである。実証実験からは、負荷A条件下での各種効率が高い値を示すことが分かったが、さらに実験デ−タの蓄積を行い、検討を加えて行きたいと思います。
論文番号 246
著者名 近藤俶郎,藤間聡,加藤満,飯島徹,渡部富治,浦島三朗,太田典幸
論文題目 波浪発電と海岸保全のためのハイブリッド型システム
討論者 五明美智男(東亜建設工業)
質議
(1)システムの岸沖断面での設置位置(水深)はどの程度を想定しているか. 本文中の条件から推察すると,通常時では砕派帯外,荒天時では砕波帯近傍という解釈で良いか.
(2)汀線方向の振り子板の長さはどの程度か.
回答
(1)ほぼその通りです.エネルギー吸収の観点からは,水深が深い地点が望ましいのですが,海岸保全機能からすると,従来の離岸堤や人工リーフの設置水深よりも大幅に沖合になるということは現実的ではないと考えます.
(2)水深や波長によって多少変化しますが,約5mと想定しております.
討論者 谷野賢二(北海道東海大学)
質疑
二次元実験は側壁がある条件と同じだが,三次元では側壁が無い.二次元実験の結果を三次元にどう結びつけるのか.
回答
この問題については解析的に求めることは現時点で困難だと推測しており,やはり三次元実験を必要とすると考えております.二次元実験の結果から三次元を推定するには,ユニット間の間隔を考慮しなければならないと思います.
現段階では三次元の吸収効率40%を目標に,二次元では50%を確保することを目標としております.
論文番号 247
著者名 成瀬進,北原政宏
論文題目 海岸事業の費用対便益分析について
討論者 芹沢真澄(海岸研究室)
質疑
御提案のB/C分析の空間的な適用範囲について
発表によれば,港湾区域内の海岸だけを適用範囲として考えているように見える.しかし,これまでの日本の海岸侵食は沿岸漂砂系でつながっている一連の海岸区域内に所管省庁別に境界区分され,それぞれの省庁が自分の範囲の海岸のみを考えて個別に事業を進めてきた結果,砂浜のないコンクリートブロックに覆われた海岸になってしまったという印象を強く受ける.
沿岸漂砂が卓越する海岸で港が作られ,それが沿岸漂砂を阻止することで,下手側の海岸全体が侵食を受けたり,あるいは,港の防波堤建設によって形成された波の遮蔽域に周辺海岸から土砂が沿岸漂砂として引き込まれて周辺海岸が侵食されたりするのがその例である.
この問題に御提案の方法を省庁別々に単独に自分の海岸に適用するとどうなるか.運輸省海岸では漂砂を阻止してできた砂浜を人工ビーチとして利用することでプラスの効果が得られる.一方,隣の建設海岸では,侵食が激しく進み越波もひどくなるので,侵食防止工事を進めることがプラスとして評価され,それも価格の安い消波工(コンクリートブロック)で海岸線を覆う方法が正しいとされよう.
これは現実のことであるが,本当なら両者が連携してサンドバイパスにするなりすればよいのに,このような省庁の縦割りの弊害が全く是正されないことになる.したがって,分析の対象範囲は行政境界を越えて関係する海岸全体とすべきと思うが,現在の適用範囲をこの点に対する意向を聞かせて下さい.
回答
現在の適用範囲は責任のもてる範囲として,港湾区域内を考えている.しかし,費用対便益においても海岸を所管する四省庁が連携して検討していることから,ご指摘のようなケースにおいては適用範囲を広げて検討することも可能であると考える.
討論者 安田孝志(岐阜大学)
質疑
便益評価の精度保証は可能か.
可能だとすれば,精度は何%くらいか.
回答
シミュレーションなどで使用する方法を簡便化する形で検討しているため,重要度に応じて精度を高くすることは可能であると考える.しかし,現状では海岸管理者が容易に計算できるモデルの構築を目指すべく,割り切りの部分を多くしている.
また,費用対便益は事業採択に関係する単なる要素の一部であるという考えに立てば,実施する価値のある事業が正当に評価されること,また,事業採択の優先順位が明らかになる程度の精度が保たれれば十分なのではないかと考える.
