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論文番号 51
著者名 木村晃,喜田昌裕,山崎樹実也
論文題目 不規則波による湾水の長周期振動について
訂正1
論文中の図−2〜図−5を以下の図と差し替えて下さい.
図ー2 湾の振動特性(case1) 図ー3 湾の振動特性(case2)
図ー4 湾の振動特性(case3) 図ー5 湾の振動特性(case4)
訂正2
原文(p.255,左1行目から同右6行目)
図からわかるように,いずれのケースでも〜ほとんど影響しない.
修正内容
規則波による湾水の共振では湾長/波長が1/4,3/4,5/4,..付近で共振が発生
する.しかし図からわかるように,不規則波の場合は湾幅に関わりなく1/4,3/4,,
より幾分小さい部分にRのピークが現れる.しかしCase1と3を比較すると湾幅が広
くなるとRの値が小さくなること,Case 1と4を比較すると,湾口を狭めるとRの値が
大きくなること,などの規則波と共通した特長は残っている.ここで計算した各ケー
スは実港湾に比べて港口幅が幾分小さいが,この場合でも高次の共振モードでのRの
値はあまり大きくならない.したがって2次長周期波による共振現象では基本モード
にのみ注意すればよいようである.
訂正3
(18)式を
Ri = kj tanh kjh
と訂正して下さい.
第43回海講(1996)のp.212の式(16)も上のように訂正いたします.計算は正し
く行っております.
討論者 関本恒浩(五洋建設?)
質疑
位相関数が残るため,平均操作により位相関数を消去したということですが,最終
的にはスペクトルを求めており,ご存じのようにスペクトルの定義は複素フーリエ振
幅の絶対値の期待値(あるいはアンサンブル平均)ですので,最終的にスペクトルを
求める段階で必然的にこの位相関数は消えると考えられますがいかがでしょうか
回答
成分波の概念に基づいてRの値を素直に計算すると1次波の位相差の項が残ってき
ます.この段階での位相の平均操作は大変難しくなります.結果的には(47)式のよう
にご指摘の通りになっておりますが,これは(39)から(43)の操作の結果もたらされた
ものです.したがって(47)式は近似解であることにご注意ください.このような近似
をしなくても良い方法をお気づきであればご指摘ください.
討論者 浜中建一郎(北海道東海大学)
質疑
(1).1次の波が湾口で連続で滑らかにつながっているとすれば,それから作られる
2次のオーダの方程式の強制項も湾口で連続で滑らかにつながっており,それによっ
て形成される2次の拘束波も連続になると考えられるが,湾口で不連続となるのはな
ぜか?
(2).湾外の2次の拘束波は,湾口からの1次の散乱波の効果を無視している様に見
えるがなぜか?
回答
(1).1次のオーダーのモデルでは水位および水面勾配が連続するように解が求めら
れます.この過程で自由波,回折波,散乱波など性質の異なる波の項が現れます.そ
れらの波の非線形干渉は相互の波の性質により干渉のパワーが異なります.中では1
次の自由波相互の干渉による2次干渉波がもっとも大きくなります.このためすべて
の項を考慮しても2次のオーダーで港口での連続条件が満足されることにはなりません.
(2).式を使わずに説明します.散乱波は港口部に局在する性質の波ですから,この
波と1次の自由波が干渉してできる波も必然的に港口部に局在する波となります.し
たがってこの波によって生じる港内外の水位差がもたらす水の流動も局所的なものに
なります.このためここで対象としている規模の港湾では,大きな共振現象を誘起す
ることはできないと考えて無視しました.ご指摘の波以外にもσ−t+k+x (周波
数差で波数和)の波を無視しました.この波は全域に存在する波ですが,水位の凹部
と凸部の間の距離が短く,この波によって生じる港内外の水位差がもたらす水の流動
は比較的港口に近い部分で解消されてしまうものと考えられます.このため湾全体に
わたる波を引き起こしにくいことが推定されます.Bowers(1977)はこのことを理論
的に示しています.
論文番号 52
著者名 佐藤愼司
論文題目 浅海域における長周期流速変動の発達特性
討論者 永井紀彦(運輸省 港湾技術研究所)
質疑
ナウファス(全国港湾海洋波浪情報網)では,津波・長周期波の特性把握を目的とし
て,USWによる水位変動ばかりでなく,CWDあるいは海象計による水平流速測定値につ
いても,
(1) 2時間毎に20分間の0.5秒間隔サンプリング ---> 波浪ファイル
(2) デジタルフィルター(30秒以上のローパス)通過後の連続した5秒間隔サンプリ
ング ---> 長周期ファイル
として観測データの蓄積を進めています.(海象計の流速データサンプリングは上層(
海面下約10m)のものを採用しています)
今後の流速波形記録の整理・解析・とりまとめにつきまして,コメント等がありま
したらお教えください.
回答
流速記録につきましては,これまでの海象観測では波向を計算した後で捨てられる
ことが多かったのですが,近年の観測で沖合いでも強い流れが発達することが明かに
なったため,建設省で発行している「海象年表」では,平均流速の諸特性についても
解析結果を掲載するようにしております.長周期成分については,解析法がまだ確立
していないので,できれば生データを保存する体制とするのが望ましいと思いますが
,項目を絞るとすれば,自乗平均振幅,波群波形との相関値などをとりまとめると有
用なデータになると思います.
論文番号 54
著者名 米山 望、松山昌史
論文題目 自由液面解析コード(FRESH-FV)を用いた津波遡上解析
討論者 富樫宏由(長崎大学工学部)
質疑1
入力波の境界条件(Inputの仕方)を説明してほしい。
回答
造波板の変位を微分することで流速変動を求め、その値を造波板停止位置(x=0)の
流速値として与えました。
質疑2
波源の規模:モーメントマグネチュード8.0とは何か?
回答
これは沿岸で4m以上の津波高になるように設定したもので、その津波高になるよう
に設定した断層パラメターをもとにマグニチュードを計算すると8.0であったという
ことです。 4m以上であれば何等かの被害が沿岸で起こることが予想されます。ちな
みに4〜6mは今村・飯田の津波規模階級でm=2となり、「若干の内陸までの被害や人的
損失」と設定されています。
論文番号 55
著者名 河田恵昭・小池信昭
論文題目 重ね合わせの原理に基づく津波数値解析方法
討論者 都司嘉宣(東大地震研)
質疑
Green関数を求めるとき,1格子に単位高の水位を与え,それ以外は全部水位ゼロ
とするはずである.ところで,1波長の正弦曲線を格子で再現するのだと最低20点が
必要(できれば40点)とされる.すると,格子は単位高を与えた格子のサイズの1/20
の細小格子で計算しなければならないことになるが?
回答
本論文で取り上げた2つの例のうち,近地津波の場合には計算格子を国土地理院の
3次メッシュ(約1km)とし,単位高はその10倍の2次メッシュの格子で与えました
.ご指摘の20分割には及びませんが,10分割されているため結果として誤差が小さく
なったと考えられます.ただし,遠地津波の場合は計算格子の大きさ(10分)でその
まま単位高を与えており,今後は分割数を多くして単位高を与える方法を考察してい
きたいと思います.
