序文 (喜岡 渉,平成18年10月)


海岸工学論文集第53巻には418編の応募論文があり,第一段査読,第二段査読の結果,288編の論文を登載した.登載論文の内訳は,波・流れ・乱れに関する論文81編をはじめ,漂砂52編,構造物・施設46編,沿岸域の環境と生態系70編,地球環境問題8編,沿岸・海洋開発1編,計画・管理13編,災害調査報告5編,計測・モニタリング・実験手法・情報処理12編となっている.採択率は全体で見ると69%である.前巻と比べて,沿岸域の環境と生態系に関する論文が8編の増,地球環境問題についても5編増えたが,速報性が重視される災害調査報告の論文は8編の減であった.海岸工学講演会では,3日間にわたりこれら全ての論文の発表が予定されている.毎年これだけの数の論文が発表される以上,海岸工学における技術的課題はもう少しどんどんと解決されていってよいのではという声がある.科学技術の他分野ほどではないにせよ,海岸工学においても基礎研究と現場研究の間に壁が存在するようである.幸い海岸工学講演会では,例年,産官学からの調査研究の成果のみならず,計画・設計や施工・維持管理に直接係わる海岸の実務サイドからの多くの発表や討議によってセッションが構成されている.海岸工学論文集と講演会の特長を活かし,今後もさらに基礎研究と現場研究,一般論と各論との融合を図ることによって,学術・技術の先端性とともに事業への展開性の確保,すなわち技術発展に期待される研究の推進に努めたい.

前回の講演会でお知らせした通り,本論文集から査読プロセスを電子化した.土木学会においても各委員会の運営経費が削減されつつある中,論文集のさらなる品質向上を目指し,さらには将来の論文集の完全電子化に備えるためである.編集コストを削減し,論文集の販売価格を下げることによって,論文集購読数の拡大を図った.第一段査読(論文要旨)を経て第二段査読(本論文原稿)で掲載の可否が決定されること,第一段査読で採択となっても第二段査読で返却となる論文があることは従来通りであるが,本論文集からは編集プロセスの効率化を図るために主査制を導入した.各論文の担当主査が第二段査読における査読意見を総括し,修正意見に関して著者と直接連絡を取り合うことによって,より丁寧な編集を行った.さらに,査読審査項目の明確化と厳正な査読プロセスは,海岸工学論文賞の新設につながった.本論文集の掲載論文で,かつ講演会において発表を行った論文のうちから「海岸工学における学術・技術の進歩発展に寄与し,独創性および将来性に富むものと認められるもの」を査読結果に基づき3編程度選出し,講演会期間中に開催される海岸工学委員会で決定した論文の著者に海岸工学論文賞を授与するものである.このところ参加者が激減する傾向のある講演会最終日に授賞式を開催予定であり,講演会3日に渡る活発なセッション運営にも一役買ってもらう作戦である.

海岸工学委員会では,本年度,広報小委員会が中心となって土木学会重点研究課題「海岸防災・利用の調査研究における市民とのインタラクティブ研究モデルの開発−津波防災を例に−」に取り組むことになった.海岸における防災や利用にとって問題となる,一般市民と研究者や行政が認識する的確な情報や知識のずれについて調査検討を行い,これを最小に抑えながら研究の方向性を修正していく手法を検討することを目的としている.一方で国際活動の推進については,まず本年で48巻を重ねるインターナショナルジャーナル Coastal Engineering Journal を年4回発行している.また,アジア諸国への学術・技術情報の発信機能の強化のために,アジア・太平洋沿岸域を対象とした国際会議 International Conference on Asian and Pacific Coasts (APAC) を隔年で開催しており,2007年は中国・南京で開催予定(http://www.apac2007.com/)である.国際化に向けて,これら英文論文集へのさらなる論文投稿と会議参加をお願いする次第である.