論文番号 223

著者名 佐々木 淳・磯部雅彦・渡辺 晃・五明美智男

論文題目 東京湾における青潮の発生規模に関する考察

討論者 稲垣 聡 (鹿島建設)

質疑

 1. 8月と9月で風の状況は類似している(南風の連風の後,5m/sの北風が連風する)にもかかわらず,9月のみ大規模青潮が発生している,ということは,「予測」ということを考えた際,どのような項目を押さえなければならないのか?

 また,9月の侵入塩水濃度が高かったのは何か理由があるか?

 2. 1に関連して青潮の現象は「予報」できるレベルまできているのか?まだの場合,その課題は?

回答

 8月と9月の青潮の規模の違いが見られたことに対する力学的な要因については今後検討していく予定である.「予測」を数値モデルによる予測と考えれば,本研究により気象および潮汐のデータを入力することで発生海域および規模の相違を予測することが可能となっていると考えている.その際に本論文でも述べているように,硫化物がどのように分布していたかという情報が必要である.よって,今後精度を高めていく上で最も重要なのは硫化物分布を精度良く把握することであると考えている.また,湾口における境界条件も不明な点が多く,今後の研究が期待される.さらに,本モデルでは時時刻々の気象データが必要であることから,未来を予測するためには気象予測が必要となってくる.そのため青潮予報の精度は気象予報の精度にかなり依存してしまうことも否定できない.

 「青潮予報」ができるかどうかは程度問題であると考えている.発生するか否かというだけであれば,数値モデルを動かさなくともかなり高い精度で予報できるであろう.硫化物の分布をある程度把握できた上で,数値モデルを動かせば発生場所や規模も含めてかなりの精度で予測可能と考えられるが,その際入力する必要のある気象データがどれくらいの精度で得られるかが問題となる.気象データの予測誤差を考慮した上でどの程度の青潮予報の精度が得られるか検討していく必要があると考える.

 9月における侵入水塊の塩分が8月に比較して高かったことについては,数値モデルでは明確には再現されていない.これは湾口における境界条件に大きく左右されると考えられるが,これまでに得られている断片的な現地データから推測すると,一般に8月に比べて9月の方が湾口における塩分が高いと考えられ,その結果9月時の塩分が8月時に比べて高くなったものと推測される.

 

討論者 加藤 始 (茨城大学工学部)

質疑

 図-7の吹送流の分布(放物線型)は現実の吹送流の分布形と違いすぎないか.(表面付近の鉛直勾配はもっと大きいし(これは言わなかったことですが,通常対数分布になることがわかっている),底層付近の勾配も大きい等)

 会場での答

 解析解と同じ条件(Az=const)で求めたもので,これが水路での吹送流の現象を表すかどうかは問題にしてない.数値計算の結果は現地観測結果(水温・塩分のことか)で検証している.

 以上のやりとりをふまえて

 数値モデルの中で吹送流はあまり重要なファクターではないのでしょうか?あるいはオーバーオールに結果がほぼあっていれば,吹送流の分布形は正確でなくてもよいということですか.

 吹送流の表面流速は現地観測結果でも風速(U10 or U5 ----- どちらでも大差はない)の34%という結果が従来得られている.論文中の式(18)の定義ではどの程度になりますか.

回答

 解析解との比較図はモデル化が正しいかどうかではなく,プログラミングが正しいかどうかをチェックするためだけのものである.吹送流は内湾の流動場を考える際に非常に重要なファクターであると考えている.数値モデルが実際の吹送流を十分に再現しているかどうかを,水路実験におけるデータと比較するのも一つの方法であると思われるしかし,水路実験結果をよく再現できる渦動粘性係数モデルであっても,それをそのまま現地に適用できるとは考えにくい.海洋には海洋特有の乱れがあり,密度分布や潮汐等により吹送流場は大きく影響を受けている.そのため,現地の現象を再現するには現地観測結果との比較を通して,モデルを構築していくのが自然であると考えている.ただし,将来,現象のスケールや密度分布等に関わりなく適用できる極めて汎用的な乱流モデルが開発されれば,水路実験結果を再現するモデルをそのまま現地に適用することができるようになるかもしれない.そのときは,水路実験結果を再現するというのも有力な検証法になるものと思われる.

 吹送流の表面流速は(18)式を用いると論文中に示した計算条件であれば風速の約3%となっている.ただし,繰り返しになるがこれは渦動粘性係数が一定であると仮定して導かれた解析解であるので,その仮定の成立しない現地の現象とは無関係である.

 

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