論文番号 56
著者名 李昊俊、今村文彦、首藤伸夫
論文題目 屈折現象に注目した津波数値計算の精度
討論者 都司嘉宣(東大地震研)
質疑
解析解として島の周りが h = kr2 のときは屈折線は対数らせん、また一次元的な
陸だな解でスロープ一定のときはサイクロイド、h=kx2, h=ke-rの場合もおのおの解
析解はArthurの解よりもっとかんたんなものが知られている。なぜこの簡単な方を使
わなかったか?
回答
上記したような簡単なで断面での津波の屈折に対しても、既に計算精度の評価を行
った。
たとえて、陸棚のような一様勾配斜面での解析解を用いて屈折計算誤差は評価されて
いる。また、簡単な円形島周りに対しても、本研究で定義された解析近似解を用いて
評価された。
論文番号 57
著者名 李昊俊、今村文彦、首藤伸夫
論文題目 日本海での津波の挙動特性
訂正
図―9と図―10のキャプションは正しいが、図面が逆になっている。
図面を相互入れ替えるのが正しい。
討論者 都司嘉宣(東大地震研)
質疑
大和堆をなくしたというとどうなくしたのか?
回答
大和堆周辺の水深と同様に3000mでフラットにしている。
討論者 富樫宏由 (長崎大学)
質疑
大和堆の海底地形効果については、従来の日本海における津波の計算では、この地
形効果は適切に表れていなかったということなのだろうか?例えばメッシュ分割が粗
大過ぎだろうか?というようなことを聞きたかった。
回答
従来の日本海での津波計算、特に大和堆を通過して韓国及び隠岐に到達する津波の
計算において使われた5km間隔のメッシュは、本研究での結果によると、津波伝播特
に屈折現象に対しての計算精度が低いと判明された。それを計算するために必要な格
子間隔は約1km程度であることが本研究での格子間隔選定基準及び数値実験で分かった。
討論者 柴木秀之 (株 エコー 第一技術部)
質疑
既に海岸工学の論文において、日本海全域1.8km格子の計算を行っており、大和堆
における波の集中と山陰沿岸における相対的に高い津波高の再現を「北海道南西沖地
震津波」について行っている。
論文番号 58
著者名 平石哲也,柴木秀之,原崎恵太郎
論文題目 想定南海地震津波における共振周期特性の重要性について
討論者 都司 嘉宣(東京大学地震研究所)
質疑
Loomisの方法で固有振動を求めるとき,明石海峡や鳴門海峡のところは,強制的
にnodal line を仮定したのか,coast と扱ったのか.Nodal line としたらそれは現
実的か.
回答
大阪湾においては紀淡海峡と明石海峡を,紀伊水道については,外洋側の境界と紀
淡海峡,鳴門海峡を nodal line (開境界)として扱った.過去に行われた大阪湾の
同種の解析(中村(1980))では,地形近似を約3.7kmの格子で行い,明石海峡を閉
境界として扱っている.
今回の解析では,1.8km格子で地形近似を行っており,この程度の近似になると,
大阪湾における明石海峡は,現実の地形条件である開境界として近似することが可能
となる.紀伊水道における鳴門海峡については,開口幅を過大に評価している可能性
はあるが,これを開境界とする場合と閉境界とする場合で,紀伊水道全体の固有振動
の分布がどの程度変化するかは,検討を行っていない.
今後,確認を行いたい.
論文番号 59
著者名 藤井直樹・大森政則・高尾誠・大谷英夫
論文題目 津波による港内流況の数値計算
訂正
図−8,図−9,図−10にミスがあり,図中の(2)はすべて(1)が正しい.
討論者 池野正明(電力中央研究所)
質疑
特に周期280sのケースでは,実験水槽の長さ18mと比較的短いため,1周期
造波し終わる前に,すでに反射波が戻ってきて多重反射波となるはずですが,反射波
を消去する制御をしているのですか.また,その際計算での入力境界ではどのように
しているのですか.
回答
反射波に対する制御は特にしておりません.沖側(図−1のSt.1〜St.6)
では水位と流速を計測しています.計算における沖側境界からの入力方法としては,
計測した波形を入射波成分と考えて,反射波は透過させる方法がまず考えられるが,
御指摘のように計測した波形には入射波と反射波が含まれています.計測した波形を
入射波と反射波に分離することは困難なため,本研究では入力境界条件として,強制
入力を採用した.すなわち,計算は,水位と線流量をスタッガード配置しているため
,沖側境界における線流量を計測した水位と流速で与える方法により行いました.
討論者 柴木秀之((株)エコー 第一技術部)
質疑
(1)防波堤開口部における運動量損失項の導入について,昨年度の海岸工学で榊原氏
らが報告している.今回は,導入したのか否か.また導入の必要性についての見解を
質問いたします.
(2)防波堤開口部にマウンド等がある場合,流速は鉛直分布を持つことを昨年度,藤
間先生らが報告されている.多層モデル化が必要と考えられるが,コメントをお聞き
したいと思います.
回答
(1)運動量損失項は導入しておりません.今回の計算で特に必要であるとは考えてお
りません.その理由としては,防波堤における剥離渦を良好に再現できているため,
開口部幅の減少,すなわち縮流によるエネルギー損失の効果が表現可能であると考え
ている.論文中の3点以外の港内外の計測点でも計算と計測の水位と流速が良く一致
しており,特に損失項が必要でないと言えると思います.
(2)今回の計算では防波堤による剥離渦や港内の循環流の再現性に着目していました
.ただ,一定水深を確保された港を想定しているため,鉛直方向の流速分布が問題と
なるようなマウンド等がある防波堤は考えておりません.流速が鉛直方向に分布を持
った場合と持たない場合で,平面流況に与える差異がどの程度あり,また周期特性に
よる差異があるのか,非常に興味があります.このような場合の計算方法としては,
最近海浜流,潮流,高潮等の流れの計算でやられているように準3次元あるいはフル
3次元モデルが有力であると考えています.実際,マウンドを有する津波防波堤開口
部の3次元流況場をVOF法で計算された例もありますので,機会があれば試してみた
いと思います.
論文番号 60
著者名 野口賢二・佐藤愼司・田中茂信
論文題目 津波遡上による護岸越波および前面洗掘の大規模模型実験
討論者 池野正明(電中研)
質疑
津波として、孤立波を作用させて越波量と洗掘深を検討していますが、果たして「
津波」による値と考えて良いのですか?
