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論文番号 202 著者名 稲垣紘史,井合 進 論文題目 地震時のケーソン岸壁の変形照査 討論者  不明 質疑  岸壁マウンド前面の前置土が液状化したのは何故か 回答  前置土は、液状化した埋立土と同じまさ土であり、有効応力条件も、拘束圧力およ び地震時のせん断応力の両者とも、埋立土と同様の条件だったため。
論文番号 205 著者名 増田光一,清水建一朗,別所正利 論文題目 超大型浮体式海洋構造物における海震時の応答推定法に関する研究 討論者  土田充(清水建設(株)) 質疑  近似式は設計を前提としたものである以上,現実に近い状況下におけるものでなら ないと思います.(そうでなければ例えばBEMで厳密に解かなければならないと思 います.)流体力やその結果として生じる動揺等は,陸や防波堤等の影響を非常に強 くうける以上,近似式としてはせめて,直立壁の影響まで取り込んだものでなければならないと考えています. 回答  現在の近似式は確かに現実の状況とは少し違い,非常に理想に近い状況(水深は空 間的に一定であり,水域は無限に広がっているものとしている.)で導いていますが ,海震の浮体に対する影響は厳密ではないにしろ,どの程度のものかを非常に簡単に 求めることができます.確かに近似式は設計を前提としたものであり,現実の海域に 近い条件で導かなければならないと考えられるので,今後さらに検討していきたいと 思います.
論文番号 207 著者名 蒋 勤、国栖 広志、渡辺 晃 論文題目 土砂投入に伴う汚濁の拡散過程に関する数値シミュレーション 討議者名 細山田 得三 長岡技術科学大学 質疑  (1). 自由表面の変動も考慮できるモデルとなっていますが、その(自由表面変動 の)結果は表示されていませんか? 回答  水面上から投入される土砂の落下運動によって、自由表面には瞬間的に大きい変動 が起こされる。この自由表面の変動は、周囲流体及び土砂の水中での運動に無視でき ない影響を与える。一方、流体及び土砂の運動によるエネルギーの減衰に伴い、自由 表面の変位は徐々に小さくなって行く。  水理模型実験の結果により、水深 40cm の場合に土砂投入後0.5秒以内で 2cm 以 上の大きな水位変動が引き起こされたことが明らかとなった。本論文に載せた計算結 果は、土砂投入後2秒、8秒及び10秒の時刻でのシミュレーション結果であり、水 位変動はすでに小さくなっているため、自由表面の変動は図面上で見られない。 し かし、0.5 秒以内の計算結果から、本モデルを用いて実験結果と同じような自由水面 の変化は再現されていることを確認した。 質疑  (2). 投入土砂は自由表面上からの投入ですか?その場合、土砂の投入による自由 表面変動は見られますか? 回答  (1)の答えを参照されたい。 質疑  (3). 境界適合座標でなく通常の直交座標では計算できますか? 回答  通常の直交座標でも勿論計算できるが、本モデルでは境界適合座標を使った理由は 2つある。  A) 投入土砂の水中における落下運動は典型的な自由表面流れ問題で、また土砂投 入による自由水面の変動が大きいなどを考え、自由表面を取り扱うのが重要であること。  B) 土砂投入に伴う自由表面の変化は顕著であるけれども、1価の関数で表現でき る。この場合、直交座標における MAC法やVOF法などと比べて、境界適合座標法は自 由表面での境界条件を正確に与えることができるなどと言う優れた点があること。
論文番号 209 著者名 小林智尚,Poojitha D. Yapa 論文題目 海岸域での油の挙動の数値計算 訂正  式(11)の下2行目,中央粒径は0.20mmは誤り,0.43mmが正しい 討論者  田中昌宏(鹿島建設 技術研究所) 質疑  油の質(重油や原油)によって,結果が異なると思われるが,モデルにはどのよう に組み込まれ,それがどのように結果に影響しているのか. 回答  油の質(特性)は現象に大きく関係する.本モデルではこの油の特性のうち,密度 と粘性,空気や水との摩擦の効果を考慮している.  密度は式(9)で表わされる,水中の油粒子の浮上速度に関係する.この式に示され るように,たとえば油の密度が小さければ油粒子は早く水面に浮上してしまうことに なり,結果的には水中に存在する油の総量が小さくなる.  粘性は式(4)で示される水面の油膜による波高減衰,および式(11)に示される海岸 に付着する油の量(油膜厚さ)に関係する.これらの式では粘性係数というように明 示的に粘性の効果を取り込んではいないが,これらの式の係数に粘性の効果が含まれ ている.ここで例えば粘性が大きくなると,それぞれの式の係数は大きくなり,油膜 による波高減衰や岸への油の付着量はともに大きくなると考えられる.  空気や水との摩擦の効果は式(10)に示される,汀線近傍水面上の油膜の厚さに関係 する.これらの係数が大きくなると風や海水の平均流によって汀線に吹き寄せられる 油の量が多くなり,汀線近傍水面上の油膜は厚くなる. 討論者  八木 宏 (東工大 土木) 質疑  漂着プロセスにおいて,風や波の効果が考えられるが,それらの貢献度などを検討 しているか. 回答  正確に検討はおこなっていないが,風や波による流れの効果は現象に支配的である .油粒子(parcel)の移動は式(5)で示されるように風や波による時間平均速度と拡散 による速度に分解される.本研究では風が吹いていないものとし,また波による流れ はストークス・ドリフトから求めたが,その平均速度は拡散速度より大きい.  風あるいは吹送流は,海岸や海洋の現地では,波による流れより油の移動にはさら に大きく貢献しているといわれている.
論文番号 210 著者名 犬飼直之 論文題目 数値計算による吹送流を考慮した海表面浮遊粒子追跡に関する研究−ナホ トカ号重油流出事故について新潟県沿岸域の被害調査との比較− 討論者  磯部雅彦(東京大学) 質疑  ナホトカ号の船首やアルゴスブイの挙動や、重油が鳥謔ゥら山形に達したことみると、流れ場は非常に複雑ですが、これに対応して数値モデルを改良するにはどのようなことが考えられますか。 回答  観測データを見ると吹送流の成分が冬季日本海の流れに大きな影響をあたえている ようなので、まずは吹送流について検討をなければならないと考えます。また、吹送 流の起動力は風なので、風についても検討をしなくてはいけません。具体的にいうと 時間的・空間的に異なる、地衡風の検討・接地境界層の検討などです。その次に海表 面のエックマン層について検討をおこない、吹送流が水深方向に与える影響などを検 討する必要性があります。  また、潮汐流や海流などの他の流れ成分についても微少ですが流れに影響を与えて いるようなので、検討をする必要性があります。  これらの流れ成分や気象について総合的に検討をおこなって初めて日本海の流れに ついて検討をできるのではないかと考えています。
論文番号 211 著者名 銭 新、石川忠晴、西部隆宏 論文題目 霞ヶ浦高浜入りにおける日成層形成時の湾水交換の数値シミュレーション 討論者   日野幹雄(中央大学総合政策学部) 質疑  (1)式(13)で表される熱量Qに風速の効果が入っていないが、入れるべきではないか? 回答  物理過程をそのまま表現しようとすれば当然そうなります。しかし波浪などが生じ ている所での境界層内の物理過程はどのみち詳細に表せませんし、現地データのない 長波放射の分が大きいことを考えれば、どのみち経験式を導入することになります。 実際、本研究の過程で風速を入れた回帰式も検討しましたが、特に精度が向上すると いうことはありませんでした。  本研究では鉛直混合現象の水理学的記述を中心課題にしていますから、熱量につい ては"見積もれれればよい"と考え、できるだけ簡単な式を用いるようにしています。 また、このように簡単な形式でも短期間の熱の授受を評価できるということに、むし ろ筆者らは感動を覚えました。  (2)基礎式に水位hの変化を入れる方がいいのではないか、なぜならば、(a)実測でセ イシュが観測されている。(b)昔、火力発電所の温排水の計算をした際に、水位変化 を考慮しないと実際と合わなかったが、水位変化の式を考慮すると実測と良く合った 。水位変化量は極くわずかで、絶対値としてはとるに足らない量であったが。 回答  会場での説明が不十分だったと思います。申し訳ありません。本研究では、実際に 水位の変化を以下のように"考慮"しています。セイシュによる湖沼の水位変化量は一 般にcmのオーダーでありますから、数値計算の1メッシュより小さく、幾何学的に考 慮する必要性はあまりありません。しかしわずかの水位上昇でも静水圧増分を伴いま すから力学的には無視できません。そこで本論文では、計算メッシュは動かさない代 わりに水面における鉛直流速をゼロと置かずに計算し、その積分値を静水圧増分とす ることによりセイシュを再現できるようにしています。詳細は本論文の式(8)〜式(11 )を参照して下さい。  (3)成層流体にk−εモデルを使う場合、信頼度はどうか、誰のモデルを参照したか? 回答 (前半について)  k−εモデルが成層流体現象の全てに対して信頼できる結果を与えるかどうかはわ かりません。筆者らの考えでは、密度流に対しては現象の縦横比が1:1のオーダーに 近づくほど具合が悪くなります。よく言われているように、k−εモデルは乱流特性 をスカラー量で表現するために乱流異方性の強い場への適用性が低いと考えられるか らです。ですから例えば室内実験の現象ではかえって問題が生じるでしょう。  ところが霞ヶ浦の日成層の場合は、空間の縦横比が1:2000程度と極めて大きく、現 象がほとんど鉛直一次元的になっているため。水平スケール500mのグリッド内では 、流れは水平方向にほぼ一様です。これに対して鉛直方向では1mの中でも流向が反 転します。したがって、密度成層による鉛直一次元的な混合速度を適性に表現できさ えすればよいわけです。現象が一次元的であればスカラー量に基づくモデルでも(パ ラメータ調整が適当であれば)適用できる可能性があるわけです。  もう一つ重要なことがあります。日成層の混合過程は概ねDI型の連行現象に従うと 考えられますが、その場合にはエネルギー移動の相似性が概ね成立すると考えられて います。つまり、エネルギーというスカラー量の間で比較的簡単な代数関係が"結果 的に"成立しているということです。このことはk−ε型のモデルでも鉛直方向の混 合を表現できる可能性を示唆しています。そこで筆者らは、鉛直一次元のDI型の混合 現象をk−εモデルでシミュレーションし、Kranenburgの実験結果と比較しました。 その結果、標準のkーεモデルがDI型の連行則を極めてよく表現できることが明らか になっています。(図-1)
図ー1
 さて、ご質問の趣旨は「成層流体現象全般についての適用性」に関してのようです
が、成層流体現象といっても色々ありますから、十羽一絡げに論じられる#?b%U$G$O
ないように思います。均質流体の場合でも、ある乱流モデルがあるタイプの流れには
よくフィットしたが別のタイプの流れでは不十分だったということはよくあります。
要は、研究対象とする現象に対してどうかということを個々に検討することこそ大切
だと思います。したがって、ご質問の前半に対する答えは以下のようです。成層流体
の全てに対してはわからないけれども、霞ヶ浦の日成層のように鉛直一次元的な要素
の強い現象に対しては、kーεモデルは適用できる可能性があります。ただし、今回
は全て標準的なパラメータ値を使っていますから、パラメータ調整をさらに精緻に行
う余地はあります。
(後半について)
 「誰のモデルを参考にしたか」というご質問ですが、本論文で使用しているモデル
は、標準的なkーεモデルに筆者なりの変更を加えたものです。
 筆者らは「元来、ユニバーサルな数値シミュレーションモデルなどは存在しない」
という考えを持っています。自然現象というものは極めて多様であり、教科書や室内
実験レポートに記述されている"典型例"だけで判断できるものではありません。そこ
で、自分が対象とする実現象をよく観察し、それに合わせてモデルの選択と使用法を
個々に検討すべきだと考えております。
 本論文のモデルでは、鉛直方向の渦動粘性係数だけをkーεモデルで求め水平方向
については別途与えています。また(2)のご質問への回答で述べたように、水面変動に
ついては静水圧増分への効果のみを考えています。こういった変更は、霞ヶ浦の日成
層現象の物理的特徴を筆者なりに観測して得た結果として加えたものです。しかし筆
者らは数値計算手法の研究者ではなく、日成層現象を研究しているものですから、別
の対象について過去に似たような取り扱いをした例があった場合はご容赦下さい。な
お、パラメータ値の設定については、大阪大学(  鐘星:学位論文,大阪大学,1994)
の研究例を参考にしました。

討論者 	田中昌宏(鹿島技研)

質疑
 日成層の厚さが計算の方が大きくでている要因として、数値粘性と乱流モデルが考
えられるが、どのように考えているが?

