序文(酒井哲郎,平成11年10月)

日本の海岸法が今年改正された.昭和31年に制定されてから43年ぶりの本格的改正で
ある.法律が改正される事自体大変な作業であって,関係各位の御努力に敬意を表し
たい.当初の台風や大地震による高潮や津波から海岸背後地の人命や資産を防護する
という役割から,広域的に顕在化する海岸侵食の進行,海洋性レクリエーション需要
の増大,海岸環境への認識の高まり,さらに地方分権化の推進を踏まえて,防護に加
えて利用,環境の2つのキーワードを加えたものである.実際の行政ではすでにこれ
らのことは先取りした形で行われていた面もあるが,法的に明確になった点は大きい.

本講演会においても上記の情勢の変化に応じた研究がなされ,その結果として講演会
への応募論文数は増加の一途を辿ってきた.さらにその成果を実際の海岸行政に反映
するべく,昭和44年の海岸保全施設設計便覧改訂版に続く新たな海岸施設設計便覧の
完成が間近い.

ところで今回の海岸法の改正に伴っていわゆる学識経験者と行政との関係に関して変
化が生じた.新たな海岸保全の計画制度では,国が海岸の保全に関する基本的方向性
を明らかにするため,その共通の理念となるべき海岸保全基本方針を定めるが,さら
にこれに基づき,都道府県知事が計画的でかつ整合がとれた海岸の保全を行うため,
海岸保全基本計画を定めることとした.定めるに当たっては,地域の意見,専門家の
知見を反映させるため,関係市長村長,関係海岸管理者とともに学識経験者の意見を
聴取する手続きを導入することとした.これまでも専門家として意見を述べる機会は
あったが,これからは法的に認められたことになる.その一方で専門家として責任あ
る対応が不可欠である.

海岸工学講演会の運営に関しては,すでに昨年の論文集の序文に述べられているよう
に応募論文数の増加の結果採択率の低下をもたらし,今年も60%をやっと確保出来た
に過ぎない.この問題の解決に関しては委員会を中心に議論を続けているが,何らか
の具体策を試行すべき時期が近づいているように思われる.

さて今回の海岸工学講演会は,昭和50年の第22回の鳥取市での開催以来の鳥取県米子
市での開催である.米子と言えば,新潟海岸とともに日本に於ける海岸工学の発祥の
地の1つとされている皆生海岸が近い.海岸法の改正の年に皆生海岸の近くで講演会
の開催となったが,これもひとえに鳥取大学の方々の御尽力によるものである.さら
に建設省中国地方建設局,運輸省第三港湾建設局,鳥取県,米子市に大変お世話にな
った.厚く御礼を申し上げたい.また論文集の刊行に当たり,論文査読者各位,論文
集編集小委員会および土木学会事務局の御尽力,ならびに業界案内を通しての民間各
社・各種法人からの御支援に対し謝意を表したい.

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