1波当りの越波量は同じ波高でも周期(波長)が長いほど多くなる特性を持ってい
ます。周期15〜30minの津波波形を仮に入射させてやると本実験結果よりも上回
る可能性があるのではないですか?(危険側)またソリトン分裂を対象とするのであ
れば、きりたった段波上の先端にのった孤立波を対象とすべきだと思います。
回答
沖波として津波の入射波を最も単純化して表わすものとして孤立波を用いました。
また、孤立波に周期はなく、通常の正弦波と周期や沖波波高について対等に比較する
ことはできません。
沖側で波の分裂が生じた場合は(日本海中部地震津波のビデオや野口ほか(第42回
海講、1995)など)、個々波が間隔をおいて来襲することになりますから、それぞれ
について遡上高、越波量を算出することになります。一方、分裂が汀線に接近してか
ら生じた場合(波状段波)では、越波量は分裂波よりも平均的な波形により決まると
考えられているので、結局ひとつの段波として扱えます。
洗掘深については、護岸天端からの戻り流れと前面の水位で決まりますので、波の
形状には依りません。
討論者 東江(大成建設 技研)
質疑
洗掘深の評価式に護岸前面の水深の項が無い。深ければ洗掘深は当然小さくなるの
では。
回答
本研究では、実験における観察からその時の水面から測った洗掘深と渦の半径が等
しくなると仮定しています。そのため、洗掘深Dに水深が内在された形になっており
、洗掘深は落下した水脈が到達する深さを言い換えたものです。これと初期の海底深
さを比較して洗掘深を求めますので、御指摘の通り深ければ洗掘深は小さくなります。
論文番号 61
著者名 松山昌史・田中寛好
論文題目 海底地盤変動による水面応答とその伝播に関する実験的研究
討論者 沖 和哉(京都大学)
質疑
1)図7〜8に関して,初期水位変動が異なるのに,可動盤から離れた点では同様の水位変動となっているのは何故か?
2)可動盤からもっと離れた点でも,図8の様に初期水位変動に関係なく同じ水位
変動になるのか?
討論者 都司嘉宣(東大地震研)
質疑
この話は,地震による海底地変イコール津波の初期波面と無反省に考えることに異
議あり,という問題提起と思われる.これは水平スケールが鉛直スケールに比して十
分大きい(20倍以上)とき成り立つが,そうでないと成立しない.実際,これがイ
コールでないという議論は1942年ごろの高橋竜太郎や1950年代の市栄誉らの
議論から,この実験の場合にどうなるかは理論的に容易に予測しうるはずである.実
験とその理論考察との比較は行っているか?
論文番号 63
著者名 断層運動に伴う動的地盤変位を考慮した津波解析の評価
論文題目 大町達夫・仲摩貴史
討論者 都司嘉宣(東大地震研)
質疑
(1) 従来と違う点というのは,破壊面の破壊の進行が有限であることを考慮しなけ
ればならぬといっているのですか?それとも地震波,P波の影響も入れなくてはなら
ぬといっているのですか?
回答
従来と違う点としては,ご指摘のように(1)断層破壊の速度が有限であることの効果
と(2)各種地震波が海底地盤の変位や津波に及ぼす影響をなるべく現実に則して正確に
評価しようとしていることであります.この主旨はより高度な津波予測を目指してい
るからです.
質疑
(2) 地震波P相の波,Rayleigh波を考えるということは,水側も圧縮性を考え,水
の中を伝わるt相の波の発生が予想されるがこのモデルにこのような点は入っている
のか?
回答
ご質問の点は入っています.
討論者 今村文彦(東北大・工・災害セ)
質疑
(1) 断層上のRayleigh波の計算精度は調べられているのか?
回答
本研究の初期段階でP波,S波,Rayleigh波とも理論値と比較して調べております.
ただし,断層直上ではRayleigh波のみを分離するのは困難なため調べておりません.
質疑
(2) 図2の結果で判断する限りにおいて,Rayleigh波は断層上だけでなくその周辺
にも十分伝播しているように思える.そうすると奥尻津波の江差でも数値計算上はRa
yleigh波が到達しており,それを除いて議論するのはおかしいと思われる.
回答
北海道南西沖地震の津波計算においてもRayleigh波の影響を除外しておりません.
論文番号 64
著者名 藤本・今村
論文題目 K/T-Impactによる津波の発生
討論者 東大 地震研 都司嘉宣
質疑
(1) MAC法の図は2次元の計算結果のものかそれとも3次元のものか?あるいは円
柱対称なものか?
(2) 隕石落下によって固体地球の体積は増える(クレータのリング山脈となる)は
ず、このモデルではむしろ穴があいて減っているようであるが?
回答
(1) MAC法の計算結果は2次元のものです。クレータに流れ込む流体は、軸対称と
考えられるので、円柱対称での連続式を考えると、この2次元の結果を3次元に拡張
解釈が出来ます。
(2) 最新の研究結果(松井,1997,Newton)によれば、隕石の衝突時に、隕石は衝突
時の熱により海水や地殻とともに蒸発し、成層圏の外まで噴き上げられた考えられて
います。また、リング山脈(おわんの壁)の形成もありますが、すぐに崩れてしまい
、現在、調査されているような「お椀型」のクレータが残されてると、説明されてい
ます。従って、残されたクレータを仮定することは、問題ないと考えます。
討論者 電中研 水理部 松山昌史
質疑
この数値計算が線形長波理論を用いているならば、図ー6のような水位変化をのみ
を初期条件としてソースにした場合に、図ー9の周辺の水位時系列は、大きな引波初
動で始まるのではないでしょうか?
回答
波源で引き波であっても、ある地点での波形が押波初動で始まるケースとして、
(1)浅い海底地形で、押し波が追いついてしまう場合(Krakatau噴火津波など)
(2)波数分散性のために、波形が変化する場合(Chile地震津波など)
があります。前者は浅水理論だけでなく、線形理論でも、運動の式中の圧力項にある
水深を全水深として扱うと可能です。実際に、ユカタン半島では、クレータを除く周
辺は200m以下の浅い海域が存在します。また、後者は大西洋を伝播する成分に現れる
と思います。従って、いずれの場合においても、初動が変わる可能性はあると思いま
すが、さらに正確に再現されているかどうかの検討する必要はあると思います。
論文番号 65
著者名 今村文彦・箕浦幸治・高橋智幸・首藤伸夫
論文題目 エーゲ海における歴史津波堆積物に関する現地調査
討論者 大谷英夫(大成建設株式会社 技術研究所)
質疑
1.「沖合からの堆積物」とあるが、どの程度沖合いのものなのでしょうか。
津波の波長程度ということでしょうか。
2.津波によって堆積物が輸送されるメカニズムとしてどのような考えでしょうか。
回答
1.沖合いからの堆積物かどうかは、それを形成している海砂中の好塩性種の割合で
判別しています。好塩性種の割合と水深には相関があり、エーゲ海周辺では深いほど
この割合が小さくなります。よって、海岸線付近での海砂を採取し、これから得られ
た好塩性種の割合と比較して、堆積物が深い水深の場所から運ばれてきたと判断しま
した。
しかし、具体的に水深何メートルであるかは不明です。好塩性種の割合と水深の関
係は地域性に大きく依存するため、定量的な評価を行うには、エーゲ海周辺でのデー
タベースが必要となります。しかし、現在、このようなデータは得られていません。
2.津波堆積物においても、掃流砂としての輸送と浮遊砂としての輸送の2種類が考
えられます。しかし、一般的に津波堆積物は広範囲に薄く堆積することから、浮遊状
態で運ばれる場合が多いと思われます。
論文番号 67
著者名 平石哲也,柴木秀之,原崎恵太郎
論文題目 津波表示装置による南海道津波危険度評価について
討論者 宇都宮 好博(財団法人 日本気象協会関西本部調査部海洋調査課)
質疑
最近の南海道地震の内(昭和・安政・宝永)一番小さい地震である昭和南海地震の
断層パラメータを用いるのは危険ではないか?