回答
 これについてはよくわかりません。筆者らは、数値計算上の問題よりも、現地の状
況の不確かさの影響の方が大きいという印象を持っています。
 日野先生のご質問(3)への回答で述べたように、k−εモデルの計算結果はKranenbu
rgの実験結果とよく一致します。また論文で示した計算例では計算による日成層の厚
さが大きくなっていますが、他の日の計算例では逆転する場合もあります。(図-2)
図ー2
 霞ヶ浦の土浦入りから高浜入りにかけて、船を移動させて水温の鉛直分布を調べた
ことがありますが、鉛直平均水温が場所によって少し(1℃程度)違うことがあります
。また風がほとんど無い状態でも混合層がスーッと流動していることもあります。こ
れらの原因は、湖上で日射や風の状況が一様ではないことと、流入水の水温の影響な
どが考えられます。しかし数値計算上は、初期水温の設定や気象条件の設定を一様に
与えざるを得ないので、その問題があるのではないかと考えています。
 もちろん数値モデル上の問題も当然あると思うのですが、それよりも場の不均一性
が"日成層という微妙な現象"に影響を及ぼしているのではないかと筆者らは推測して
いるわけです。このことはまた、数値計算モデルそのものについてあまり精緻に考え
てみても仕方ないということかもしれません。真正面からの答えでなくて申し訳あり
ませんが、要は、実際現象に関する情報の不確かさと計算モデルの精度とのバランス
で、どこまでモデルを厳密に考えるかということだと思います。



論文番号 212 著者名 宗景志浩、長谷川浩、福家秀乗、大原聡 論文題目 差し込みに伴う底層還元物質の巻き上げと水質悪化について 討論者  和田明(日本大学生産工学部) 質疑  (1)差し込みという言葉は物理学か水産学分野で認知されている用語ですか?  (2)物質循環を示す移動ベクトルが示されているが、これらの諸量はどのようにして 求められたのですか? 回答  (1)沖の「差し込み」と言えば、外洋水が沿岸域、内湾域に進入する現象で、水産分 野(特に水産試験場関係者、漁業従事者)では広く使われています。学術的には、川 合英夫編著「流れと生物と」(京大学術出版会)pp120、図2-5-5の中でも用いられて います。我が国の水理学、海洋学分野では見ませんが、JGR,Vol87,No.C10,pp7985-79 96,「Geyer,W,R,and A.Cannon(1982);Sill processes related to deep water re newal in Fijord」で使われている「Intrusion」がこれにあたる現象と思います。好 きな言葉ではありませんが、今のところ水産分野で理解される言葉を使っています。 学術的にはもっとふさわしい日本語名称を付けるべきと思います。  (2)本文に示す物質保存則及び図−2のモデルを用いて、塩分をトレーサーとして差 し込み時期の海水輸送量を求めた後、これらの海水輸覧ハとFe,Mnの濃度から微量物質の輸送量を算定しました。 討論者  日比野忠夫(港研) 質疑  (1)大潮に伴って湾内の水質が大きく変わっているが、これは潮汐に伴うものか?、 その他の外力はないのか?  (2)水質が変化する速度と流速との関係は妥当か? 回答  (1)浦ノ内湾は幅1km・奥行き10kmで湾口も浅く、潮汐のみによる海水交換は極めて 小さくタイダルプリズムの5〜8%程度と推算しています。このような場合には大き な水質の変動は見られません。しかし、夏場の大潮時にはしばしば差し込み(Intrus ion)が発達し、底層部の貧酸素水塊は1〜2日で消失し、水温、塩分、栄養塩の他に 今回お示しした微量物質などは大きく変動します。また最盛期には海色、透明度等も 変動しますので変化を目で見ることができます。  (2)流速は湾幅によっても大きく変わるので、流量によってご説明いたします。 差し込み海水量が2x105m3/h程度とすると、湾内10m以深の底層海水(162x105m3) を差し込みによって交換するには僅かに3.4日でよいことになります。この底層部に 含まれる微量物質(例えば、硫化物S2-の濃度=20μg/lとすると、全量は20x162x10 5x103=3.24x1011μg)がほとんどそのまま上層部に移動したとすると、10m以浅の 上層部の濃度は、3.24x1011・625x108=5.2μg/lとなります。硫化物はDOと反応す るためこれより小さくなるが、本文中、図−5の8/11-8/18の濃度変化と概ね一致す ると思います。 討論者   日野幹雄(中央大学) 質疑  差し込み現象について「外海水が貧酸素底水層に非可逆的に侵入し、貧酸素底水塊 が浮上する現象」は中央大・山田正のグループが網走湖で実測しているので参考とし て欲しい。 回答  ご指摘感謝します。
論文番号 213 著者名 藤原建紀,宇野奈津子,多田光男,中辻啓二,笠井亮秀,坂本 亘 論文題目 外洋から瀬戸内海に流入する窒素・リンの負荷量 討論者  三村信男(茨城大 広域水圏環境研究センター)  質疑  陸域からも外洋からも栄養塩が流入するという結論ですが,大阪湾の物質収支はど うなっているのですか. 回答  現在のところ,大阪湾の窒素・リン収支は確立されていない.収支における主要な フラックス(輸送量)は,(1) 陸からの流入,(2) 海底への正味の堆積(堆積してしま って海中に再溶出しない部分),(3) 湾外との交換と考えられる.この他,漁獲によ る海域からの除去,海面降雨による供給,脱窒による大気への回帰なども考えられる が,いずれも,3者よりはかなり小さいと推定されている.  従来,窒素・リンの湾外との交換量は,収支の残差を当てていたが,これは危険で あり,収支計算には決算(交換量の実測)が必要である.このため,大阪湾をかこむ 友ヶ島水道,明石海峡において窒素・リン輸送量の実測を四季にわたって行っている ところである.海域における物質輸送の実測に当たっては,輸送の“機構”の理解が 重要である.輸送機構については1970年代に塩輸送について研究がある程度行われた だけであり,栄養塩などの輸送機構については,国際的にみても,今までほとんど研 究されていない.このため,輸送量の調査と同時に,輸送機構の研究を行っている. 討論者  村上和男(運輸省 港湾技研) 質疑  閉鎖性内湾域の水質問題の原因として,過剰な栄養塩による富栄養化が大きいと考 えられる.外洋からの栄養塩の輸送が,内湾域に流入する汚濁負荷の栄養塩とほぼ同 量であるということは,閉鎖性内湾域の海水交換と富栄養化による水質汚染との関連 をどう説明すればよいのか. 回答  大阪湾・伊勢湾・東京湾などの富栄養化が,陸域からの有機物・栄養塩などの流入 量の増大によることは疑いのないことであろう.外洋からの栄養塩の流入は天然のも のであり,人間活動以前からあったと考えられる.  内湾の海水交換と富栄養化の関係の間には,海水交換による物質輸送(特に窒素・ リン輸送)の問題がある.“海水交換による物質輸送の問題”は古くから研究されて いるように錯覚されているが,研究されてきたのは“海水”の(潮流による)交換で あって,“物質”輸送の体系的研究はまだ行われていない.物質の輸送を取り扱うた めには,流動・物質濃度の空間分布,時間変動の情報が必要である.流動については ADCP(超音波ドップラー流速プロファイラー)によって測ることができるようになっ てきた.一方,物質濃度については,採水と化学分析による以外に方法がないのが現 状である.水質数値モデルのなかでは物質輸送が計算されているので,その中身につ いての検討することも,問題への取り組み方の一つとなるであろう.  “海水交換による物質輸送”は,対象とする海域の規模によっても変わると考えら れる.栄養塩濃度が非常に高い港内と,低い港外の間であれば,海水交換は栄養塩の 港外への流出,港内水質の改善につながるであろう.一方,大阪湾・伊勢湾規模であ れば,海水交換が必ずしも窒素・リンの流出,富栄養化の緩和を意味しないと考えて いる.
論文番号 214 著者名 長坂 猛,鶴谷広一,村上和男,浅井 正,西守男雄 論文題目 大船渡湾の成層と貧酸素水塊に関する現地観測 討論者  上野成三 (大成建設技術研究所) 質疑  防波堤湾口部からのジェットや渦により、湾口部付近の成層が混合される傾向にあ るか。 回答  湾口部の開口部の水深(マウンドの上部)は約20mの位置で、このあたりに温度 躍層が存在しているので、潮流が引き潮の場合には下部の冷たい水も出ていく傾向に ある。しかし、上げ潮の場合は、湾外の水温が鉛直方向にほぼ一様で湾内の下層水よ り水温が高く、上層に流入するので、成層付近で強い混合は見られない。 討論者  八木 宏(東工大 土木) 質疑  内部波が水温構造に影響を与えるような結果が得られているか。 回答  潮汐周期に対応した内部波の振動があるが、水温構造を破壊することはない。成層 が弱くなると、内部波は発生しなくなる。 質疑  熱収支を考えて、気温の効果等を定量的に扱っているか。 回答  熱収支は測定していない。したがって、現在のところ気温の効果を定量的に扱うま でには至っていない。
論文番号 215 著者名 内山雄介,灘岡和夫,瀬崎智之,八木 宏 論文題目 「成層期の東京湾奥部〜」 討論者  日比野忠史(港研) 質疑  2週間程度の水温変化は風によるところが強いとしているが,風が原因となるとそ の影響範囲はどの程度になるか?久里浜湾(東京湾湾口部)においても同様の変化が 起こっているが,これについてはどう考えるか? 回答  本観測の東京湾奥部における風速の長期的な変動パターンとしては,典型的な夏季 の気圧配置の下に南西風,つまりいわゆる海風が観測期間全般を通じて卓越し,おお よそ2週間ごとに数日程度の時間スケールで卓越風向が完全に逆転して北東風(陸風 )となっていた.大局的な風向の反転は総観場での気圧配置の変化に対応するもので あり,そのため卓越風向は東京湾スケールよりも広い空間スケールでほぼ一様に規定 されている.長周期水温変動パターンは,このような変動特性を有する風応力を駆動 力として,岸の影響を介して生じる沿岸湧昇に伴って沖側底層の冷水塊が岸近くに到 達したことを示すものである.このような水温の長周期変動は,風速の大きさ,継続 時間,岸と卓越風向との相対的な位置関係,沖側水塊の成層状態などに強く支配され るため,「影響範囲」を一概に特定することは不可能である.論文中ではNOAAの衛星 データによる表層水温を一例として示しているが,これによれば北東風が連吹した期 間では水温低下の影響は湾奥部全体(浦安〜千葉)に広がっていることが分かる.  湾口部久里浜湾では湾奥部と同様な風速変動パターンを示していると思われ,外力 場としてはほぼ同様であると考えられるが,湾の形状や河川(平作川)の影響などの 局所性がきわめて強いために湾奥部との類似性に関する議論をすることはできない.