討論者 長野章(水産庁)
質疑
表−1の便益帰着構成表において,建設効果が入らないのはなぜか.
回答
便益帰着構成表に建設効果を入れない理由としては,公共事業の総額が一定と仮定すれば,仮に当該プロジェクトが実施されない場合でも,他の分野または他の地区で同額の建設投資が行われることになり,一方,本費用対便益分析は国民経済的観点からみた評価であるため,建設に伴う効果を算入することは,国民経済的観点からみれば意味がなくなるためである.
論文番号 248
著者名 磯部雅彦
論文題目 ミティゲーションの調査分析と沿岸域環境管理の枠組みの提案
討論者 小島治幸(九州共立大学 土木)
質疑
沿岸域環境管理の枠組みということで、日本の沿岸域を区分してその中で環境基盤の要素の収支を考えるというご提案だと思いますが、現在の行政組織でそういうことが可能なのか? あるいはどういう方向性が考えられるのか?
回答
沿岸域の範囲をあまり広くとると実際的な管理が難しくなります。主に外海に面した海岸では土砂収支、内湾では水質に関わる物質収支によって沿岸域を区分することが可能であり、これを管理の単位とするのが妥当であると思います。行政においても、たとえば河川審議会の総合土砂管理小委員会で流砂系での土砂管理を提案しているように、行政組織とは必ずしも一致しなくても、環境要素の連続性から見た自然な境界を管理の単位とすることへの理解が進んでいると思われます。また、海岸統計に用いられている77沿岸区を土台にすれば、行政でも沿岸域区分ができていくのではないでしょうか。学会としては、この必然性・効果をさらに示すような研究を進める必要性を感じます。
質疑
土砂収支に関しては、ミティゲーションバンクを考えると砂浜や干潟を多く造っておくという考え方なのか?
回答
ご指摘の通り、土砂収支の管理により砂浜や干潟を修復・創造することはバンキングといえます。その際に、生息場や産卵場としての機能を向上させることも視野に入れる必要があると思います。
討論者 中辻啓二(大阪大学 土木)
質疑
ミティゲーションバンクの概念は我国の環境行政になじむのでしょうか。
回答
各沿岸域区分において環境計画を策定した上で、それに沿ってミティゲーションバンキングとして環境創造を行い、それをミティゲーションクレディットとして開発利用などに使っていくことにより、利用や防災を進めながら環境計画を達成するというのがここでの提案です。さらに、ミティゲーションクレディットの全体を使い果たさないことすれば正味の環境改善となります。このような環境創造に公的な資金・資源を用いることには、国民の理解が得られる可能性があると思われるという意味で、実行可能性はあります。ここでは、ミティゲーションクレディットを金銭で売買するという意味ではなく、事業ごとの環境代償措置に代わってもっと計画的な環境創造が進められるという意味で、ミティゲーションバンキングに注目しています。
質疑
防災を例に説明されました。これに関しては理解を得ることも可能でしょう。環境保全・環境創造のためのミティゲーションのあり方は?
回答
質問の趣旨を取り違えているかもしれませんが、ミティゲーションはまさに環境保全のための制度であり、特に環境創造も含めて考えることにより、沿岸域の合理的な空間管理・配置を実現するように運用されるべきと思います。
論文番号 249
著者名 児玉いずみ,松本卓也,村上智子,菅原勝利,菅原慎也,長野章
論文題目 漁港漁村における生態系保全の評価に関する研究
訂正
(1)式
誤 T=(I−X)−1
正 T=X(I−X)−1
討論者 田中昌宏(鹿島建設・技研)
質疑
最終的な結果のCVMを構成比で示しているが、その比の持つ意味をどの様 に解釈すればよいのか
回答
CVMにおける支払い意志額は、本研究で明らかにしようとしたような、環 境社会システムの仕組み、すなわち産業や生活・文化、環境という要素間の相 互関係という構造の中で意識された額である。CVMの構成比を求めたのは、 回答者が単に「環境の保全」というような一面的な評価から額を決定している のではなく、全体のシステムを意識した上で回答しているということを、支払 い意志額の構造を見ることで明らかにしようとしたためである。
論文番号 252
著者名 児島正一郎,沢本正樹
論文題目 EERS 1-SAR画像を用いた海岸波浪観測の一例
討論者 小林智尚(岐阜大学)
質疑
1.方向スペクトルを求めるフィルタ画像処理法(うまく説明できないのですが)を求めるプロセスでSAR画像をフーリエ変換した時,これでKx = Ky = 0で大きい直を示すということですが,それは当然かと思います.なぜならSARのピクセルデータは正の値で構成されているため画像全面の平均値,あるいはオフセット値としてKx = Ky = 0の点はゼロになりません.この点いかがでしょうか.