回答
想定南海地震の断層パラメータは,昭和南海地震の断層パラメータをそのまま用い
てるのではなく,昭和南海地震の断層パラメータを基準に断層長さ・幅・すべり量に
ついて,佐藤の地震相似則を利用して推定している.計算結果においても,想定津波
(M=8.4)の場合は,安政・宝永南海地震津波(M=8.4)と比較し,ほぼ同規模の
津波高が出力されており,過少な予測値にはなっていないと判断している.
このように,想定南海地震の断層パラメータを設定する際に,昭和南海地震を基準
に考えたのは,昭和に発生した地震で,関連のデータが比較的整理されているため,
精度の高いパラメータが求められているためである.
論文番号 69
著者名 河田恵昭・小池信昭・井上雅夫・嘉戸重仁
論文題目 環太平洋沿岸域における津波リスクに関する研究
討論者 後藤智明(東海大学)
質疑
Japan近海で発生する地震断層の幅50km(表−3)から判断すると,計算格子Δλ
=Δθ=10′は粗すぎるのではないか.
回答
Δλ=Δθ=10′は約20kmですから断層幅50kmの場合には2〜3分割しかしていな
いことになります.本来,津波初期波形は20〜30分割する必要があるとされています
.一方,津波が発生する断層は太平洋全体からみればかなり陸地近くにあります.し
たがって,陸地の近くだけ細かいメッシュにして,太平洋の中は大きなメッシュにす
る太平洋全域モデルを開発していこうと考えています.
論文番号 72
著者名 武田 誠・井上和也・戸田圭一・川池健司
論文題目 高潮ハザードマップと避難に関する二・三の検討
討論者 堺 茂樹(岩手大学)
質疑
複数の破堤が生じた場合の浸水深は図3(P.357)より大きくはないだろうか?
回答
複数の破堤が生じた場合の浸水深は、図3より大きくなる恐れは十分にあります。
ハザードマップは、「破堤、氾濫等の水害時における被害を最小限にくい止めるこ
とを目的として、浸水情報、避難情報等の各種情報を分かりやすく図面などに表示し
たもの」とされており、おおまかな危険箇所と避難場所の提示そして住民の危険意識
の向上とを狙ったものと考えられます。しかし、浸水の様子は外力によって異なりま
す。陸性の洪水の場合なら複数点の同時破堤でも浸水量の有限性を考えれば、単独な
破堤を重ね合わせた(包絡した)浸水深でほぼ妥当と考えられますが、海性の高潮の
場合は、浸水深は複数点の同時破堤により増大するでしょう。ただ、複数の破堤点の
組み合わせは無数に存在するため、それらすべてを取り上げハザードマップに生かす
ことは不可能であり、かつあまり意味がないと考え、本研究では複数の破堤が生じた
場合は考慮していません。
質疑
避難場所は、ハザードマップ上で浸水深が0の場所か?
回答
避難場所では、浸水深は必ずしも0ではありません。浸水が無いところへの避難が
適切なのでしょうが、本解析において設定された地域では、避難場所にはすべて浸水
が及んでいます。ただし、指定されている避難場所は学校などであり、高層階が存在
するため、浸水による危険性はないものと考えています。
討論者 柴木秀之(エコー)
質疑
防潮堤の破堤については、どのようなシナリオを考えられているのか?
回答
本研究では、最高潮位時に破堤が生ずるとして取り扱っています。この破堤のシナ
リオ(破堤箇所、破堤時期、破堤幅、破堤敷高など)は、いろいろ考えられますが、
本研究では想定的な設定とせざるをえませんでした。
これまでの高潮対策は、主にハード的に考えられ施工されてきました。しかし、計
画堤防高を越える超過高潮の発生は、防災上考えておくべき事であり、さらに、直接
的に防潮機能を低下させる地球温暖化による海面上昇や、まだ明らかにされていませ
んが、地球温暖化が台風の規模に与える影響も考えなくてはなりません。これらに対
してハード的対策を講じる場合、堤防高をこれ以上嵩上げするのは構造的に無理なだ
けでなく、生活質の面からも有効とは思えません。そこで、避難などのソフト的な対
策がより重要になってくると考えられます。本研究では、高潮時の避難対策の問題点
と被害がより少なくなる避難のあり方の把握を目指し、浸水を引き起こす原因として
破堤を想定し、そのときの避難の状況を数値解析的に検討しました。
論文番号 74
著者名 水谷夏樹,中島 等
論文題目 石狩湾における流れの特性について
訂正
結語の中の(2)で,「入射方向に依存せず,沿岸方向成分の勢力に対応・・・」は,
「入射方向に依存せず,岸沖方向成分の勢力に対応・・・」が正しい.
討論者 二瓶泰雄(東工大 大学院情報理工学研究科)
質疑
石狩川からの河川水の影響について検討はしたか.
回答
石狩川の主流方向は北向きであり,本研究で検討した地点は石狩湾新港の遮蔽効果
もあることから,石狩川の河川水の影響はないものとして検討しませんでした.
討論者 八木 宏(東工大 工学部土木工学科)
質疑
砕波帯沖合流れの駆動力として風と波によるSet-upを考えているが,風と波の水面
上昇を起こすスケールはかなり異なる.どのようなメカニズムを考えれば,海浜流の
スケールの現象と,それよりかなり大きなスケールをもつ風によるSet-upが,砕波帯
沖合流れを引き起こすと考えればよいか.
回答
ここで対象としている流れは100時間程度で変動している長周期の平均流であり,
それらと風,波の長時間変動が対応していること,波の岸沖方向の勢力と流れが対応
していることから,地形的特徴に起因した水面上昇が流れの生成に影響していると考
えることが自然であると結論づけました.この原因については,今後,冬期季節風下
における多点の同時観測によって,流れの空間構造を明らかにする必要があると思わ
れます.
論文番号 75
著者名 山下俊彦,木下大也,多田彰秀,福本正,橋本剛,北原繁志,谷野賢二
論文題目 石狩湾沿岸の流動特性
討論者 内山雄介(東京工業大学 大学院)
質疑
p373の上層の流れが沖から来る場合は全層的に流れるという記述について.
陸風の時は,岸沖断面の2次元的な補償流で表層と底層の流向の差を議論しているが
,なぜ海風の場合は補償流を考えないのか.普通に考えれば海風の場合も(下図に示
すように)鉛直循環流を形成すると思われる.