論文番号 216 著者名 八木宏,内山雄介,鯉渕幸生,日向博文,宮崎早苗,灘岡和夫 論文題目 東京湾湾奥部における成層形成期の水環境特性に関する現地観測 討論者  鶴谷広一(運輸省港湾技研海洋環境部) 質疑  クロロフィルaと濁度の測定値には相関があるのではないか? 回答  ご指摘のとおり,クロロフィルaの増大(赤潮)に対応して透明度が変化し,した がって濁度もそれにともなった変化をする傾向がある.
論文番号 217 著者名 今村 正裕,松梨 史郎 論文題目 湾奥部における水ー底泥間の窒素・リンのフラックス 訂正  ・底質モデルの基礎式中にミスがあります.  式(2)中  "→ !  式(5)中 (2-φ)/φ → (1-φ)/φ 討論者  細井由彦(鳥取大学 工学部) 質疑  窒素・リンの底泥からの溶出には直上水の流動も大きく影響すると考えられますが ,実験ではどのようにコントロールされましたか. 回答  今回の実験では,現場における直上水の流動が溶出に及ぼす影響について考慮して いない.実験の目的があくまで,どの程度の溶出能力があるか把握する為に行ったも のであり,実験ではDO制御槽とコア直上水をぺリスタポンプで循環(350ml/min)さ せている.しかし,直上水の流れ(乱流)は溶出速度の制御要因として考えられ,今 後検討していかなければならないと考えられる. 討論者  八木 宏(東工大 工学部) 質疑  東京湾奥部,特に東京港周辺はいくつかの河川が集中し空間的な変化が大きいと思 われるが,今回の測定点の値の東京湾奥部としての代表性は検討しているのか. 回答  測定点は対象水域の地形性を考慮して選定したものであり,東京湾奥部における底 質としての代表性はあると考えられる. 討論者  三村 信男(茨城大学 広域水圏環境研究センター) 質疑  栄養塩の収支において,底泥に沈降・捕捉される量と溶出によって水中にもどる量 の関係はどうなっていますか. 回答  計算領域(東京湾奥部)で物質収支をとると,窒素・リンともに溶出より沈降・堆 積ェ上回っており,底泥に蓄積する傾向が見られる{窒素:沈降(非生物体有機態窒 素)144.7mg/m2/day,溶出(無機態窒素)53.3mg/m2/day,リン:沈降(非生物体有 機態リン)9.2mg/m2/day,溶出(無機態リン)4.3mg/m2/day}. 討論者  日比野 忠史(港研) 質疑  水深(水圧)が溶出に対してどのような影響があるのか. 回答  底泥からの溶出は,現場における直上水と底質間隙水との対象化学物質濃度勾配, さらにその化学物質の拡散係数と吸着平衡により決定される.実験に際して,水圧が 他の因子にくらべどれだけ効くかは検討していない.
論文番号 218 著者名 塚田光博・三村信男・鈴木雅晴 論文題目 東京湾における貧酸素水塊の形成・停滞・消滅過程のシミュレーション 討論者  日野幹雄(中央大学 総合政策) 質疑  千葉側、湾の東奥側に貧酸素域が形成され停滞するのは、生物的な要因なのか、力 学的要因によるのか、そのメカニズムについて説明してほしい。 回答  物理的要因の効果が大きいと考えています。貧酸素水塊が形成されるには、底質に よる溶存酸素の消費が進行するのに十分な時間、底層の海水が停滞することが条件と なるため、初夏以降湾内の成層化の進行によって海水の交換が弱まることが基本的な 要因です。湾奥の千葉側(東奥)が最初の発生地点になるのは、湾内でとくに海水交 換が弱い領域であるためと考えます。さらに、千葉県沿岸に沿って砂利採取跡の窪地 があり、その中で貧酸素化が進むことが、この傾向を強調しているものと思います。  われわれのモデルの結果では、東京湾の大半の領域で栄養塩濃度は既に十分高く、 栄養塩が植物プランクトンの増殖の制限要因にはなっていません。貧酸素水塊の形成 においても、生物・化学的な条件は整っていて、物理的な海水の停滞の程度が貧酸素 水塊形成を支配していると解釈しています。ただし、水質・物質循環についてはバル クなモデル化をしているので、さらに計算結果の検証が必要と考えています。
論文番号 219 著者名 佐々木 淳・今井 誠・磯部雅彦 論文題目 内湾における溶存酸素濃度予測モデル 訂正  図-6および図-7における等値線上の値の単位が抜けておりますが,mg/lです. 討論者  和田 明(日本大学 生産工学部) 質疑  1) 下層の無酸素化は,有機物の沈降特性により決まるとしていますが,それも一 因かと思いますが,成層化に伴う酸素の下層への供給が妨げられていることに起因し ていると思いますが.  2) 青潮の発達過程が実測を再現しているといわれていますが,流動のプロセスの 明示がないので判然としませんが,モデルの中で具体化されていると考えてよろしい のですね. 回答  1) 成層化は底層の貧酸素化の主要な原因の一つであり,DO濃度の変動は流れ場の 状態に大きく依存していると考えています.  そこで,本研究において開発したDO予測モデルは,佐々木ら(1996)による3次元内 湾流動モデルをベースとしており,密度成層の形成およびそれに伴う鉛直混合の抑制 を考慮しております.  しかし,無酸素化という点を考えた場合,底層での有機物分解によるDO消費が大き な影響を及ぼすと認識しております.  2) 青潮時の流れ場については,佐々木(1997)において 回答させて頂きます.  ただし,本件級の数値シミュレーション結果は青潮の発生過程を定性的には再現し ていると認識しておりますが,DO等に関する十分な現地データがないことから,実測 を再現しているとまでは言えません. 討論者  細井 由彦(鳥取大学 工学部) 質疑  底に沈殿した有機物はt0日分が分解するとされています.これは沈降途上(浮遊中 )の分解や再浮上も含めた総括的なものと考えていますが,t_0日として1日を採用さ れた根拠はなんですか. 回答  本研究ではできるだけ汎用的なモデルの開発を基本方針としたのですが,いくつか のパラメターはチューニングが必要となっています.t0はそのうちの一つで,現状で は1994年のDO濃度の実測結果に適合するように決定されています.  ただし,文献等を参考にDO消費には底泥表層の有機物分解が重要であることおよび その分解に要する時間が数日のオーダーであることを念頭に置き,モデル化およびチ ューニングを行いました. 討論者  松梨 史郎(電力中央研究所) 質疑  流入負荷の有機物は非生物体が多いと考えられますが,湾内の有機物は生物体であ り,DOの生産が過大になっていないでしょうか. 回答  ご指摘のように本モデルは流入する有機物の一部が湾内で酸素生産を行うようにな っており,DOは過大生産されていると考えられます.  このことは本モデルの問題点であり,今後,より詳細なモデル化を進めることで改 良していきたいと考えております.
論文番号 220 著者名 田中昌宏、Arjen Markus、阪東浩造 論文題目 青潮の生化学反応を含む数値モデルの開発 討論者  内山雄介(東工大 大学院) 質疑  Upwellingした高密度水が引き起こす密度差にドライブされる流れによって混合が助長される可能性があるとのコメントに対して、沿岸域の流動に対してそのような密度流がどれくらい寄与していると考えられるか? 回答 ここで述べた密度流は非常に局所的なものですので、物理的な湾全体の流動を考え る上では、さほど問題にはならないと思います。ただし、今回対象とした青潮に限ら ず、沿岸域の湧昇流は、水質変化には非常に重要と考えられ、ここで指摘した局所的 な密度流が重要になるものと考えられます。 討論者  松梨(電力中央研究所) 質疑  (1) 水温は流動計算にリンクしているのでしょうか?  (2) 夏季の定常計算での水温の定常性はどうでしょうか? 回答  (1) 密度は水温と塩分の関数になっており、当然、水温は流動計算とリンクしてい ます。  (2) ここでは、気象、海象条件などを一定に与えた非定常計算で、流れ、塩分、水 温がほぼ定常になったと判断された計算結果を初期条件に使っています。その際、塩 分の定常性を第一に判定しており、水温は大気との熱収支により完全には定常にはな っていませんが、その変化はかなり小さくなった結果を用いています。 討論者  日比野忠史(港研) 質疑  東京湾での貧酸素水塊が形成される要因としては、何が大きいのか?毎年の気象等 の変化は貧酸素水塊の形成に対してどの程度影響を与えているのか? 回答  まず基本的には、有機物の海底への沈降量、成層の強度(塩分差、温度差)だと考え られます。したがって、気象条件は貧酸素水塊に形成に非常に大きく影響するものと 考えられます。気象条件には、河川からの淡水流入量、風の方向、強さ、もちろん日 射などの基本的な気象条件が含まれます。 討論者  上野成三(大成建設) 質疑  この論文はモデルにイオウを考慮している事が特徴と思うが、化学分野では化学平 衡モデルを取り入れるのが一般的と思う。(このモデルでは、O2をパラメータにして 、イオウ、硫化物の変化を求めている。)  計算結果は、現象とイオウの分布が合わないが、この原因はO2の限界パラメータの 与え方の問題か、化学平衡を考慮しない事か、どちらが効くのか? 回答  青潮に関わるイオウの酸化・還元反応は反応速度が非常に速いと言われているので 、本手法で十分イオウの反応をモデル化できるものと考えられる。計算結果が実際に 起こった青潮の状況と必ずしも会わない理由は、本文中にも述べたように、局所的な 物理機構のモデル化にも原因がある可能性があり、また、硫化物のソースとして重要 な窪地を考慮していない点にもその原因が考えられる。
論文番号 221 著者名 佐々木 淳 論文題目 東京湾湾奥水塊の湧昇現象と青潮への影響 討論者  和田 明 (日本大学 生産工学部) 質疑  本セッションの佐々木さんの講演を含めた4編の発表の内容に感銘を受けています .一般的に水質モデルについては,目的に応じてその内容は異なりますが,でてくる 結果はそれ程大きな差はないものと思われる. 青潮の発生機構として,風の吹送,それに伴う急激な鉛直混合とされていますが,そ の証拠を示す流れの場を提示していただけないでしょうか. 回答  青潮の力学的発生機構には本文にも述べましたように,吹送流(エクマン流)によ り速やかに表層まで湧昇する場合や,内部ケルビン波によるもの等,いくつかの要因 があると考えられます.このうち吹送流に関しては急激な鉛直混合というよりは,湾 奥沿岸の表層水が沖へ流出し,代わって湾奥沖合い底層水塊が接岸湧昇する,すなわ ち水塊が入れ替わることによるものと考えています(例えば,日本海洋学会編,1994).  北風系が連吹していた8月22日午前0時における表層,深度5m,及び深度10mにおけ る平面流速場,およびそのときの東京湾の長軸に沿った鉛直断面の流速場を以下の図 に示します.このときは下げ潮から上げ潮に変わったときで,比較的潮汐流の影響が 小さい時ですが,湾奥表層での流向は風向によく対応していることを確認しておりま す.深度5mおよび深度10mの湾奥における流向は幕張から船橋寄りとなっており,湾 奥の底層水塊が接岸していく様子が現れていると考えられます. 参考文献:日本海洋学会編(1994):海洋環境を考える,恒星社厚生閣,pp.80-81.





