序文 (酒井哲郎,平成12年10月)

昨年9月24日早朝台風18号が熊本県に上陸し、さらに山口県宇部市に再
上陸した後日本海に抜けた。熊本県では高潮で12名が水死した。高潮災害
は昭和34年の伊勢湾台風によるものが甚大で、その後の高潮対策の発端と
なったものである。しかしながらその後日本では対策の結果大きな高潮災害
は発生せず、むしろ津波災害の方が関心を集めてきた。結果論ではあるが、
昨年の台風18号による災害は高潮災害対策が十分でなく、今後も起こりう
ることを示した。どちらかと言えばこれまでは東京湾、伊勢湾、大阪湾のよ
うな大都市を背後に有する沿岸域での対策が進められてきたが、これからは
この3大湾を含めた日本各地の海岸でのソフトな対策を含めた対応が求めら
れる。

ところで海岸工学委員会の2つの研究小委員会、研究現況レビューおよび地
球環境問題研究小委員会はともにその第3期の活動をほぼ終了しつつあり、
今後の中長期計画としてあらたな小委員会活動のテーマを模索している。現
在のところ以下の3つのテーマが挙がっている。

1つは昨年の論文集の序文でも述べたように、昨年度海岸法が43年ぶりに
本格的に改正されたことを踏まえたものである。すなわち改正された海岸法
では、国が決める海岸保全基本方針に基づき、あらたに区分された一体の海
岸ごとに、都道府県知事が海岸保全基本計画を定めることになっている。そ
の際、関係市町村長、関係海岸管理者、および必要に応じて学識経験者の意
見を聴くことになっている。これまでにも学識経験者の意見の聴取はなされ
ていたが、今後は土木学会海岸工学委員会としてもこのような情勢の変化に
対応できるよう準備する必要がある。このような立場で新たな活動を開始し
ようとしている。

2つ目の活動は、すでに前委員長からの引継ぎ事項としての日中韓3国の海
岸工学研究者の交流促進という動きである。この話は Coastal Engineering Journal
の販路拡大とも関係するが、いずれにせよ日中韓3国だけでなく広くアジア
地域の海岸工学研究者の交流として考えるべきことであることから、その方
向性の検討を開始しようとしている。

3つ目は、他学会との協力体制である。地球環境問題研究小委員会の第3期
の活動のまとめとして、この7月に開催された土木学会を含む4つの学会の
主催によるジョイントシンポジウムの成功をもとに、新たに他学会と協力し
て海岸工学の新しい分野の展開を図ることが考えられている。

ところで海岸工学論文集の採択率であるが、今回の論文採択においては査読
における6段階評価はあくまでも絶対評価であり、採択すべきであるという
評価が50%を上回る合計点18点以上の論文は、会場数を増やしても必ず
採択するという方針を明確にして査読を行った。その結果66%の採択率と
なりある程度妥当な線を確保できたと考えている。採択論文数が増加しなか
ったため、第5会場は2日目のみとなったが、今年はこれで様子を見てみた
い。

今回の海岸工学講演会は、平成6年に日本で開催された第24回海岸工学国
際会議と同じ神戸国際会議場で開催されるが、海岸工学講演会としての神戸
開催は第1回(昭和29年)と第3回(昭和31年)以来ということになる。
神戸港や東播海岸など海岸工学に関係の深い土地である。運輸省第三港湾建
設局、建設省姫路工事事務所、神戸市に大変お世話になった。厚く御礼申し
上げたい。また論文集の刊行に当たって、論文査読者各位、論文集編集小委
員会および土木学会事務局の御尽力、ならびに業界案内を通しての民間各社
・各種法人からの御支援に対し謝意を表したい。


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