回答
確かに,陸風や海風など風の向きに関係なく,岸境界の影響による表層と底層の流
向の逆転は起こる,と考えるのが自然だと思います.その後,この石狩湾における風
速と流速の1年間を通したデータの考察をしたところ,風が強い冬には陸風に限らず
海風の場合も流向が逆転し,風が弱い夏には流向の逆転はあまり見られませんでした
.また,ご指摘の部分を含めてこの10月の観測における海風はそれほど強くなく陸風
に比べて連風が見られません.従って,このような風の強さに起因して,表層と底層
の逆転の有無が現れると現在は考えております.
討論者 上野成三(大成建設)
質疑
鉛直循環流を中心にデータをまとめられていますが,流れの全体像がイメージしに
くい.水平循環流はどのようなパターンになっていますか?論文集のデータを見ると
,南風時に時計回りになっている様にも見えるが….
回答
石狩湾では現地観測データが少なく,水平循環流のはっきりしたパターンはまだ把
握できておりません.今後,現地観測データを蓄積し湾内の流れの三次元構造を把握
したいと思います.
討論者 水谷夏樹((株)アルファ水工コンサルタンツ)
質疑
1. st.2からst.4に伝播するものがあるが,流れの卓越方向はst.4からst.2に
向かう方向ではないか.とすれば陸棚波とは考えにくいのではないでしょうか?
2. st.1,st.4の表層3mの流速について,塩分躍層の境界も水深3mであるため,
測点が躍層の上に入ったり,下に入ったりすることで流向が変化すると思いますが,
この点についてはどうでしょうか?
回答
1.流れの卓越方向という観点から見ると,大きな南西流が北から伝播したとも考
えられると思います.この点については,現在明確に把握できておりません.
2.st.1では水温の長期観測データ(st.4にも設置していたが流出した)がある
が,水温,塩分の両方の長期観測は行っていないので,水温・塩分躍層の水深方向の
移動と流速,流向との間の対応関係を考察することはできませんでした.
論文番号 77
著者名 崔 成烈,入江政安,福島博文,西田修三,中辻啓二
論文題目 陸奥湾湾口部における流動・密度構造(1996年夏の観測)
訂正
図−9,10に間違いがあり,図−9は側線A,図−10は側線Bの結果であるので変換
したい。
討論者 田中昌宏(鹿島技術研究所)
質疑
湾口の中層に入り込むのは外洋水の密度が湾の中層の密度と等しいためか?
回答
討議者の指摘の通りだと思う。
質疑
クロロフィルaは時間的に鉛直運動していたか ?
回答
湾口に直交する縦断方向に移動しながら計測しているので、クロロフィルaの鉛直
方向の動きは分からない.
論文番号 78
著者名 田中昌宏、稲垣 聡、八木 宏
論文題目 東京湾成層期の流動のリアルタイムシミュレーション
訂正
本文中、(誤)「還流」はすべて(正)「環流」に訂正してください。
討論者 日向博文(東工大 土木)
質疑
(1) 時計回りの環流の生成原因は何か?
(2) なぜその環流が湾奥にできるのか?
回答
(1) 本文中にも述べたように、基本的には藤原ら(1994)が提案している高気圧性渦
によるものと考えている。その高気圧を生み出す機構は、重力循環(エスチャリー循
環)による湾奥の上昇流であり、さらに北よりの風はこの重力循環を強める効果があ
ると考えられる。
(2) 上記の機構により、上昇流が湾奥にできるため、環流も湾奥にできる。ただし
、著者らが行った矩形湾における数値実験によると、一定水深の湾では、重力循環は
形成されるが、上昇流が弱いため、環流は見られなかった。東京湾の場合は、湾西岸
にそって海底に谷があり、そこに強い湾奥に向かう流れが形成される。この流れが湾
奥で強い上昇流を生み出し、環流を形成するものと考えられる。したがって、海底地
形の影響も重要と考えられる。
討論者 大谷英夫(大成建設(株))
質疑
(1) 図-5、6において残差流で計算結果を評価しているが、風の変動により流れが大
きく変化するという事から、残差流による評価は疑問である。
(2) 残差流により物質輸送を考える事があるが、今後このような考え方は意味の無
い事になるのでしょうか。
回答
(1)、(2)共に質問の趣旨が不明確ですが、まず、ここでいう“残差流”とは“潮汐残
差流”
だけではなく、吹送流、密度流などすべてを含んだ15日間の平均流です。したがって
、風による変動も当然含んで結果を評価しています。また、本文中でも述べたように
、風の変動が重要と考えられるので、今回のような、すべての外力を時系列的に与え
たシミュレーションを行いました。さらに残差流をこうした視点から捕らえる事が、
物質輸送を考える上で重要と考えています。
論文番号 79
著者名 日向博文、八木宏、杉田繁樹
論文題目 熱塩フロントを考慮した冬期東京湾の海水交換特性に関する数値計算
討論者 吉岡洋(京大 防災研)
質疑
外洋の擾乱によってフロントが変化する様子がこの発表では鉛直循環の変かとして
示されている。紀伊水道の観測(フェリー、サテライト)では、それは水平的変化(
ミアンダ、分裂、ストレッチ等)が顕著にみられる。本シュミレーションでは水平的
変化は表現されたでしょうか?
回答
本研究における計算では、熱塩フロントのダイナミックな水平的挙動は見られない
。それは外洋側にもうけたデータ同化領域において、水平的に一様な(時間的には変
化しているが)水温・塩分を同化させているためであると考えている。確かに実際の
東京湾湾口部に発生する熱塩フロントは非常に不安定であり、生成消滅を繰り返して
はいるが、紀伊水道のものと同様に水平的にダイナミックな変動をしているかどうか
はわからない。これに関しては現在、衛星画像、現地観測データを基に解析している
ところである。
論文番号 80
著者名 灘岡和夫、二瓶泰雄、吉野忠和
論文題目 東京湾における風系の時空間変動特性の実態と湾内海水流動への影響について
討論者 田中昌宏(鹿島技術研究所)
質疑
空間的に非一様な風は、比較的風速が小さいときに顕著と考えられる。したがって
、エネルギー的には一様な風の場の方が支配的な可能性がある。エネルギー的に見た
、頻度分布(非一様性)を検討して頂きたい。
回答
図−1に、1995年8月における風速レベルに応じた各風系の出現頻度を、1時間ごと
に得られている観測データの出現回数で表したものを示します。この中で、一様風系
型は明確な分類が困難なのですが、ここでは次のように分類しました(図中の?+?