論文番号 222 著者名 山根伸之,寺口貴康,中辻啓二,村岡浩爾 論文題目 長期観測データのクラスター分析による大阪湾の水質分布特性 討論者  上野成三(大成建設) 質疑  主成分分析結果は主成分1でだいたい説明がつくのではないか?  成分1と成分2の寄与率を教えてください. 回答  主成分1の寄与率は72%,主成分2の寄与率は17%です.主成分1の寄与率が大き く,御指摘のように,主成分1だけでもある程度の大阪湾の水質分布特性についての 説明が可能です.  ただし,主成分2を加えた方が累積寄与率が89%となり,大阪湾の水質分布特性を より精度良く表現できると考えております.
論文番号 224 著者名 宇多高明・小菅晋・岡本正一・伊藤正 論文題目 風浪の作用下での湖岸への植生の繁茂限界条件について 討論者  日野幹雄(中央大学総合政策) 質疑  植生限界波高より推算波高が低い場合には、どのような土砂でもよいか?  植生のためには粒子の細かい土砂が必要ではないか? 回答  霞ヶ浦は気水湖で、低平地にあります。したがって、そこでの湖岸を形成する土壌 は細砂・シルト・粘土を中心としています。霞ヶ浦については、指摘された事柄が暗 黙の情報として入っています。そのため、他の湖に適用する場合にはその点について 注意が必要かと考えます。 質疑  日本では江戸時代以来、砂丘の緑化を行ってきたように、人工アシで砂の動きを止 め、ワラで表面を覆い、アシを成長させたらどうか? 回答  霞ヶ浦を考えますと、すでに全周にわたって湖岸堤が完成していまして、その湖岸 堤の前面水深はかなり大きいものです。したがって、そこではかなり強い波浪の作用 を受けています。粗朶沈床などを用いて緩やかに湖岸改善を行うにしても、波浪を減 衰させるか、あるいは水深を小さくする工夫を行ってからでないとうまく行かないと 考えます。
論文番号 225 著者名 田中ゆう子、鈴木秀男、中田英昭 論文題目 護岸の生物生息場としての評価の試み 訂正  図−1のL.W.L.±0.000とH.W.L.+2.000が逆になっている。 討論者  島田宏昭(関西大学工学部) 質疑  石積護岸の被覆石の粒径はいくらですか。また、その種類は何ですか。 回答  粒径は80cm程度、種類は花崗岩です。 討論者  高山知司(京都大学 防災研究所) 質疑  石積緩傾斜護岸に海藻が少ない原因は何ですか。 回答  現在、調査を継続しており、最近の結果では海藻が採取されています。石積緩傾斜 護岸と海藻の関係については、今後のデータも含めて検討していきたいと考えています。   討論者   不明 質疑  猿島と比較を行っているが、その地形形状及び生物相について教えてほしい(比較 として適当なのか)。 回答  猿島は石積緩傾斜と同じ緩傾斜になっており、水質データをみる限り、同様の環境 とみなされます。生物の採取に際しては、猿島と各護岸の対面方位を揃えて調査しま した。生物相についても共通の種(ムラサキイガイ、エゾカサネカンザシなど)が多 数みられたことから、比較可能と考えました。   討論者  三村信男(茨城大学 広域水圏環境研究センター) 質疑  傾斜護岸と直立護岸では潮間帯の面積が異なることになります。生物の個体数と多 様性に対する護岸の傾斜の効果はどうでしょうか。 回答  今回は各護岸の初期データを基に発表しましたが、その後の調査結果では、傾斜護 岸に海藻が定着したり、直立護岸の個体数変動が緩やかになるなど異なる傾向がみら れました。ご指摘の点については今後のデータもふまえて検討したいと思います。
論文番号 226 著者名 村上・浅井・中瀬・綿貫・山本 論文題目 波高および水質よりみた港湾構造物の付着生物群集の評価 討論者  今村文彦(東北大学・工・災害センター) 質疑  多様度指数を用いて評価しているが、田中ら(1997)によるマッカーサーによる多 様度指数と何が違うのか、またそれぞれの適用性があれば教えてもらいたい。 回答  多様度指数には、大別すると以下のタイプがあります。 1.種間遭遇確率に基づくもの:あるサンプルよりランダムにいくつかのサンプルを採 取し、同じ種類が含まれる、あるいは含まれない確率を表す。 さらに、このなかには、そのサンプルの持つ情報量という概念を表しているもある。 前者の代表がSimpsonによる多様度指数(λあるいはd)(式(1))をもとにするもの であり、筆者らが採用した式はこれに基づくものである。後者の代表はShanon-Wieve rによるH'(式(2))で、情報方程式を変形したものであるとのことである。 λ={?ni(ni-1)}/{N(N-1)}・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1) ここにni:第i番目の出現種の個体数     N:総個体数  多様性が高いほどλは1〜0の範囲で小さくなる  (筆者らの用いたλ’はλを1より引いたものであり、多様性が大きくなるほど1 に近づくように修正している) H'=−?{(ni/N)loge(ni/N)}・・・・・・・・・・・・・・・(2)  最大値が収束しない。大まかにH'=3〜4位である(この点が筆者らが採用しなか った理由である)。  λ(あるいはλ’)とH'の相関は非常に高く、どちらを用いてもよいと思われるが 、λ(あるいはλ’)は多様性の高い部分で数値が「詰まってくる」傾向がみられる (多様性の高い群集同士を比較するときに困難がある)。最近ではH’を使う研究が 多くみられる傾向にある。  マッカーサーの式は基本的にはH’の系統であると考えらますが、申し訳ありませ んが筆者らは、あまり知りません(あまり見かけません)。 2.構造的規則性に基づくもの:種類数と個体数の間に相関をもとめ、関数式の勾配な どを表す。代表的なものは、「群集を構成する生物の種を個体数の多い順位配列する と、種類と個体数の間には対数式が当てはめられる」という元村の等比級数則など である。多様度指数はこの対数式の傾き等である。 3.経験的なもの:種類数と個体数の関係により表す指数。種類あたりの平均個体数を 表したBI(Bio-Index)などがあるが、これらは信頼がおけないことが明らかにされて いる。  どの多様度指数をもちいるのが一番良いのかは、まだ定説がありませんが、伊藤秀 三(1990)が日本生態学会誌Vol.40,pp187-194.に「多様度指数間の相関関係−各種の 指数値は何を表すか−」という論文を書いておりますので、ご参照ください。この論 文には多様度指数の基準として  (1)サンプルサイズの影響を受けにくいこと  (2)指数の意味が適正でわかりやすいこと  (3)相違が適正に表現されること  (4)過去に多用された歴史をもち、比較のための資料が多いこと をあげており、これに適合するものとして、以下の指数をあげています。  WhittakerによるS(100)指数・Fisherによるα指数・Simpsonのd指数(=λ)、およ びこれらの変形式です。この作者は生物学者であるので、Shanon-WieverによるH'は 生物系には式の意味がよく理解できないとしています。 討論者  磯部雅彦(東京大・工・社会基盤工学専攻) 質疑  波高・水質別優占種分布図で、藻類と貝類がずれるのは、貝類が海藻を餌として食 べることが関係しうるか 回答  もし、貝類がすべて藻類を食べるのであれば、両者の分布は基本的に一致している はずです。今回の報告では、一部の優占種のみ抽出して検討しておりますので、食う 食われるの関係までは抽出できていないと考えられます。  検討のもととなったデータには、動物の種類別に食性の項目を入れてありますので 、この問題については、「全藻食動物」と「餌となりうる海藻」との関係を検討して みなければはっきりしたことが言えないと考えております。  生物の種間関係や動植物の各種類別の生息条件などについては、引き続き検討して ゆくつもりです。
論文番号 227 著者名 明田定満・山本泰司・小野寺利治・鳴海日出人・斉藤二郎・谷野賢二 論文題目 複断面構造を有する港湾構造物への海藻群落形成について 討論者  角野昇八(大阪市立大学) 質疑  背後小段を有する複断面傾斜堤において見られる小段の(コンブ等への良好な)効 果は、小段が前面傾斜堤直後に設置されていることでもたらされているのか。小段を 傾斜堤と離して設置しても同様な効果が期待できるのではないか。 回答  傾斜堤による適度な消波と流動を確保した結果、小段に良質なコンブ類が繁茂した と考えている。小段を傾斜堤と分離して設けた場合、小段の環境が海藻(コンブ類) 繁茂条件に合致していれば問題は無いが、環境条件が厳しい場合は適切な波浪制御、 流動制御が必要と思われる。なお、海藻(コンブ類)繁茂に及ぼす適切な「波浪制御 」「流動制御」について、今後とも現地調査、水理実験等を行い定量的な検討を行う 必要がある。 討論者  松原雄平(鳥取大学) 質疑  港湾構造物に水産協調機能を付加させる場合、建設費の上昇はどの程度許容される のか。 回答  従来、港湾構造物に環境共生機能や親水機能を付加する場合、2割程度の建設費上 昇は許容されてきた。近年、大型港湾構造物の工費縮減が強く要請されており、構造 物に環境共生機能や親水機能を付加する場合でも、建設費の上昇は許容されなくなっ ている。
論文番号 228 著者名 谷野賢二、北原繁志、斉藤二郎、本間明宏、伊藤洋一、鳴海日出人 論文題目 防波堤のヤリイカ産卵礁機能に関する研究 討論者  上野 成三(大成建設) 質疑  産卵に適する天井面の形状として水平が良いとのことだが、何か理由が考えられるか。 回答  現状では、水平面への産卵が多く見られていることから水平面が適しているのでは ないかとの判断に基づいている。 水平面の利点としては   ?産卵空間の高さが均一になり、一定の範囲の長さ持つ卵嚢が場所により海底面へ 接触してしまうなどの不均一が回避できる。  ?産卵後、天井面に付着した卵嚢は海水流動によりかなり振れ回ることが観察され ていることから、凹凸の激しい場合、天井に接触し破損することも考えられる。 現段階では、以上の点が推察される。 質疑  調査したサンプル母数として水平のサンプルが特に多いということはなかったか。 回答  天井面の形状についての調査は産卵場所の写真により判断した。 調査対象とした産卵場所はブロックなど構造物67箇所、天然岩礁17箇所である。 対象としたのは実際に産卵が確認された空間であり、サンプル母数としては水平面の 数が多くなっている。 ヤリイカ産卵がみられた場所は、周辺に数多く存在する様々な産卵可能な空間の内の 一部であり、その中で産卵が多く見られたということは、天井面形状についてもある 程度選択性があると判断している。 討論者  辻本 剛三(神戸高専) 質疑  ヤリイカ産卵の適地として水温が照度より優位なのでしょうか。 回答  特に港など限られた範囲では産卵のための来遊は水温に大きく影響されるため、適 地条件としては水温が優位と考えている。 照度は、産卵場所に到達したヤリイカが産卵空間の選択のための条件の一つと考えて いる。
