論文番号 81

著者名 灘岡和夫・内山雄介・東川孝治

論文題目 海岸域における風の場の3次元構造に関する検討

討論者 田中昌宏(鹿島技研)

質疑

 現地の風速計データの時系列などから渦のスケールを検討できないか?

回答

 本文中でも記述しているように,風速の時系列データから推測される渦の周期は約23分程度であると考えられる.簡単のため,Taylorの凍結仮説により平均風速と渦の移流速度とが等しいと仮定すると,移流速度および周波数を用いて算定される渦の空間スケール(水平)は概ね800m程度と見積もられる.

一方,本研究で着目した海岸域における植生帯まわりの風速場が平面2次元的なせん断流であるという大胆な仮定を導入すると,観測された平均風速分布からせん断不安定により発達する渦の卓越周波数を算出することができる(Ho and Huerre1984Ann. Rev. of Fluid Mech.).その結果,渦の卓越周期はおよそ23分程度と算定され,時系列データから読みとられた渦の周期とオーダー的に概略一致する.このことから,本文中でも述べているように,この周波数帯で見られる風速変動の生成原因として,大気−植生境界部のせん断不安定メカニズムが関与している可能性が考えられる.しかしながら,LESによる計算結果からも明らかなように,対象とした流れ場は極めて複雑かつ3次元的な乱流構造を有しており,このような単純な議論だけでは流れの構造を明確にすることはできない.また,植生帯と平行に一般風が連吹するという本文中の数値計算で与えた条件は,実現象としてはそれほど頻繁に見られるわけではない.事実,本研究における現地観測でも,植生帯と平行ではなく,やや岸から沖へ向かう風向の風が卓越していた.つまり,今回示した解析例は海岸域における風速場の3次元構造の一端を示すものであり,今後より詳細なデータの取得・解析,および実スケールでの乱流計算を実施しながら海岸域特有の風速場の構造を明らかにしていく必要があるものと考えられる.

 

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