+?)。まず、海上に存在する5観測点での風向(16方位)がすべて同じか一つ違い
のもの(?+?)と、そうでないもの(?)に分けました。これにより、湾軸に沿う
形で湾奥と湾口とで風向が大きく異なる図−2ようなケースは?に分類されます。
次に?と?では、海上5地点の風速値の空間変動レベルで分類しており、各風速が
海上5地点の平均値の±3割以内のもの(?)と、±3割以上のもの(?)とに分類し
ました。この図を見ますと、今回計算を行った期間中で卓越していた発散風系型は、
風速レベルによらず多く存在していたことが分かります。逆に、風向風速ともほぼ一
様な理想的な一様風系は、今回の対象期間中には見られませんでした。このように、
東京湾のような閉鎖性海域での風系は、風速レベルによらず、何らかの空間的な非一
様性を常に有しておりますが、それは、水域と比べて粗度や熱的条件が大きく異なる
陸域が水域を複雑な形で取り囲む形になっていることによるものと考えられます。
図ー1 風系の頻度分布(8月)
I :湾内5測点において風向き(16方位)がすべて同じか1つ違い
であるもののうち,各測点の風速が5点の平均値の±3割以内のもの
II :風向はIと同様で風速の空間変動が平均値の±3割以上のもの
III:IとII以外のもの
図ー2 一様風系型(III)の一例
討論者 日比野忠志(運輸省 港湾技術研究所)
質疑
時間的な解像度はどの程度で、その接合はどのように行っているのか。
回答
本研究で用いている風の測定データは、1時間おきに測定されたものであり、空間
補間はこの1時間ごとの測定データに対して行っております。そして、得られた前後
の空間補間データを用いて時間的に線形補間を行うことにより、その間の風データを
算出しています。
論文番号 82
著者名 金 種仁,中辻啓二,村岡浩爾
論文題目 大阪湾の沖ノ瀬の形成機構と残差流系との関連性
討論者 藤原正幸(愛媛大)
質疑
沖ノ瀬環流は沖ノ瀬がなくても存在するか?
回答
沖ノ瀬の生成機構は海峡部先端から発生する渦群の相互作用、より端的に言えば渦
群の合体現象であることは既に海岸工学論文集第42巻頁96-400(199)に記載してい
る。環流は沖ノ瀬がなくても存在する。
討論者 稲垣 聡(鹿島技術研究所)
質疑
このような粒子がどこから来るかという検討をする場合、3次元バロクリニック流
れは事前に選られているわけなので、粒子を最初に沖ノ瀬に置き、それから時間を逆
回しにして粒子の出所を求めるというアプローチは考えられないか?(確かに、移流
過程と拡散過程のうち、拡散の方は時間を逆方向に解くのは困難なので、移流がどの
程度卓越するかということになると思うが)
回答
非常に興味深い提案なので検討したいが、
質疑に示されているように拡散過程の評
価が難しい。大阪湾全体に粒子を配置した粒子追跡を行い、沖ノ瀬に集った粒子の初
期分布を探し出す方法はある。
討論者 日比野忠史(運輸省港湾技術技研究所)
質疑
堆積物の分布を流れの構造で説明できるか?
回答
論文に示した方法を採用すれば可能であろう。
質疑
現在の堆積物の分布は変化しているか?
回答
今日・明日のタイムスケールの話ではない。長期的視点に立てば、堆積物の分布は
変化しているのであろう。
論文番号 83
著者名 藤原正幸・大橋行三・藤原建紀
論文題目 診断モデルによる8月の紀伊水道における残差流シミュレーション
討論者 日向博文(東工大 土木)
質疑
密度の観測には何日かかるか? 観測時間のずれはどう考えているのか?
回答
本研究で用いた密度データは論文中にも書いているように9日間で測定されたデー
タである。密度の時間依存性については、潮汐による変化は海峡部周辺を除いて比較
的小さいので、紀伊水道全体としては無視できる程度である。また計算された残差流
は観測結果と良好に一致していることから、この9日間に紀伊水道の密度構造を変化
させるイベント的な外洋からの擾乱もなかったと考えられ、観測時間のずれは大きな
問題ではないと考えている。
討論者 田中昌宏(鹿島技研)
質疑
水平循環流の形成機構について説明していただきたい。
回答
8月の紀伊水道の残差流は全体的に密度流が支配的であり、潮汐残差流の寄与は、
海峡近辺を除いて小さい。また、観測期間中の風は弱く、吹送流の影響も小さいと考
えられる。流れは地衡流的になっている。密度分布の形成機構については、時系列的
に追跡し解析する必要があるものと考えている。
論文番号 84
著者名 八木宏,坂本太郎,灘岡和夫
論文題目 開放性沿岸域における成層期の水温構造と流動特性に関する現地観測
討論者 信岡尚道(茨城大学)
質疑
親潮や黒潮の分流の影響は観測対象域にも及ぶか?
回答
ご指摘のとおり,今回観測対象とした鹿島灘沖は黒潮と親潮の混合域にあたり,両
者の分流や暖水舌などが沿岸域に影響を与える可能性がある.この点については,昨
年度の海講でその可能性を指摘している(八木ら,海岸工学論文集Vol.43,pp1201-1
205,1996)が,その詳細なメカニズムについては現在検討中である.但し,複数年
にわたる本海域における観測結果から,開放的な本海域の夏季の水温環境に支配的な
役割を果たしているの
は沿岸湧昇と内部潮汐であると考えている.
討論者 佐藤慎司(建設省土木研究所)
質疑
日周期変動成分と半日周期変動成分のそれぞれについて,励起機構・発生源はどの
ように考えているか?
回答
両者とも内部潮汐と考えられ,成層期の大陸棚縁に日周潮汐及び半日周潮汐が作用
することによって励起されていると考えている.但し,本観測のように大陸灘上の比
較的陸岸に近い海域の計測結果からでは,その発生メカニズムまで推定することは難
しい.本年(1997)夏季に内部潮汐の沿岸方向伝播を把握するための広域観測を行っ
ており,今後この観測結果等もふまえて,内部波の沿岸域における伝播特性や発生メ
カニズムを明らかにしたと考えている.
論文番号 85
著者名 灘岡和夫,内山雄介
論文題目 吹送流による沿岸境界近傍の〜」
討論者 田中昌弘(鹿島技研)
質疑
(1)パータベーションの与え方はどのようにしているか?
(2)不安定の波長を決めるメカニズムは?
(3)上の現象と全体スケールの関係は?どのくらいのスケールで起こるのか?
回答
(1) 本研究では,まず岸沖断面2次元計算によって定常な吹送流場を計算し,得ら
れた流速分布を沿岸方向に一様に与えて3次元の初期流速分布とした.そして,乱数
によって流下方向流速の最大±5%の擾乱をこれに加え,微小擾乱の発達を追うという
形を取っている.
(2) ストリークを構成する縦渦の発達プロセスでは,初期に与えられた擾乱は3次
元的に干渉し,さらにストレッチされることによって発達していく.しかしながら,
沖側に行くにつれて空間的な加速率が低下するのでストレッチの受け方が変わり,吹
送流場に生じるストリーク状流出パターン(つまり縦渦の間隔)も変化する.そのた
め,最大発達波長は一意には決まらない.これに対応して,線形不安定解析の結果(
蒲田,東工大修士論文,1989)から,擾乱の高周波成分は粘性減衰するものの,低周
波側の広い領域で同程度の発達率であることため現象が多重構造的であること,また
加速率の低下とともに(つまり沖側であるほど)発達周波数帯が低周波側にシフトす
ることなどが示されている.このように,岸近くから発達し始める縦渦構造はその間
隔を広げながら沖へと伝播する.(ただし,この解析は水深無限大の条件でのもので
あり,今後,有限水深の場合の不安定解析を行い,今回の数値解析結果と比較する予
定である.)