論文番号 229 著者名 谷野賢二,綿貫 啓,山本泰司,明田定満,廣瀬紀一 論文題目 高天端潜堤の水理特性と生物相 討論者  清水隆夫(電力中央研究所 水理部) 質疑  (1)潜堤用ユニットの横との連係性はあるのか?もし、ないとすれば堤体が一体とし て動くとの前提が成立するか。  (2)斜め入射波に対する安定性はどうか。 回答  (1)図−2に示すように、潜堤用ユニット(アクアリーフ)の岸沖方向の相互の連係 はありますが、沿岸方向の連係性はありません。図−4の水理模型実験による安定性 実験では、潜堤に直角に入射する波に対して検討しており、潜堤用ユニットは岸沖方 向に一体化して滑動する現象が見られたので、「一体として動く」と報告しました。 正確には、各列により滑動量は同じ値にはならないので、「潜堤用ユニットは、大波 浪時に単体が個々に移動するのでなく、かみ合わせ効果により、岸沖方向に一体とな って滑動する」という表現が適切と考えます。  (2)本論文の範囲ではありませんが、別途、平面水槽において斜め入射波(波向き22 .5度)に対する安定実験も実施しています。それによると、潜堤ユニットの沖側や潜 堤端部の側面の根固ブロック(すなわち基礎マウンド)が水理的に安定であれば、図 −4で求めた所要列数の算定図で求めた列数があれば潜堤ユニットも安定である結果を得ています。  なお、胆振海岸では、設計波相当の波がまだ発生していませんが、端部の潜堤用ユ ニットの観察結果では滑動、ズレ等が見られず、安定な状況です。
論文番号 231 著者名 加藤史訓,佐藤愼司,田中茂信,笠井雅広 論文題目 砂浜海岸における植生の地形変化に及ぼす影響に関する現地調査 討論者  清水隆夫(電力中央研究所) 質疑  植生の被度と地形変化に相関がなかったとの結論は意外な感じがするが、被度や植 高と地表付近の風速分布には相関があるのではないか。 回答  植高や植被率と地形変化との間に関係があるのではないかと思いまして現地観測を しましたが、今回の観測では明瞭な関係を見つけだすことはできませんでした。植生 の影響を受ける範囲の取り方など、地形変化の測定方法に問題があるのかもしれません。  今回の観測では地上1mの高さで風を測定しておりますが、草本の影響が及ぶと考え られる地表付近の風速分布は測定しておりません。しかし、植生の被度や高さと地表 付近の風速分布との間には、御指摘のとおり何らかの相関があるものと思われます。 討論者  鶴谷広一(運輸省港研) 質疑  植生のあるところに堆積しやすいのはわかるが、もともと植生のないところに、植 生が生えやすいというような条件についてわかっているのでしょうか。 回答  地盤高の変化が大きいところにはハマニンニクが生えているなど、飛砂や土壌など の環境条件により植物種が変わることについてはある程度わかっております。飛砂防 止等を目的とした海浜での植栽を行うためにも、そのような条件を調査していく必要 があるものと思われます。 討論者  北原繁志(北海道開発局 開発土木研究所) 質疑  植生と地盤高の関係においては、植物の根の生え方が重要と考えるが、そういう分 析はされておりますか。 回答  今回の観測では根の測定は行っておりませんが、ハマニンニクなどの砂浜に生える 草本は地下で根を広く伸ばしており、根の生え方が地形変化に影響を及ぼすこともあ ろうかと思われます。
論文番号 232 著者名中辻啓二,大屋敬之,J.E.Ong,W.K.Gong 論文題目 マングローブ水域におけるクリク・スオンプ系の3次元流動の数値モデル化 討論者  鶴谷広一(運輸省港湾技術技研究所) 質疑  流速が上げ潮・下げ潮最大時にピークが2つ現れるがその物理的意味を説明して下さい 回答  マングローブ水域では満潮時にクリーク(河川)からスオンプ(氾濫原)へ氾濫し、干 潮時にはスオンプからクリークへと流れる。つまり、スオンプは氾濫水の一時貯留機 能をもっている。ピークが2つ現れるのはこの一時貯留効果のためである。
論文番号 234 著者名 杜多 哲,阿保勝之 論文題目 内部潮汐のsill越えによる英虞湾への湾外低温水の侵入 討論者  日比野忠史(運輸省港湾技術研究所) 質疑  低水温水塊の挙動は西風と内部潮汐でどの程度説明できるのか. 回答  低水温水塊の挙動のうち,湾外低温水が湾内に侵入する現象に関しては,西風によ る沿岸湧昇で躍層面が上昇し,それに内部潮汐が加わることが本質的であると考えて いる. 討論者  上野成三(大成建設株式会社) 質疑  五ヶ所湾と比較して英虞湾の特徴はsillがあることと思うが,内部潮汐に対するsi llの役割を教えてください.ひとつのイメージとして外洋の内部境界面がsillよりや や下にあるので,sillは内部波をブロックする役割を持っているように思えるが. 回答  ご指摘のとうり,五ヶ所湾の方がsillがないため,沿岸湧昇や内部潮汐により湾外 底層の水塊が,英虞湾に比べて侵入しやすいと考えている.
論文番号 236 著者名 矢持 進・岡本 庄市・小田一妃 論文題目 砂浜や泥浜に優占する底生生物の底質浄化能力 討論者  山下 俊彦(北大 大学院) 質疑  底生生物の底質浄化能力への流速、底質の巻き上げの効果をどのように考えるか 回答  「底生生物」ではあまりに多種類・多生活型の生物を含むため答えられない。 ただ、筆者らが調査している大阪湾のような富栄養で、停滞性の強い内湾の奥部(潮 下帯)に棲む底在性の甲殻類の場合、流速の低下は底泥近傍での有機物の分解-酸素 濃度の減少と関連し、浄化はもちろん甲殻類の生存に対してマイナスの影響を及ぼす と考えられる。 巻き上げについても、酸素や餌となる懸濁物の供給という点ではプラス、生息場の撹 乱という点ではマイナス要因として作用するであろう。開放性で有機懸濁物濃度が高 くない外海の沿岸域とでは見方を変える必要がある。 討論者  中野 晋(徳島大 工学部) 質疑  実験装置について  1)底質層が10cm層である。スナモグリの場合、1m近く巣穴を作ると説明があったが 、層厚の影響は大きくないだろうか  2)水位のコントロール方法について種類別に最高水位などをどのように変化させれ ば良いかお教えいただきたい。  3)光のコントロールはどのように考えればよいか 回答  1)実験系の場合、自然状態と比べ系の歪みは避けられない。この場合、層厚約1mの 水槽での正確なサンプリングの困難さなどを考え10cmとした。なお、10cmであっても ニホンスナモグリは斜め横方向に枝状の巣穴を作ったので大きな影響はないと考える。  2)潮間帯下部から潮下帯に棲むニホンスナモグリと潮間帯上部に棲むヤマトオサガ ニの特性に合わせて水位はニホンスナモグリ>ヤマトオサガニとした(野外の状況と できるだけ近づける)。水位と冠水時間は、On-Offタイマ−・流量を調節できるロ− ラポンプで任意に調整できる。  3)ニホンスナモグリの場合は穴居するので光はパラメ−タとしてあまり重要ではな いと思われる。ヤマトオサガニについては光周期が行動特性と関連する可能性がある ので考慮するほうが良い。ただ、今回の場合は温度調節やロ−ラポンプ、タイマ−の 稼働の必要性から屋外実験を行えず、光条件は室内の自然光の変化に任せた。
論文番号 237 著者名 桑原久実・赤池章一・林 久哲・山下俊彦 論文題目 磯焼け地帯における海藻群落の生育要因に関する研究 討論者  日野幹雄(中央大学,総合政策) 質疑  最近,磯焼けが増えていると報道されているが,これは物理条件がかわってきたこ とを意味するのか。 回答  磯焼けの要因について,今のところ,(1)ウニの食圧,(2)水温上昇,(3)栄養塩の不足 ,(4)海洋構造の変化 など考えられています。磯焼け領域の増加は,この様な条件が 変化したためと考えられますが,具体的なその要因を特定するには至っていないのが 現状です。確かに,低水温の年は,海藻の量は多いようですが,これは,低水温がウ ニの活力を抑えたのか?,栄養塩の豊富な寒流の勢力が強かったためか? ホソメコ ンブの生育には低水温が良いのか? 不明です。  私たちの研究は,この様な磯焼け要因を特定する研究では無く,岩内のような磯焼 け域においても,毎年,海藻群落を形成する場所に着目し,その機構を解明し,得ら れた知見をもとに藻場造成を行うことにあります。 討論者  藤原正幸(愛媛大,農) 質疑  岩礁域のような凸凹の激しい地形で,式(3)より求めたuを式(4)に入れてもいいの か? 式(3)による値は,直接ウニに当たっている流速ではないと思います。 回答  非定常緩勾配方程式で底面波浪流速を計算し(図6),これからウニの摂食圧を求め た結果,摂食圧が0.1以下の分布(図7a)は,図3にあるコンブ群落を形成した領域と 一致しており,本解析手法の妥当性がある程度,示されたものと考えています。 討論者  綿貫 啓(?テトラ) 質疑  図3を見ると藻場の西側には砂が分布しています。この部分は図7(b)を見るとウ ニ摂食圧の高いところとなっているが,底質が不安定なので,ウニの生育環境に適さ ずウニ摂食圧は低いのではないのか? 回答  ご指摘の通りです。現地調査でも砂の領域では,ウニは全く見られておりません。 図7(b)の黒塗りの部分から底質が砂の部分を取り除く必要があります。 討論者  中山哲厳(水工研) 質疑  岩内港西側に見られる藻場の生育要因は,ウニ摂餌圧,シールズ数で説明がつくよ うに思うが,更に,西部にある藻場は,どうなのか? 回答  更に,西部に見られる藻場は,毎年形成される場所ではなく,生えたり生えなかっ たりしています(現地調査)。これは,ウニの摂食と海藻の生産が微妙な関係にあるた めと考えられます。本解析モデルでは,この様な微妙な関係を予測することは出来ま せん。 討論者  中村義治(中央水研) 質疑  北海道沿岸の磯焼け現象について,  (1)ウニの摂餌圧に関する水温と波浪の関係,行動特性,成長・生残過程,  (2)ホソメコンブの成長と水温,栄養塩動態との関係 などを取り入れたウニとコンブの個体群動態モデルを作成し,磯焼けの機構解明に取 り組む考えがあるか。 回答  是非,取り組んで行きたいと考えております。
論文番号 238 著者名 小島治幸,武若 聡,入江 功,片岡 治,島田 浩,筒井久喜 論文題目 砂浜海岸における自然環境の保護・保全に関する基礎的研究 討論者  松原雄平(鳥取大学工学部都市システム学科) 質疑  1. アンケートのサンプル数は十分か.  2. アメニティのアンケート調査については,景観構成因子を示すものを含めるべ きではないか. 回答  1. 福岡県の玄界・響灘に面した,両端を岬や島で囲まれた弓状海岸を対象として ,各弓状海岸にほぼ等間隔で数点の測点を設け,各測点でアンケート調査を実施した .アンケート調査の目的は,海岸における快適な環境(海岸のアメニティ)がどのよ うな項目により評価されるかを特定すること,海岸のアメニティについて高い評価を 受ける砂浜海岸の特徴を明らかにすること,アメニティを普遍的に評価するアンケー ト調査法の確立を目指すことである.アンケート調査は,調査を実際に行った海岸工 学の専門家やその授業を受けてある程度の海岸工学の知識をもっている学生を対象と して,各測点ごとに最大16サンプルから最低10サンプルまで,平均12サンプルの 回答 をもとにしている.統計学的には,ご指摘のとおりサンプル数は十分ではないと思い ます.しかし,調査の目的や方法の上から,多くの測点ではそこの海岸を利用してい る一般市民がまったくおらず,このようなやり方で調査を行なわざるをえなっかた. なお,今年度は,各測点に隣接する海水浴場を対象としてそこを利用している一般市 民に対して同様のアンケートを実施して,各海水浴場で100以上のサンプルが得られ ,その結果を解析しているところである.  2. 景観構成因子に関しては,本文の表−2に示しているアンケートの設問内容の ところの設問10,11,12が,景観構成因子を含んだ質問であると考えております.す なわち,設問10では「白砂青松がふさわしい海岸か?」というように「白砂青松」が 景観構成因子であり,設問11では「汀線形状は美しさがあるか?」で,「汀線形状」 がそれにあたり,設問12では「水平線がよく見えるか?」という質問のうち「水平線 」が景観構成因子であると考えます.