2.論文中(1)式についてですが,この式があるのでSARデータは水位データに正しく変換できるはずです.しかしながらここでは係数HとBを一定値と勝手に決めてしまっています.これではSARデータから水位データを正しく求められず,SARデータのメリットを活用していないと思います.この点いかがでしょうか.
論文番号 253
著者名 徳田正幸,橋本典明,永井紀彦,永松 宏,鈴木 覚
論文題目 VHF沿岸海洋レーダによる波浪観測
討論者 児島正一郎(東北大 D3)
質疑
測定する際にサイドローブの影響を考えて,設置しているのですか?また,どこに設置するほうが精度よく測定できるのですか?
論文番号 255
著者名 橋本典明,徳田正幸
論文題目 海洋短波レーダによる方向スペクトルの推定
討論者 藤井智史(郵政省通信総合研究所)
質疑
(1) 繰り返し計算中でのローカルミニマムへのトラップはあるのでしょうか.
(2) 実際のレーダでのS/N比との比較はされていますでしょうか.
回答
(1) 非線形な連立方程式を線形化して解いているので,初期値によっては解がローカルミニマムに落ちる可能性はあります.しかしながら,本研究ではすべての試算で初期値を0として解を推定しましたが,ローカルミニマムにトラップすることはほとんどありませんでした.なお,初期値を0とすることが,妥当かどうかは別に検討する必要がありますが,今後の本方法の実務上の便を考え,初期値を0とすることが合理的であるように修正を加えた方法を,Coastal Engineering Journalに投稿中です.
(2) 実際のレーダのデータは持っていないので,現在,レーダによる現地波浪観測を計画しています.現地観測は静岡県の御前崎で実施する予定です.そこには,既存のドップラー式海象計が設置してあり,この機器で得られた波高・周期・波向および方向スペクトルと比較して精度の検討を行う予定です.
論文番号 256
著者名 宮崎早苗,灘岡和夫,熊野良子,二瓶泰雄,孟 偉,劉 寧
論文題目 新たな衛星画像解析法に基づく沿岸環境モニタリング技法の実用化に向けての検討
討論者 坂井伸一(電力中央研究所 環境科学部)
質疑(1)
非線形最適化を行うときに,大気補正誤差や,モデルに考慮していない水質項目成分による誤差を考慮しているのか.
回答(1)
大気補正は,大気シュミレータMODTRAN3.5を用いて行っている.その誤差やモデルに考慮していない成分による誤差ついては,解析対象とした物質の濃度の推定値に誤差の分だけ上乗せ(もしくは差し引き)された形で現れてくるが,解析結果からもその影響は小さいものと考えられる.例えば,東京湾においてはクロロフィルa(植物プランクトン)に比べ動物プランクトンはごく低濃度である.しかし,海水中に卓越する物質は海域によって異なるので,解析を行う際には,対象とする物質を適切に設定する必要がある.
質疑(2)
モニタリング実用化といった場合,雲等の影響を受けるLANDSAT等の周期では難しいのではないか.
回答(2)
現在計画されている商用衛星には,2〜3日周期で観測可能なものがある.そのような衛星データが得られるようになればモニタリングの実用化に向けて問題はないと考えている.
質疑(3)
最適化を数値シミュレーションデータと実データとを用いて行っているが,両者の最適化の差が出ると思われるが,その値が分かれば教えてください.
(変分法で解いているのか,反復法を用いているのか.)
回答(3)
実データの輝度値と推定される輝度値との差が最小になるように繰り返し計算を行っている.シミュレーションデータについては,物質数にもよるが誤差はほぼゼロになる.また,実データについても,物質の設定の仕方にもよると思われるが,今回の計算では非常に収束が良くゼロに近い.