(3) 沖向き風が連吹し続ければ,縦渦構造は発達周波数帯を低周波側へシフトさせ
ながら発達し続けるので,その発達範囲は状況(風速,沖向き風の継続時間など)に
応じて異なるものと考えられる.航空写真や衛星画像などで見られる実際の沖向き風
時のストリーク状流出パターンでは,最大発達波長は概ね100〜300m,最大到達距離
は沖合い数100m〜数km程度である.
論文番号 86
著者名 安田孝志・加藤 茂・十二正義・山下隆男
論文題目 強風浪下の沖合い流れの3次元構造と発生機構
討論者 田中昌宏(鹿島技研)
質疑
開放性の海岸では境界条件の与え方が難しいと考えられるがどのようにされている
のか?
回答
今回の計算においては,沖側境界を開境界としてラディエーション条件を与え,岸
側境界では固定境界とし,沿岸方向には周期境界を用いました.これらの選択,特に
沿岸方向の境界条件においては,論文中(5.1節)において述べていますように,固
定境界との比較を行った結果,周期境界を用いることとしました.
現地海岸と同様な開放性の海岸を考える場合,沿岸方向の境界条件の設定が一番困
難であり,計算領域の大きさとも密接に関連していると思われます.従来の方法とし
ては,計算領域を大領域に設定し,四方を固定境界,もしくは沖側のみを開境界とし
て計算を行い,計算結果の比較・検討としては,境界条件の影響が無い(少ない)と
考えられる領域の計算結果を用いることが多いと思われます.しかし,現地海岸との
対応を考えますと,沿岸方向においても沖側境界と同様に開境界,もしくはそれに代
わる適切な境界条件の設定が必要と考えられますが,現在,そのような境界条件は設
定できておらず,今後の課題であると考えています.
討論者 佐藤愼司(土木研究所)
質疑
”流れの外力としては風よりも波が重要である”と結論されていますが,このよう
な流れが強風で特性づけられている海岸のみで観測されていることや,佐藤(1996,
第43回海講)の計算結果などから考えると,やはり風が主たる外力と考える方が自然
だと思う.この程度の波は全国いたる所で観測されているので,もし波が主因だとす
るともっと多くの海岸で強い流れが観測されないといけないことになり,観測実態と
矛盾することにならないか?
回答
本論文では,波のみによって沖合いの流れが生成されていると結論づけているので
はなく,砕波を伴うような高波浪の場合では,流れの速度変化に対しては風よりも波
による影響の方が大きいということを結論としています.波も風によって生成されて
いる以上,風が波および流れの主因であることは当然ですが,波は風のエネルギーを
集積していますから,岸から数km以内では波(砕波)の作用が風と同程度に強く現れ
るのではと考えています.
したがって,石川海岸と同程度の強風と砕波,さらにこれらの方向条件が揃えば,
ご指摘のような,”同程度の波が観測されているもっと多くの海岸で強い流れが観測
されなければいけない”ということにはなると考えています.
しかし,実際にはこれらの条件が揃っていることが少ないため,石川海岸や新潟海
岸におけるような流れが観測されていないのではないでしょうか.
流れの発達には,外力としての風および波,それぞれが重要であることは明らかな
ことであり,同程度の波が観測されていることが,即,強い流れの存在には繋がらな
いと思います.
しかし,波の影響の重要性ついては,観測結果を見ると強い流れが発生していると
きは波も高いことから明らかであります.また,本論文および佐藤(1996,第43回海
講)の計算結果は共に,波の影響を考慮することにより,流れの方向変化が再現され
ており,特に再現性という点では,波の作用が重要であると考えられると思います.
論文番号 87
著者名 福岡捷二,中村 剛,池内幸司,日比野忠史
論文題目 時空間同時測位装置を用いた閉鎖性汽水湖内部の流れ場の観測と解析
訂正
図−1のトランスポンダ,ハイドロフォンの周波数に誤りあり.
誤 Transponder 19kHz,Hydrophone 23kHz
正 Transponder 23kHz,Hydrophone 19kHz
文章中の周波数にも誤りがありますが全て上記した周波数で統一して下さい.
討論者 田中昌宏(鹿島技術研究所)
質疑
1.トランスポンダの回収は簡単にできるのか
2.同時に何台まで使用できるのか
回答
1.トランスポンダは密度調整を行って水中に浮遊させている状態ですが,水中に
あるために,そのままでは回収が困難です.そのためトランスポンダに糸を付け水面
に目印となる浮き(風の影響を受けない程度の大きさ)を取り付けています.
2.受信周波数(トランスポンダから送り返されてくる周波数)の違いにより一台
の受信器(ハイドロフォン)で6器のトランスポンダを使用できます.
論文番号 90
著者名 小松利光・安達貴浩・柴田敏彦・松永英伸・朝田 将・室永武司
論文題目 気泡噴流を用いた河口部塩水侵入の人工制御
討論者 武田 誠 (中部大学・工学部土木工学科)
質疑
実際の場に適用した場合の問題点と魚の遡上への影響について教えてください。
回答
まず、実際の場に適用した場合の問題点としては、以下の2点が考えられる。
1. コストの問題
エアレーションを行うのに高圧コンプレッサーを用いるため、施設に対する初期投
資と電気代等の運転コストがかかる。連続的な気泡の発生を行うと、莫大な電力を消
費するものと思われる。
2. 景観上の問題
気泡を川幅方向に発生させるため、河川を横切るように水表面に白い泡の筋が生じ
る。そのため、人工的な印象を強く与えることになり河川の景観を損なう恐れがある。
次に、魚の遡上についてであるが、実験によりエアーカーテンに対するシラスウナ
ギと鮎の稚魚の反応行動について調べたところ、それ程影響がないことが明らかにな
っている。また、塩水侵入対策として実際に気泡噴流を発生させた川内川において、
気泡発生の有無によって漁獲量に大幅な変化が見られないことが分かった(詳細は、
次回の海講で紹介する予定です)。よって、気泡噴流が魚の遡上に及ぼす影響はほと
んどないものと考えている。
論文番号 91
著者名 加藤 始,長山英樹,信岡尚道,森 正和
論文題目 風波の発生・発達に及ぼす温度成層の効果についての研究(2)
討論者 吉岡 洋 (京大 防災研究所)
質疑
高潮の計算をする場合,風速,フェッチともに大きいと考えられるので,温度成層
の効果は無視してよいのか.
回答
本論文では,温度成層が発生波の大きさに及ぼす影響は,風速,フェッチが大きく
なると非常に小さくなったことを述べています.しかし一方で,風の摩擦速度には風
速,フェッチに関係なく,温度成層の影響が出たこと(図-5,6)も示しています
.本論文の範囲では,小型の風洞水路の中での発生波しか取り扱っていませんし,摩
擦速度に差が出るのに風波の大きさに差が出なかった理由は明かになっていません.
また著者らは,本論文の結果が現地の風波に温度成層の効果があまり出ないことを意
味するとは必ずしも考えて居ません.