論文番号 239 著者名 渥美他 論文題目 資源変動モデルによる港湾周辺海域のウバガイ稚貝の分布・成長特性の検討 討論者  城戸勝利((財)海洋生物環境研究所 中央研究所) 質疑  別の二枚貝のアサリでは,ある時間貝の上に砂が堆積すると,死亡することが知ら れているが,ウバガイについて貝自身のはい上がりと堆積による影響の限界点はどの 位か,実験とそのモデルではどうか,(水温低下による活性の低下した場合に考えら れないか) 回答  ウバガイついては,渡辺(北海道開発局土木試験所月報 No.359, 1983 )が水温8 ℃〜20℃で埋没による減耗の実験を行い,稚貝(殻長5〜9.5mm)は45cm程度 の砂層の埋没に対して1昼夜で砂面上まで上昇でき,実際の海域では埋没によるへい 死はほとんどないと考えられると報告している.水温が低くなる海域では,貝の活性 が低下し,埋没によるへい死も考えられるが,現在までのところ低温下では調べられ てない.そこで,本モデルでは,解析対象である苫小牧海域の最低水温が数℃程度で あり,埋没によるへい死は考慮していない.
論文番号 240 著者名 小田一紀,石川公敏,城戸勝利,中村義治,矢持 進,田口浩一 論文題目 内湾の生物個体群動態モデルの開発−大阪湾の「ヨシエビ」を例として− 討論者  藤原正幸(愛媛大学 農学部) 質疑      ラグランジュ粒子の陸岸と海底における境界条件はどのように設定したか. 回答  流体運動については,陸岸では法線速度はゼロ,接線速度はスリップ条件を,海底 では法線速度(鉛直速度)はゼロ,接線速度(水平速度)はノンスリップ条件を課し ています.ヨシエビ幼生粒子は,流れに受動的な運動とヨシエビ幼生固有の周期的な 日周鉛直往復移動をするように設定してありますが,その過程で陸岸境界に到達する と法線方向の運動は停止させ,接線方向には流れに乗って移動します.海底境界に遭 遇すると法線運動(鉛直運動)を停止させますが,流れに対するノンスリップ条件か ら接線運動(水平運動)も停止することになります. 討論者  清水隆夫(電力中央研究所) 質疑  日周鉛直移動だけでは淀川河口への集積が説明できないことが書かれていますが, 低塩分忌避行動によって河口集積が起る理由はやはり上げ潮時に高塩分となって浮上 し,下げ潮時に低塩分となって下降することが原因でしょうか. 回答  計算では淀川河口から3km上流までメッシュをとっており,時間平均的に塩水が河 口部底層を上流に向って侵入していき, 上層部には沖向きへの河川流が存在します .ヨシエビ幼生粒子が沖合から潮流に乗って淀川河口付近に接近したときに,日周鉛 直移動だけでは粒子が上層に上がってきたときに河川流によってフラッシュアウトさ れて河口部に入っていけませんが,低塩分に対する忌避行動をとらせると上層まで上 がらないで途中で上昇運動を停止し,高塩分層内で鉛直往復運動を繰返しながらその 流れに乗って河口上流部にまで入っていけるわけです.
論文番号 241 著者名 伊福誠,近藤英樹,林秀郎 論文題目 化学繊維を用いたアマモ場の造成 討論者  松原雄平(鳥取大学 土木工学科) 質疑  図−4中のA,B,C領域中C領域の生育密度が低いのは 生物的要因が考えられないか 回答  C領域の岸側には,パラペット式の護岸が築造されており,潮位が高い時には浜は 水面下に没する状況です.こうした潮位が高い時に来襲した高波浪の反射の影響で造 成用のマットが飛散した事実があります.波や流れの影響で底面の地形変化が他の領 域に比べて大きいため,草体の活着率が低いと考えています.
論文番号 243 著者名 置栖孟、尾崎利治、前田英昭、梨村要一 論文題目 造成藻場の植生予測法の現地設計適用 討論者  綿貫啓(株)テトラ 質疑  傾斜角と植生の関係では、アカモクは水平な面の方がよい結果(たとえば奥田先生 の研究)がありますが、今回の結果とは異なっています。 砂泥の堆積は水深によって異なると思います。その違いはないのですか? 回答  当発表論文から明らかなように基盤傾角調査は平均水面の高さで実施しました。  被度観察結果から明らかなように、アカモクの被度は小さく、1枠しか調査されま せんでした。従って明確なことは述べることができませんでした。 質疑  浮泥の堆積は場所(地域)によって異なります。浮泥の堆積量も数値化されると、 後々使えるデータになると思います。 回答  調査費用の関係で浮泥の調査を行うことができませんでした。将来、機会があれば 是非調査したいと考えています。
論文番号 244 著者名 山田文彦、滝川 清、外村隆臣 論文題目 有明海沿岸域における飛来塩分の拡散機構とその数値モデルに関する研究 訂正  「海塩粒子の沈降速度を考慮した」ではなく、「海水滴の沈降速度を考慮した」が 正しい。 討論者  村上和男(運輸省 港湾技術研究所) 質疑  結論の2)で上空に行く程、濃度が高いことと、海塩粒子の沈降速度を考慮するこ とは矛盾しないか 回答  飛来塩分とは、海水滴(粒径:約4mm以下)と海塩粒子(粒径:3〜18μm程 度)より構成されている。上昇気流などで巻き上げられる海塩粒子とは異なり、海水 滴はその自重による沈降速度を有するため、両者は陸上部においては異なった機構で 移流・拡散される。そのため、論文中の気象条件下では上空へ行くほど濃度が高いと いう観測結果となったと考えられる。ここでは、FICKの拡散方程式の枠内で単位 時間内に輸送される、塩分濃度の算定に際し、これに海水滴の挙動を考慮するために 、沈降速度とその影響範囲を仮定して解析する方法を示したもので、矛盾はないと考 えます。 討論者  村上和男(運輸省 港湾技術研究所) 質疑  図−7で海塩粒子の付着量を濃度(ppm)に換算しているが、この値は単位面積 、単位時間当たりの付着量で表す方が良いのではないか 回答  ご指摘のように、海塩粒子の付着量を単位面積、単位時間当たりの付着量で表し、 より詳細な検討を行いたいと思います。 討論者  鶴谷広一(運輸省 港湾技術研究所) 質疑  飛来塩分による送電線事故と粒径の大きな海水による水稲被害は、物理的に異なっ た機構と考えるが、どうか 回答  送電線事故は、がいし等の機材に塩分が付着し、これに適当な水分が供給されると 機材の表面抵抗が低下し、漏れ電流やせん絡が発生するものである。また、水稲被害 は、水稲に付着した塩分が体内へ浸透し、生理機能を害するためであり、被害の発生 する塩分量(付着量と浸透量の合計)は、1穂(100粒程度)あたり1.0mgと いわれております。このように、水稲被害では、付着量だけでなく浸透量も関係する ため、ご指摘のとおり、両者は物理的には異なった機構であると考えられます。
論文番号 245 著者名 上野成三,大谷英夫,高山百合子,勝井秀博(大成建設(株)) 論文題目 流動・生態系モデルを用いた剥離渦発生構造物の海水交換・水質改善効果 の検討 討論者  稲垣聡(鹿島技研) 質疑  成層の影響を検討しているのか.閉鎖海域の場合,夏場は成層しているのが普通で 鉛直循環流等と組み合わせて議論すればより価値があると考えるが? 回答  本検討では,実験・計算とも密度一様の条件で行っているため,成層の影響は検討 していない.ただし,本工法のアイデアは大規模水平渦の強化を基本としており,構 造物により強化される流れや渦は鉛直に一様な現象であるため,密度成層の影響を受 けにくいと予想している.  成層場で発生する鉛直循環流は各海域でその特性が大きくことなるため,実験や計 算で一般化した影響を議論するのが難しい.この影響については,対象海域毎に,現 地の条件を考慮して検討することにしている.なお,成層場の影響の検討には(少な くとも概略検討レベル),3次元シミュレーションにより行えば良い. 討論者  日野幹雄(中央大学総合政策) 質疑  (1)渦動粘性係数νtの式(1)は,relative diffusionの拡散係数の式であり,ν tに用いるのは誤りである.  乱流場の計算には,どんな乱流モデルを用いるか,また,そのモデルの中のパラメ ータの数によって,剥離流の構造が異なることが数値流体における3D計算で分かっ ている.実際の場合に適用すること考えるのなら,k-εとかLESなど乱流モデルを導 入して検討して欲しい.  (2)航空の分野で,超音速流の乱流化のためにCross jetの噴出口に小特記を付 けると有効との最近の研究報告(Phy. of Fluid,1997)がある.同じ着想であり参考 にできる. 回答  (1)通常の潮流シミュレーションでは渦動粘性係数と拡散係数とを同一の値で用 いており,流速・水温・塩分分布との実測結果とほぼ一致することが確認されている .よって,潮流計算が対象とする海域の実用レベルでは,渦動粘性係数を拡散係数と 同じ値を用いても良いと考えている.ただし,現地で流速データがありテイラーの乱 流凍結仮定を元に νtを推定することができる場合は,現地の推定値を数値計算で用いれば良いと考えている.  乱流モデルの導入については,潮流計算で既に一般的となっているソマゴリンスキ ータイプのモデルが,計算時間・パラメータの少なさから有望と考えている.しかし ,このモデルを導入しても,モデルパラメータcのチューニングが必要であるため, νtの推定に耐え得る現地データの収集が先決と考えている.  (2)参考にさせて頂きます. 討論者  重松孝昌(大阪市大学工学部) 質疑  (1)実海域計算で用いた渦動粘性係数,拡散係数の決定方法は?  (2)それぞれの計算は2次元モデルか3次元モデルか? 回答  (1)リチャードソンの4/3乗則を現地データに合うように修正した式により拡散 係数を推定.渦動粘性係数は拡散係数と同じとした.この際,代表長は湾口幅をとった.  (2)水平2次元モデル
論文番号 246 著者名 水谷法美・金俊圭・鈴木篤・富田孝史・岩田好一朗 論文題目 潜水構造物より発生する波動音圧に関する基礎的研究 討論者  上野誠三(大成建設) 質疑   音圧変動やスペクトルの表示がリニアになっているが,音響の分野ではdB等のログ 表示が一般的と思う.人に聞かせる音と魚に聞かせる音では当然違いがあるでしょう が,音響分野の表示法と異なる理由は何でしょうか? 回答  ご指摘のとおり,音圧の整理については,音圧レベルのようにdB表示するのが一般 的であることは,著者も同様に考えます.当初はそのように整理しておりましたが, 本研究では,構造物の有無による音圧そのものの差,特に構造物を設置した事による 増分に重点を置いて解析しました.すなわち,構造物を設置する前の結果から設置後 の結果を差し引くことにより,構造物設置の効果を検討することとしました.そのた めには,dB表示する前の音圧そのものを扱う方が適当であろうとの判断で,音圧レベ ルではなく音圧そのものを対象に解析を行いました.したがって,表示方法も対数表 示ではなくリニア表示としました.
