序文 (西村仁嗣,平成9年11月)

我が国の土木学会にあって,海岸工学分野は必ずしも長い伝統を持つ分野と
は言えないが,それでもその歴史はかれこれ半世紀に及ぼうとしている.と
りわけ過去の四半世紀を振り返ると,年々の発展はまことに目覚ましいもの
であった.これに伴って,本論文集も改称を重ねつつ質量両面で充実の度を
増しながら,今年で第44巻を発刊する運びとなった.斯界の今日を築いて来
られた先人・同輩の諸兄に改めて畏敬の念を抱くものである.

全世界を見渡しても,国土・産業の形態,また防災の視点から,我が国ほど
海岸工学の重要度の高い国は多くない.この事実が,否応なく我々の技術・
研究の進展を促して来たと言えよう.そして,我が国におげる海岸工学分野
の研究成果は,殆どと言ってよいほどこの論文集に集約されている.これは
我々にとってまことに誇らしく,同時に都含のよいことでもある.これらの
成果は学会諸刊行物の編纂に当たって先ず参照され,また現実の海岸事業の
技術的土台ともなっている.

年ごとの論文集を概観すると,各方面の研究の大幅な進展と一時的停滞の経
緯がそこはかとなく浮かび上がってくる.近年に至っては,海洋工学・海岸
環境等のキーワードで括られるような新しいテーマへの挑戦,あるいは海外
での土木事業に向けた新たな知見の報告が数多く見られるようになった.今
後は,この論文集も,波・流れ・漂砂・海岸構造物といったお家芸の分野で
の更なる発展に資するのみならず,より広範な技術領域で他の論文集と仕事
を分かち合う姿勢を併せ持って行かねばならない.こうして他国に類を見な
い充実した海岸工学論文集,ならびに関連刊行物を編みつつある我が国とし
ては,これらの成果と活性を世界に発信する責務をも負っている.当委員会
としては,日本の特徴とさえ言われるこの面の弱点を克服するべく,英文誌
の飛躍的な革新を目論んでいる.すなわち,土木学会が刊行する一連の英文
誌の一翼を担う形で,誌名も従来の"Coastal Engineering in Japan"を
"Coastal Engineering Journal"と改め,毎年4号の発刊とする方針である.
本論文集から代表的な論文を選び,招待論文として掲載することも考えてい
るので,関係諸氏の一層の御協力をお願いする次第である.

さて,今回の海岸工学講演会は,開びゃく以来の海なし県での開催となった
が,これはひとえに岐阜大学を始めとする中部地区の大学の方々の御尽力の
賜物である.また,その実現に当たっては,建設省中部地方建設局,水資源
開発公団中部支社,日本土木工業協会中部支部,ならびに財団法人岐阜コン
ベンション・ビューローより多大の御支援を頂いた.末筆ながらここに記し
て深甚の謝意を表する.


委員会トップページへ戻る

海岸工学論文集と講演会へ戻る

海岸工学講演会の歩みへ戻る