ところで高潮の発生をもっとも支配している自然外力は,風のせん断応力すなわち
風の摩擦速度と考えられますから,本論文の結果を現地の高潮の計算と関連づけるな
らば,むしろ,本論文の結果は「高潮の計算に温度成層の効果は無視出来ない可能性
を示唆した」となると考えます.
論文番号 92
著者名 八木宏,緒方健太郎,日向博文,灘岡和夫
論文題目 風が引き起こす非成層期の沿岸境界層の基本特性
討論者 吉岡 洋(京大・防災研)
質疑
移動限界水深より深いような海域において,砂を動かす流れにコリオリ力が効いて
いないとする結論した経緯について説明されたい.
回答
本研究は,開放性沿岸域に風によって引き起こされる流れ(吹送流)が陸岸の影響
をどのような形で受けているかということを数値実験によって検討したものである.
陸岸の効果としては,(1)海陸境界部における不透過条件,(2)浅海部の海底摩擦効果が
考えられるが,本研究では,これまで曖昧に取り扱われることが多かった海底摩擦,
そしてそれに密接に関連した鉛直運動量輸送の効果をできうるだけ正確に評価するた
めに,クロージャー型乱流モデルであるk-eモデルを導入し検討を行った.その結果
,沿岸方向の力のバランスを考えると岸近くには風応力と底面摩擦力のバランスが主
体となる沿岸境界層と呼べる領域があり,風速レベルによっては,それが砂の移動限
界を越えるような深い海域(海岸工学にとって)にまで及ぶことを数値実験結果から
示したものである.今回の検討は,沿岸に平行な風についての定常状態の検討が主体
であり,今後はより実際の状況に近い非定常性の強い風速場において陸岸近くの吹送
流が陸岸の効果をどのように受けるかを検討する予定である.
論文番号 97
著者名 張 達平・佐藤愼司・山本幸次・田中茂信
論文題目 不規則波による浮遊砂輸送とバー地形の発達に関する大型実験
討論者 合田良實(横浜国立大学)
質疑
図−8,9の結果について2点ご質問します.
(1) 斜降渦による浮遊砂濃度が水平渦によるものよりも小さいのは,水路横断方向
で見たときに前者は3次元的な現象であるために局所的な巻き上げが水路幅全体に平
均化されることが一つの理由ではないかと思われますが,いかがでしょうか?
(2) Co=4kg/m3 という実測値は,今後の浮遊漂砂量の定式化にとって重要な意味を
持つと思われますが,定式化についてのお考え,特にシールズ数との関係等について
お聞かせください.
回答
(1) ご指摘の通りで,水平渦は底面を2次元的に掃くため,砂を巻き上げる効率が
大きいのに対し,斜降渦は,砂面の一部のみに竜巻のように作用し砂を巻き上げるの
で,巻き上げられる砂の総量は少なくなります.渦の個数とともに,このような渦の
質が浮遊砂濃度に大きな影響を与えています.
(2) 底面付近の浮遊砂濃度については,現地規模の条件でのデータが極めて少なく
,モデル化を行なう上での本質的な障害となっていました.今回の実験では,限られ
た条件ながら現地規模のデータが得られたことで,モデルの検証などに使える貴重な
情報が得られたものと考えます.モデル化については,従来のシールズ数を基本とす
るモデルと,乱れ強さや組織渦の効果を基本とするモデルなどを比較・検討し,現象
を素直に記述できるモデルの枠組から考え直してみたいと考えています.
討論者 池野正明(電力中央研究所)
質疑
可視化された実験結果によると,バー形成点付近では砕波により斜降渦が発生し,
バーがさらに発達すると,大規模な水平渦が発生する割合が増し,浮遊砂濃度も大き
くなるようですが,これらの渦と,いわゆる「砂漣上で発生する渦」とは異なるもの
なのですか?
回答
異なるものです.砂漣上で発生する渦は,本実験では,砕波帯外の沖浜領域では観
察されましたが,砕波帯内では明瞭には観察されませんでした.本論文で議論してい
る「渦」はすべて,砕波に伴って水面から発達してくるもののことです.
論文番号 98
著者名 後藤仁志,酒井哲郎
論文題目 粒状体モデルによるsaltation・sheetflow共存域の数値解析
討論者 池谷(鹿島・技研)
質疑
粒状体モデルにより,実際の砂地盤の特性をどの程度表現できるか.どのような検
討をされているか.
回答
ご質問中の『実際の砂地盤の特性』とは具体的に何を意味しているのかが不明で的
確に
回答できません.一般論として述べるなら,漂砂の流動モデルに粒状体モデルを
用いることの意義は,離散的な粒の集合体としての漂砂・流砂の本質(すなわち粒子
間衝突)を的確に表現することにあります.特に,高濃度の流動現象であるシートフ
ロー漂砂を取り扱うには,流体・粒子の相互作用を記述する固液混相流モデルととも
に粒子間干渉を適切に記述できる粒状体モデルの導入が不可欠です.
論文番号 99
著者名 酒井哲郎,後藤仁志,松原隆之
論文題目 振動流・水圧変動共存場における砂漣上の浮遊過程
討論者 佐藤慎司(建設省・土木研究所)
質疑
砂漣の非対称性について,通常現地や実験室で観測される非対称砂連と逆向きの非
対称性を持つことになる.実現象との対応はどう考えれば良いのか.
回答
ご指摘の『通常現地や実験室で観測される非対称砂連』の向きとは,底面近傍流速
の非対称性が顕著な場において生じる非対称砂漣の向きが本論文で報告したものと逆
向きであることかと考えます.まず,ここで対象とする場は,水圧変動と振動流がと
もに同位相の正弦波に従って変動する場であり,底面近傍流速に非対称性はありませ
ん.さらに,振動流装置を用いると空間的な圧力勾配はゼロとなり,この点も通常の
波動場とは異なっています.ここで対象とした砂漣形状は,所与の水理条件下で実際
に形成された砂漣のものであり,対象とする水理条件で生じる移動床現象の必然的結
果であることは間違いありません.『実現象(現実の海浜での砂漣上の土砂輸送)と
の対応をどう考えれば良いのか』という点ですが,実現象を支配する場には,砂漣の
非対称性に起因する剥離渦のスケールの非対称性,それに伴う浮遊砂雲のスケールの
非対称性,水圧変動に関連した表層土砂の見かけ上の移動抵抗の増減とそれに起因す
る浮遊砂雲の初期含有浮遊砂量の非対称性,底面流速の非対称性(有限振幅性の影響
,戻り流れすなわち一方向流の影響)など,岸沖で非対称な土砂輸送を生じさせる多
くの要因が介在しています.
著者らは,これらの効果が土砂輸送に果たす役割を個別に検討して,複雑な機構を
段階的に明らかにするアプローチを行っております.室内実験の意義は,現地を真似
ることではなく,現地の状態を支配する要因をコントロールしながら,場を決定付け
る普遍的メカニズムを探ることにあると著者らは考えます.ここでの結果は,そのプ
ロセスの一部であり,現地の状況に直接には対応していないこととなります.