論文番号 247 著者名 角野昇八・重松孝昌 論文題目 非砕波面における酸素取り込み速度の現地スケールでの値の推定 討論者  今村正裕(電力中央研究所) 質疑  ビニール膜を使った実験方法の詳細はどのようなものか? 回答  紙面の関係から、論文記載の参考文献(たとえばKakuno et al.)を参照していた だきたい。 質疑  気相側のガス濃度を変化させた場合には、飽和になるのが早くなるのではないか? 回答  気液界面での気体輸送は、基本的に気相-液相側の当該気体の分圧差で生じている ので、その通りと思われる。ただ、本研究で求めようとしているものは、輸送量の絶 対量ではなく、その係数に相当する輸送速度(物質移動係数)を波浪特性の関数とし て求めようとしているものである。この係数は、気相側のガス濃度変化に関係なく決 定できるので、飽和になる速さによってその結果が変わるものではないと考えている。 質疑  他の気体(たとえば二酸化炭素)でやる予定はないか? 回答  今のところ予定していない。理由は、酸素に対する特性を求めることができれば、 正規化されたその結果から他気体への適用が可能であるからである。 討論者  森 信人(電力中央研究所) 質疑  表面更新率のスケールと水路の摩擦の影響のスケールが異なるのでは?特に、(水 路)底面は関係ないのでは? 回答  質問は、「造波水槽内と現地とでの各種物理量のスケールが異なるのでは?」とい う相似則の問題を 質疑しているものと思われる。本研究での基本的立場は、現象のス ケールの大小によらず、物質移動係数(およびそれにかかわる表面更新率)は液層内 のエネルギー逸散率によって一義的に決定されるとしたものである。そして、水槽内 での結果から側壁摩擦および底面摩擦、内部粘性によるエネルギー逸散率と物質移動 係数との間の関係を求め、それをときに外挿することによって、現地スケールの現象 のもとでのエネルギー逸散率(底面摩擦および内部粘性による)より物質移動係数を 推定しようとするものである。
論文番号 248 著者名 中村由行,村井大亨,小松利光,油島栄蔵,井上徹教,柴田敏彦 論文題目 微小酸素電極を用いたガス交換機構に関する実験的研究 討論者  角野昇八(大阪市大) 質疑  (1)乱れの代表長さの決定法を教えていただきたい。  (2)"small eddyモデル"では、物質移動係数はエネルギー散逸率εで決定されて いるとしている。εでデータを整理しているか。 回答  乱れの長さスケールは、乱れ速度の相互相関解析から求める事ができるが、多点同 時に乱れを計測することは困難である。平均的な流れのある場では、固定点での乱れ の時系列データを、乱れの特性が計測時間内に変化しないとする、いわゆるTaylorの 凍結乱流の仮定に基づいて空間的情報に変換し、相関を求めるのが一般的である。本 研究の様な振動格子を用いた実験系では時間平均の流れはないため、流速計のプロー ブを一定速度で移動し、数学的に同様な変換を行うことで、相互相関係数の流れ方向 分布を求める事ができる。本研究では、相互相関係数の値が0となる距離を長さスケ ールとした。  また、本実験では、非接触型のレーザー流速計プローブを水平方向にトラバースす る方式をとっており、測定による撹乱を与えずに計測できるという利点がある。  エネルギー散逸率εは、上述した乱れの計測値から、FFT法により乱れのエネルギ ースペクトルを求め、いわゆる-5/3 乗則が成立する波数帯から計算した。本論文で はガス交換係数と乱流レイノルズ数の相関を検討し、強い相関関係を見いだしている が、乱流レイノルズ数の増加と共にエネルギー散逸率εも増加するため、εにも良い 相関が認められた。但し、small eddyが表面更新に支配的であればガス交換係数は乱 流レイノルズ数の-1/4乗に比例すると考えられるが、実験結果からはむしろlarge ed dy説が理論的に示した-1/2乗に近い関係が認められた。従って、εとの相関は二次的 なものであり、本実験の範囲内ではlarge eddyがガス交換に支配的であると考えられる。 討論者  日野幹雄(中央大) 質疑  Jirkaは”イルカ”と発音します。 回答  ご指摘有り難うございました。
論文番号 249 著者名 芹沢真澄,三村信男,山田和人,Abdelaziz Rabie,三波俊郎,古池鋼 論文題目 海面上昇に対する南太平洋小島嶼国ツバルの脆弱性評価 討論者  小島治幸(九州共立大 工学部) 質疑  海面上昇に対する対策としては,移住,適応,防衛の3つが考えられるが,発表で は移住が必要だと結論を出されたが、他の対策法の可能性は検討されたか?例えば、 人の住んでない島の土砂を利用した土盛,かさ上げによる海面上昇への適応は可能で はないか? 回答  発表では影響の深刻さを訴えるあまり移住を強調してしまったが、正直なところ、 移住が唯一の方法であると結論づけるまでには至ってない。他の方法についても検討 したが、対策についてはまだこれという決め手が見いだせず頭を痛めている。  まず防波堤や堤防で島の回りを取り囲んでも海面上昇は地下水を介して下から突き 上げてくるため効果ない。島全体を御指摘のように盛土して嵩上げすることが必要に なる。御指摘のとおりこの方法によれば海面上昇への適応は工学的には可能だろう。 しかし、これは島を堅牢な要塞とするようなもので、大がかりな工事により島の自然 環境を著しく改変する。それによる環境面への悪影響が心配である。さらにこれは、 これまで島の人々が今の自然環境と向き合う中で伝統的に築いてきた文化を壊すこと にもつながるかもしれない。それでもこの方法をとろうとした場合、まず盛土に使う 土砂の入手が問題になる。ツバルでは土が貴重品とされているほど土地が乏しいため 、国内でまとまった土砂の入手は困難である。戦時中にはサンゴ礁を掘削して埋立て に使ったことがあるが、これは後に海岸侵食を引き起こす結果となった。基本的には 海外から輸入することになろう。ただし御指摘のように人の住んでいない島の土砂を 集めて使う方法は可能かもしれない。いずれにしても土砂の入手は容易ではない。ま たツバルの経済力は残念ながら大変低い。堤防で囲むだけでもG.N.Pの14倍の費用 を要するというIPCCの試算がある。島全体の盛土となると自国ではとうてい負担しき れない工費を要する。以上のことから、この方法は選択肢のひとつにはなるが、現実 的には難しい。  そうなると、「移住」ということなるが、しかし実際にはそれも問題が大きい。国 内の他の島はいずれも狭小な低地であるためそのままでは移住できない。海外に移住 せざるを得なくなる可能性がある。これは国の存亡のかかった重大な問題であり、国 際社会の政治的交渉を要する大変な問題である。また何より、一国の国民がこぞって 風土の異なる他国に移って暮らしていくことが実際に可能だろうか?島の人々へのア ンケートでは海外に移住するしかないだろうと答えた人々が少なからずいたが、その 反面一方では、海外に出稼ぎに行ったがどうしても馴染めずにすぐに島に帰ってきた 人々もいるのである。  このように、現実的に実現可能な対策はまだ見いだせていない。  いずれにしても、ツバルの人々の意向が最も重要である。今後はそのコンセンサス を形成していく段階に入る。そのために、我々は考えられ得るできるだけ多くの選択 肢を用意すること、そしてそのアセスメントを示すことが必要と考えている。その場 合、対策費用の負担の問題、移住の問題など、国際社会の政治的な解決方法にも視野 を広げて対策の実現性を検討することが必要と感じる。 討論者  稲垣聡(鹿島技術研究所) 質疑  海面上昇の量を50cm,1m等に設定しているが、現在の海面上昇の予測速度からし て、この問題は今後何年ぐらいの時間スケールで考えなければならないか? 回答  海面上昇量の予測値は、科学者によって異なるが、それらによれば、100年後(210 0年)までに50〜200cmの海面上昇量が生じると予測されている。また最近のIPCCの 予測では2100年までに15〜90cm(最適値48cm)としている。これらを踏まえて、当 研究の海面上昇量のシナリオでは、今後50〜100年ぐらいの時間スケールの問題 として30cm、50cm、100cmを設定した。
論文番号 250 著者名 宇都宮好博,岡田弘三,鈴木靖 論文題目 波候の変動特性に関する研究 討論者     駒口友章(財団法人 漁港漁村建設技術研究所) 質疑  (1)波高の増加傾向がみられるのは近年10年程度に限られるのか.また,それ以前と は違う傾向なのか.  (2)最大波高についての傾向はどうなっているのか. 回答  (1)今回の研究では,日本沿岸に位置する波浪観測計で収録された実測有義波高を用 いて解析を行っているため,最大でも23年間の観測期間しか無い.平均しても十数年 の観測期間しか無いため,今回の研究では近年10年程度の変化傾向のみを対象として おこなった.  その結果,波高の増加傾向が見られ,近年10年程度の波浪追算結果とも一致している.  一方,著者ら(1997)は「神戸コレクション」と呼ばれている船舶による海上気象観 測資料をデータベース化し,1900年〜1932年の波高の変化傾向を調べたところ,この 時期も波高の増加傾向が見られた.  また,花輪ら(1997)はCOADSと呼ばれている船舶による海上気象観測資料より北太 平洋の海上風を調べているが,それによると,20世紀前半は風速の増加傾向,20世紀 半ば頃は減少傾向,20世紀後半は増加傾向であるという.  これらのことを考察すると,波高の変化傾向も20世紀の初頭及び後半では増加傾向 ,20世紀の半ば頃は減少傾向であると思われる. 参考文献  1)宇都宮好博・岡田弘三・山下啓一(1997),KoMMeDSに基づく北太平洋の波候特 性,1997年度日本海洋学会秋季大会講演要旨集,p.57.  2)花輪公雄・安田珠幾(1997),海面気圧を用いた海上風の再現,1997年度日本海 洋学会秋季大会講演要旨集,p.59.  (2)今回の研究では,波浪観測所によりノイズ処理が不十分と思われるデータや測得 率が小さいデータ等の処理を完全にはおこなっていなかったため,これらの影響を最 小限にするため有義波高の月平均値のみを用いて解析している.  最大波高(月平均値ではない最大有義波高のことと解釈しているが)の変化傾向は ,確率波高の算出等海岸工学上重要な問題と思われるので,研究を続け解決していき たいと思っている.
論文番号 251 著者名 井上雅夫・島田広昭 論文題目 海岸利用者による海岸環境整備事業の評価−二色の浜海岸の事例研究− 討論者  鈴木雅晴(茨城大学大学院) 質疑  海岸利用者の満足度評価の対象が、水に入った者のみでは不十分かと思われます。 海岸利用者対象の評価を行うならば、砂浜の利用者等も含めないと正確な評価はでき ないし、むしろ周辺地域の住民を更に含めて評価して初めて評価ができるのではない かと私は思います。その件について意見があったら聞かせて下さい。 回答  ご討議いただきありがとうございました。  本研究で対象とした二色の浜海岸は、古くから海水浴場として利用されています。 このことは、海岸環境整備事業の実施によって人工海浜に改変された後も同じであり 、夏期には多くの海水浴客で賑わっています。  著者らは、1973年以来、この二色の浜海岸を始めとして数多くの海水浴場でアンケ ートによる利用者の意識調査を行ってきました。その調査項目のなかには、海へ実際 に入ってみないと評価できないもの、たとえば海底の勾配や底質、水質、波高などき わめて重要なものがあるため、調査対象を海に入った利用者のみに限定しました。し かし、こうした調査対象者も、砂浜は当然利用しているわけであり、周辺地域の住民 も含まれています。決して海に入ることだけを目的に遠隔地から来た利用者に限って アンケート調査を行ったものではありません。ちなみに、1996年に実施した調査のア ンケート 回答者のうち、約60%が二色の浜海岸の周辺地域からのものでした。
論文番号 252 著者名 三村信男・小島治幸ほか 論文題目 わが国沿岸域の特性評価ー北海道、茨城、神奈川、愛知、三重、福岡を対 象にしてー 討論者  駒口友章((財)漁港漁村建設技術研究所) 質疑  社会環境に対する評価指標に「景観」というものがあるが、「景観」は非常に主観 的な要因と考えられます。この場合の基準はどのようにしていますか。 回答  県や市町村、地域に残る、あるい選定した「名所八景」や「名所百撰」等であげら れているかどうかを基準にしました。
論文番号 256 著者名 徳田正幸、村上和男、渥美泰彦、永松 宏 論文題目 VHF沿岸海洋レーダの開発と流れ観測 討論者  八木 宏(東京工業大学) 質疑  海上風の影響をどのように考え、内部流速を評価したらよいか? 回答  VHFレーダで観測される流れは、理論的に約水深30cmと考えられている。今 までの流速観測は、主にベルゲン流速計の係留観測で行われている。その場合、測定水 深は通常では、湾内であると約1m程度、外洋に接する海岸では波浪の影響により約 2m程度である。こような測定水深の相違は、今までの流速観測データとレーダ観測 データの比較を行うとき問題となる。この問題は、流速鉛直勾配をもつ流れの場合、 深刻な問題となる。このような流れの代表的ものは、海上風で起こされるエクマン流 と密度流である。また、レーダ観測データから流量を評価するとき、内部流速の情報 が必要となる。  このような意味から、流速鉛直勾配をもつ代表的な吹送流について、内部流速を評 価の問題は重要であるために、これについての質問をされたと考えることができる。 以後、海上風の影響を吹送流(又はエクマン流)で置き換えて答えたい。  これに対して、論文では比較的流速鉛直勾配の小さい潮流について、内部流速の評 価法を示したが、質問の吹送流の影響については議論していなかった。その理由は単 純で、吹送流の研究はほとんど研究されていないことによる。すなわち、極表層流を 系統的にかつ精度よく測定する測器がいままで存在しなかったことによる。しかし今 後はレーダ観測が盛んになるので、今後の問題として考えたいことである。  しかしながら、定常及び非定常なエクマン流は、理論的にすでに解決されていると 反論する研究者がいるかもしれない。しかし、私は次のように反論したい。すなわち 、これらの理論は摩擦係数(又は摩擦深度)を仮定している。この摩擦係数は残念な がらまだ十分に研究されていないことである。その理由はすでに述べたように、表層 流の信頼のある観測データがほとんどないからである。摩擦係数を求めるには最低表 層を含む2つ以上の異なる測定水深の観測データを必要とすることである。  以上のことにより、 質疑回答は現状では次のようになる。  仮定:海上風が海岸で一様であるとすると、エクマン流も空間的にほぼ一様と仮定 できる。また、エクマン流の影響水深は表層付近であると仮定する。  このような仮定があれば、レーダ観測と出来るだけ表層に係留した流速計観測を同 時 に行うことによって、エクマン理論での摩擦係数を観測データから決定して、吹 送流 の影響を定量的に評価が可能となると私は考える。
論文番号 257 著者名 菅野高弘,Steve Altobelli, Masami Nakagawa, Eiichi Fukushima, 宮田正 史,森田年一 論文題目 核磁気共鳴映像法による粒状体中の非接触・非破壊流速計測に関する研究 訂正   図-6 流速分布図Vrの縦軸  +0.2 0.2 -0.2ではなく,+0.2  0.0 -0.2が正しい 討論者  八木 宏(東京工業大学) 質疑  流速の計測結果(図-9,特に右上の図:気泡無し)を見ると0とある値の間を変 動しているように見える.一方,気泡有りのケースでは,流速0になるところは無い ようである.  上記の事象を踏まえて,  (1)流速0になっているのはなぜか?粒子の位置関係と対応するものか?  (2)流速の測定体積はどの程度か? 回答  (1)計測位置に粒子があった場合,プロトンが存在しないためシグナルが出ない ことから流速が0になります.グラフ上の流速0の部分のほとんどが粒子部分と思わ れますが,実際に流速0の部分も含まれている可能性があります.但し,水が存在し て流速が0の場合にはシグナルが出ていることから判別ができます.  (2)今回の計測の場合には一辺が約0.3mmの体積を測定単位としています. 討論者  田中昌宏(鹿島技研) 質疑  測定の応答性はどの程度か? 回答  一次元の場合には数十ミリセコンド 質疑  測定装置はコンパクトになるか,可搬性はどうか? 回答  磁場の与え方によります.計測関係はコイルとA/D,D/Aコンバータ,アンプなので かなり小さくなります.常伝導磁石を用いればコンパクトになると思われます. 討論者  岩崎敏夫 質疑  非定常流を考えていますか? 回答  今のところ定常流を対象としています.しかし,計測技術の進歩が速いことから近 い将来に非定常流への適用も可能になるものと考えられます. 討論者  日比野 忠史(港湾技研) 質疑  生物,塩類の動きを見ることができるか? 回答  原理的には13C,23Na,35Cl 等はNMR信号を出すため可能と思われます. 但し,対象物に含まれる濃度に依存するため,今回対象とした水のプロトン1Hと比 較 すると難しい計測になると思われます.恐らく,時間分解能と空間分解能を下げ れば可能かと思われます.
論文番号 258 著者名 児島 正一郎、李 、澤本 正樹 論文名 ERS1−SARを用いた御前崎周辺海域の「うねり」の解析 討論者  徳田 正幸(国際航業) 質疑  うねりとして映っている像は、鏡点散乱として考えて良いのか? 回答  SARの画像中でうねりとして映っているのは、鏡点散乱とBragg散乱の二つの散乱過 程によるものである。海面へのマイクロ波の入射角が18度以下になると海面で起きる 散乱現象は鏡点散乱現象が卓越し、入射角が23度以上になるとBragg散乱が卓越する 。入射角が18〜23度は鏡点散乱からBragg散乱に移る遷移領域である。 討論者  内山 雄介(東工大(院)) 質疑  SAR画像の空間解像度から考えるて、想定しているうねり性の波よりも波長の短い 波の情報を同時に拾ってしまっているということはないのか? 回答  SAR画像中の1ピクセルは、その空間分解のよりも小さい波浪情報を含んでいる。し かし、この情報は平均化されているためSAR画像よりも大きい波浪だけを確認するこ とができる。 質疑  衛星画像と波向き線法で求めた波高、波長の値が若干実測値よりも小さいが、その 理由は何と考えているのか? 回答  本研究では後方散乱係数の最大値を用いて波浪をモデル化しているが、このモデル 化が実際の現象を正確に捉えていないためである。また、SAR画像は合成開口処理を 行うことで非常に高い空間分解のを有しているが、海面の挙動によってこの処理は強 い影響を受けている。しかし、本研究では海面を静止した凹凸のある面として考えて いるために実際の波高・波長よりも小さく見積もっていると考えられる。 討論者  稲垣 聡(鹿島技術研究所) 質疑  一般にSAR画像の信号の補正処理が大変と言われているが、図4のような画像はどの ようにして得られるのか? 回答  SARによって受信されたデータを直接画像化しても、図4のような画像にはならない 。図4のような画像を得るためには、レンジ・ドップラー法と言われる画像再生処理 を行わなければならない。この画像再生処理は非常に手間のかかる作業であるが、す でに確立された方法である。このため、SARデータ利用者は画像再生処理されたデー タを宇宙開発事業団から購入することができる。
論文番号 259 著者名 灘岡和夫、二瓶泰雄、横山智子、大見謝辰男、下池和幸 論文題目 海底分光反射特性解析に基づくサンゴ礁海域衛星モニタリングの一般化の試み 討論者  日比野忠志(運輸省 港湾技術研究所) 質疑 他の地域でどの程度利用できるか 回答  基本的には、底質の分光反射率を実測等で測定することができるなら、サンゴ礁に 限らずどの海域においても本論文で示している手法を適用することは可能です。ただ し、太陽光の届かないほど深いところに位置する底質に関しては、当然のことながら 、底質からの反射光がキャッチできないため、海底底質の分類を行うことはできません。
論文番号 260 著者名 瀬戸口喜祥、浅野敏之、西隆一郎、佐藤道郎、中村和夫、神田信之 論文題目 観測桟橋のない海域で波浪観測を可能とする可搬式多点計測システムの開発 討論者  永井紀彦(運輸省 港湾技術研究所) 質疑  短期間の簡易な波浪観測装置は、多くの関係者から要望が出ております。私どもも 、波浪監視計(港研資料No.860,1997.3または本年の年講?部門1997.9)の開発・実 用化を行いましたので、参考にしていただければ幸いです。水圧から表面波形への換 算法など、お役に立てると思います。 回答  貴重なご意見、大変ありがとうございます。今後の研究の参考にさせていただきます。 討論者  吉岡洋(京大 防災研究所) 質疑  野外で長期使用するにあたり(温度変化等)、測値のドリフトはどの程度抑えられ ているのか。 回答  (1)温度ドリフトについて:今回採用した圧力センサーは、デバイス内に圧力セ ンサーの感圧ブリッジと同じ材質からなる半導体補償抵抗を有し、温度変化をブリッ ジアンプとの組み合わせで自己補償する機構を有します。試験においてもアンプ側か 、圧力センサー側を独立して加熱・冷却を行わない限り、総合的な試験では補償が機 能して温度ドリフト等は殆ど見受けられなかった。  (2)素子の、クリーピング歪みによる長時間圧力載荷後の復元性(ヒステリシス )については、我々の使用する水深では定格最大圧力の15%以内なので試験中特に 問題とはならなかった。(本件は製造メーカーにデーターがないか照会中)